小川哲が選ぶ、6冊の「考察&伏線回収が見事な本」とは?【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.14】
Culture 2025.09.07
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.14は「考察&伏線回収が見事な本」をテーマに、小説家・小川哲が選んだ本6冊を紹介。近年映画やドラマで話題にあがる考察&伏線回収を、今夏は本の中で味わって。
選者:小川哲(小説家)
考察&伏線回収が見事な本。
個人的に「伏線」という言葉はあまり好きではない。「伏線」を辞書的な意味で「後の展開のためにあらかじめ仄めかされた記述」と考えるのであれば、美しい文章はすべて「伏線」で成り立っているからだ。何気ない会話や描写は、その作品を構成する副次的な要素や象徴的なモチーフとなっているはず----と言いたい気持ちを抑えてなるべく企画の趣旨に合いそうな作品を選んだ。ここで僕が挙げた本を読むのもいいが、あなた自身が好きな本にどのような「伏線」があって、どのような「考察」が可能かを改めて考えるのも、きっと素晴らしい読書体験になるだろう。
1. 『六人の嘘つきな大学生』
浅倉秋成著 KADOKAWA刊 ¥1,760
「スピラリンクス」という会社の採用試験で最終選考に残った6人の大学生が、グループディスカッションによって6人の中から1人の内定者を決めるように通達される。それまで仲良くしていた6人は、たった1つの席を巡って競い合うことになる。議論の場に提出された「告発文」の内容や、「告発文」を書いたのが誰か、という犯人探しなど、二転三転しながらも予想外の結末が明らかになる、現代ミステリの傑作。
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2. 『息吹』
テッド・チャン著 大森望訳 ハヤカワ文庫SF ¥1,210
寡作のアメリカ人SF作家、テッド・チャンの短編集。映画『メッセージ』の原作者としても有名だろう。表題作の「息吹」は、語り手が生活している世界の仕組みが次第に明かされていき、読者はその世界の避けられない運命を知ることになる。技術や物理法則が提示する冷たい現実と、そこに生きる人々の慈愛を同時に描くことができる稀有な作家。本作と『あなたの人生の物語』の2冊を読めば、ほぼすべての著作を読むことができる。
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3. 『ドグラ・マグラ』
夢野久作著 角川文庫 上巻¥572 下巻¥704
『虚無への供物』『黒死館殺人事件』とともに、日本三大奇書と呼ばれている小説。記憶を失って精神科病棟で目覚めた「私」が、自身が関与すると思われる殺人事件の真相を求めていく作品。自分は何者なのか、担当医は何者なのか。そして、この場所で行われている「計画」とはどういうものなのか。作中作を含む断片的な情報を繋ぎ合わせ、「私」についてさまざまな考察が可能な、日本文学史に類を見ない作品。
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4. 『11文字の檻
青崎有吾短編集成』
青崎有吾著 創元推理文庫 ¥792
表題作の「11文字の檻」は、言論が統制された架空の社会において、危険思想の持ち主であるとしてある施設に収監された人物が主人公の作品。主人公が施設から釈放されるためには国家が設定した「11文字」のパスワードを当てなければならないのだが、このパスワードを当てるための推理と思考が面白い。なぜ危険思想の持ち主にパスワードを当てさせるのか、という点も含めて、考察しながら読み進めてもらいたい。
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5. 『言語の本質
ことばはどう生まれ、進化したか』
今井むつみ、秋田喜美著 中公新書 ¥1,056
言語学について書かれた新書で、今回のラインナップでは唯一のノンフィクション。言葉を持たずにこの世に生まれた赤ちゃんが、成長していく過程でどうやって言語を習得しているのか、という言語学の謎を、「オノマトペ」と「アブダクション推論」の2つの人間の力を軸に明らかにしていく。僕たちの人生そのものが「伏線」となっていて、その「伏線」を回収し、「言語」というものの本質に迫る素晴らしい本。
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6. 『わたしを離さないで』
カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳 ハヤカワepi文庫 ¥1,540
2017年にノーベル文学賞を受賞したイギリス人作家、カズオ・イシグロの代表作の一つ。「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている介護人のキャシーが、「ヘールシャム」という施設で過ごした幼少期を回顧しながら、自分たちの生い立ちに関する秘密に迫っていく小説。どこか浮遊感のある独特の語りによって過去の思い出が回想されていくたびに、キャシーやその友人たちが置かれていた現実が明らかになっていく。
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『ゲームの王国』(早川書房刊)が2018年に第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞。23年1月に『地図と拳』(集英社刊)で第168回直木賞受賞。近著に『スメラミシング』(河出書房新社刊)がある。
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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