モニカ・バルバロが語るジョーン・バエズという生き方。
Culture 2025.02.22
コロナ禍を挟み、俳優と監督が5年半をかけ向き合った映画『名もなき者』。ボブ・ディランの運命を揺さぶるシンガー、ジョーン・バエズを演じたモニカ・バルバロにインタビュー。
"ふたりで「風に吹かれて」を
歌ったことは、人生が変わるような経験"
モニカ・バルバロ
キャリア初期のボブ・ディランに影響を与えたもうひとりが、フォーク界で唯一無二の存在のジョーン・バエズ。ディランと同じ1941年生まれのバエズは、10代にして歌手として成功を収め、60年代初頭にはすでにフォークの女王となっていた。演じたのは、大ヒット作『トップガン マーヴェリック』(22年)のパイロット"フェニックス"役でブレイクしたモニカ・バルバロだ。
「この作品に出演することが決まってから、あらためて彼女の回顧録を読み、ドキュメンタリーを観てリサーチを重ねましたが、夢中になりました」
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歌もギターも初めて学んだ、努力家で自尊心の強い俳優。
マンゴールド監督は「バルバロの中にバエズを見いだした」と確信を持って語っていたが、バルバロ自身も彼女との共通点を感じていたようだ。
「エネルギーや本質的な部分で、彼女と似たところがあると感じていたんです。彼女も努力家で、非常に独立心の強い人。私もそうです(笑)」
バルバロは自身が体現したバエズが持つエネルギーや存在感についてこう解説する。
「あまり映画には登場しない側面ですが、彼女は素晴らしい活動家でもありました。インタビューで彼女が言っているように、彼女は歌手より活動家になりたいと強く思っていて、それは年々、より顕著になっていった。そして、彼女が歌っていたのは、昔ながらのフォークソングのようなものだったのですが、そこにボブ・ディランという素晴らしい作家が現れた。バエズにとって彼は、声を本当に重要な形で表現する作家であったんです」
バエズにとってディランとの関係は、幸福に満ちたロマンティックなものとは到底言えない複雑なものだった。
「チェルシーホテルでのふたりのシーンがその象徴のひとつでしょう。ボブは夜通し書き続け、誰がそばにいようがおかまいなし。自分の音楽と執筆に夢中だった。彼女は、彼のそういうところも本当に尊敬していたのだと思う。でも、午前3時には部屋を出ていってしまう。とはいえ、彼らは友情も保ち続けており、それは本が何冊も書けるほど、本当に興味深いと思います。彼らはキャリアの中で何度も一緒になったり離れたりを繰り返してきましたが、常に素晴らしい創造的な、啓発的な方法で、それぞれの章を歩んできたのです」
このプロジェクトにおける最大のチャレンジは、もちろん歌うことだったという。しかも、ギターを弾きながら歌うことが、フォークシンガーであるバエズには欠かせない。映画を観た人は驚くかもしれないが、この役柄のためにバルバロは歌もギターもいちから学んだのだ。
「プロのミュージシャンにとって、楽器は自分の身体の一部のようなもの。ひたすらトレーニングを積み、自分の声に自信を持つように努めました。彼女の声がどこから来たのか、なぜ彼女がそれを大切にしていたのかを理解したかった」
ティモシーとのデュエットは、映画の中でも最も魅力的なシーンだ。
「誰かと一緒に演奏したり歌ったりすることは初めてで、それは人生を変えるようなものでした。ティミーとはお互いが音楽的に熟達した段階になって初めて会いました。それがよかった。ボブとジョーンも、熟達したミュージシャンになってから初めて出会ったから。最初に会った時、音楽のリハーサルだったのですが、エネルギーに満ちあふれた、私がこれまでに携わったプロジェクトの中でも最高の瞬間でした。ふたりで『風に吹かれて』を歌う素敵なシーンがあって、それは私が取り組んだ中でいちばん好きなシーンかもしれません。ふたりが閉ざされた扉の向こう側で経験したであろうことを演じることができたからです」
Monica Barbaro
1990年、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。幼少期からダンスを始めバレエを学び、ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部でダンスの学位を取得。卒業後、カリフォルニアに戻りビバリーヒルズプレイハウスで演技を学び、ドラマにも多数出演。『トップガン マーヴェリック』(2022年)では部隊で唯一の女性パイロット"フェニックス"役として注目を集めた。次回作として『Crime 101』(原題)を撮影中。
*「フィガロジャポン」2025年4月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta photography: ©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved