Van Cleef & Arpels ヴァン クリーフ&アーペルが繋ぐ、コンテンポラリーダンスの未来。
Culture 2025.01.20
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ヴァン クリーフ&アーペルが振付芸術を支援する、ダンス リフレクションズの祭典が2024年に京都と埼玉で開催された。写真展を皮切りに、創造・継承・教育の指針からコンテンポラリーダンスを捉えたフェスティバルをダンス&カルチャー プログラム ディレクター、セルジュ・ローランのインタビューを交えて舞踊評論家の岡見さえと振り返る。
2020年に始動した現代ダンスをサポートするユニークなイニシアティブ、ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル。プロジェクトの柱のひとつであるフェスティバルが、京都での(ラ)オルドとアレッサンドロ・シャッローニという対照的な振付家の作品で幕を開けた。
「オープニングには、スタイルの異なる2作品を披露したいと思っていました。京都芸術センターの小空間を会場にしたアレッサンドロの作品は非常に親密ですが、ロームシアター京都の大ステージで上演した(ラ)オルドの作品は強烈で混沌としている。同日に2会場で上演し、フェスティバルとコンテンポラリーダンスの多様性を示したかったのです」
ダンス リフレクションズを統括するセルジュ・ローランは、ロンドン、香港、ニューヨークに続く今回の日本開催では、新企画が実現できたと言う。
「フェスティバルに対する私のキュレーターとしてのビジョンはいつも同じですが、プログラムを作る際には開催地の文脈を考慮しています。日本では、最新の作品と過去の作品の両方を上演することを試みました。これまでの経験から、コンテンポラリーな芸術を紹介する際には歴史性を示すことが重要だと考えているからです。(ラ)オルドの先端的な表現も、過去のダンスの歴史があってこそ生まれたもの。写真展の開催も日本が初めてです。ダンスフェスティバルに写真展があっても良いでしょう? オリヴィア・ビーの写真はただのダンス写真ではない、芸術作品です。写真を通してダンスの新たな見方を提示し、異なる芸術領域の繋がりを創造したいと考えました」
いま見るべきダンス作品を厳選し、キュレーションして提案するフェスティバルは、これまで開催地のアートコミュニティに強いインパクトを与えてきた。今回は、京都と埼玉の2都市展開も特徴だ。
「私たちのフェスティバルは、ローカルなパートナーとの連携が重要です。京都は今回提携したKYOTO EXPERIMENTとロームシアター京都の前ディレクター橋本裕介さんとの10年以上の縁があり、彩の国さいたま芸術劇場は長年舞踊部門のプロデューサーを務めていた佐藤まいみさんとのさらに長い信頼関係から生まれています。ダンスを上演するだけではなく、こうした繋がりからさまざまな新しい出会いを作り出し、ダンスのコミュニティを形成していく。これもダンス リフレクションズの仕事だと考えています」
人との繋がりは、ダンスのキーワードでもある。特にコンテンポラリーダンスは、国際フェスティバルやツアーによるアーティストの移動と交流によって発展してきた。
「振付家は日々の生活からあらゆるものを吸収し、作品を創造しています。作品はもちろん、私はこうした創造の契機に魅惑されるのです。アーティストは私たちと同じ世界を生きているのに、私たちがまったく考えたことのないものを見せて、私たちの心を開く。アーティストは旅し、今日のグローバルな世界で異なる文化が交わるインパクトはさらに大きく、革新をもたらします。マルセイユ拠点の若い(ラ)オルドと、イタリアでキャリアを積んできたアレッサンドロが以前から知り合いだったとは日本に来て初めて彼らから聞きましたが、人と繋がることでアーティストはそれぞれの世界観を広げ、独自性を定義するのだと思います。振付家はフェスティバルで学び、新しい世界を拓く。フェスティバルには、作品上演と、人々の繋がりというふたつのレイヤーがあるのです」
セルジュ・ローラン/ヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクター。カルティエ現代美術財団アソシエートキュレーター、ポンピドゥー・センター舞台芸術企画部門を経て、2019年に始動したダンス リフレクションズの総指揮を取る。
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3つの指針からフェスティバルを振り返って――。
Creation_創造
フェスティバルで上演された8つのダンス作品は、真摯な美の探求から独創的な世界観を紡ぎだすヴァン クリーフ&アーペルの歴史と響き合い、ダンスにおける創造の多様性と唯一無二の価値を示した。
初来日の(ラ)オルドは、デジタルネイティブの圧倒的支持を得るコレクティブ。3名が共同で制作し、彼らが「身体の思想家」と呼ぶ16カ国から集まったバレエ団のダンサー28人との対話によって創造されたムーブメントは、いまを生きる身体の切実な叫びにほかならない。『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』では、舞台上のローンの壮大な電子音楽のライブとダンスが切り結び、廃墟と化した世界に射す光/希望のテーマを力強く歌い上げた。
久々に来日した世界的振付家たちも、創造性の深化を印象づけた。マチルド・モニエが造形美術家と協働した『ソープオペラ、インスタレーション』は、舞台を埋める大量の泡の造形美が幕開けから観客を圧倒。コンビネゾンに身を包んだダンサーが泡から現れ、音もなく消えていく泡を相手に踊り続ける行為そのものが、瞬間ごとに生成と消滅を繰り返す舞踊の美の宿命を象徴するようで特別な余韻を残す。
クリスチャン・リゾー振付『D'après une histoire vraie―本当にあった話から』では、何もない空間で何の変哲もない人々が出会い、徐々に心が通うと、互いの身体が共鳴し、共生の喜びに満ちたダンスが誕生する。これは架空の民族舞踊であり、舞台という虚構。でも誰もが経験し得る、"本当にあった話"なのだ。
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Transmission_継承
時間をかけて洗練された美への感受性と研ぎ澄まされた技術を、次世代へと繋ぐこと。ハイジュエリーメゾンは、継承のフィロソフィを芸術の世界と共有している。ルーヴル美術館の付属学校で美術史を学び、美術館のキュレーターのキャリアを持つセルジュ・ローランが提案するダンスプログラムにおいても、"継承"は重要な概念だ。
アレッサンドロ・シャッローニの『ラストダンスは私に』は、20世紀前半に北イタリアで盛んに踊られたのちに廃れたポルカ・キナータを復活させ、継承する。男性ふたりが組み合って激しい回転の技巧を見せるダンスは、男女がペアで踊ることが禁じられていた時代に生まれた男性が女性にアピールする手段だった。「伝統を、生きている姿で見せたかった」というシャッローニは古老に学んだポルカ・キナータの振付に電子音楽を纏わせ、ニュアンスに富む現代的なデュエットを創造した。
19世紀末から20世紀初頭に"サーペンタインダンス"を考案してヨーロッパを席巻した伝説の舞踊家ロイ・フラーのリサーチから生まれたオラ・マチェイェフスカの2作品も、継承のコンセプトを体現している。『ボンビックス・モリ』では、3人のダンサーがフラーのアイコンだった全身を覆う大きな黒いシルクのマントを纏い、左右の袖に縫い付けられた棒を上下左右に動かして有機的なフォルムを次々と生む。身体と物質のミニマルな表現がアールヌーボーを再解釈し、新たな美が誕生した。
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Education_教育
「コンテンポラリーダンスって何?」という質問に、明快な答えを返せるだろうか? 確かに、バレエに始まる舞踊芸術の歴史の先端で、同時代と対話し多様化するこのジャンルを把握するのは容易ではない。そこで、ダンス リフレクションズは実践と知識の両面から、コンテンポラリーダンスを学ぶ機会を提供している。
今回のフェスティバルでは、各公演で振付家や出演ダンサーによるワークショップとトークが行われた。ワークショップはダンス経験者/未経験者それぞれに向けて用意され、参加者は作品のエッセンスを体験し、ダンスに対する新たな視座を得る。公演後の熱気冷めやらぬオーディエンスを前にして振付家が上演作を語るトークも、言葉を持たない芸術であるダンスを言語化し、観客が自分の言葉として理解する手助けをしてくれている。
劇場を飛び出し、京都と代官山の蔦谷書店ではセルジュ・ローランとKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭共同ディレクターのルシール・レイボーズと仲西祐介のクロストークも開催された。写真展『その部屋で私は星を感じた』での協働、空間と身体やオブジェの関係性へと話題は展開し、写真とダンスの新たなコラボレーションの可能性を予感させた。
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text: Sae Okami