夏の暑さをも忘れる「怖い」本を夜馬裕が6冊セレクト。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.2】

Culture 2025.08.14

知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.2は「怖い」をテーマに、怪談師、作家・夜馬裕が選んだ6冊を紹介。猛暑が続く日々、本とともにヒヤッと体験を......。


選者:夜馬裕(怪談師・作家)

怖い。

深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいている――。これは哲学者ニーチェの有名な言葉だが、「怖い本」から感じられる、恐怖、憎悪、陰鬱、悲哀、絶望といった胸をざわつかせる情緒のすべては、それを読む自らの心、そして自分を取り巻く現実世界の投影でもある。怖い話を通じて、私たちは自らを含む人の悪意や醜さ、人生の辛苦に触れているのだ。正しく美しい物語だけでは、傷ついた心は救われない。人の世で生きる苦痛を癒やすには、恐怖と悪意の物語のほうが役立つ時もある。そんな「怖い本」の奥深い魅力をぜひ堪能いただきたい。

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1. 『近畿地方のある場所について』

背筋著 KADOKAWA刊 ¥1,430

本書は雨穴氏の『変な家』と並んで、考察系モキュメンタリーという新風をホラー小説界に吹かせ、映画化、漫画化もされたベストセラー作。ネット掲示板、雑誌投稿、怖い噂話など様々なエピソードが断片的に羅列され、「これは何だ?」と最初読者は戸惑うはずだ。だが、何が起きているのかを考察しながら読み進めるうちに、読者の中でやがて禍々しいひとつの物語が形づくられていく。ぜひ本作で新たな読書体験を味わってほしい。

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2. 『怪談のテープ起こし

三津田信三著 集英社文庫 ¥737

自殺する間際に、家族や友人に向けてメッセージを吹き込んだテープ。それを原稿に起こす「死人のテープ起こし」の話など、本書には日常から地続きの生々しい恐怖を描いた6編が収載されている。各話は独立した物語として完成されていると同時に、作者本人である三津田信三氏の視点で語られる序章・幕間・終章の存在により、ひとつの怪談へと繋ぎ合わされていく。まるで実話怪談のような手触り。怪談師が薦める怪談小説の傑作。

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3. 『他人事』

平山夢明著 集英社文庫 ¥792

事故を起こして動けなくなり、助けを求める男。息子を殺して解体しようとする父親。橋の上から身投げしようとする女性とそれを止める男。表題作を含む14作の短編集は、いずれも救いのない絶望、底知れぬ悪意、他人への無慈悲と無関心、そしてひとつまみのユーモアで覆われている。胸の奥にある感情を無理矢理掻き回されるような強烈な読後感は、まさに平山夢明氏ならでは。私はこの本で「厭な話」の愉悦と魅力に目覚めました。

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4. 『禍』

小田雅久仁著 新潮社刊 ¥1,870

人の身体の一部である、口、耳、目、肉、鼻、髪、肌を連想させる7つの物語。優れた不条理文学は一流の怪奇幻想文学にもなり得るが、その両方が手を取り合うことで、不気味極まりない傑作が誕生した。ホラーでありながら純文学でもあり、古典的な味わいを湛えつつ未知の世界観にも浸れるという、読書好きの心には刺さること間違いなしの必読作。『このホラーがすごい! 2024 年版』(宝島社刊)でランキング1位に選ばれたのも納得。

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5. 『心にナイフをしのばせて』

奥野修司著 文春文庫 ¥715

1969年、神奈川県の私立高校で、少年Aが同級生の男子生徒をめった刺しにして殺害する凄惨な事件が起きた。本書は事件のその後を追ったノンフィクションで、被害者遺族である父、母、妹は、心に大きな傷を負って、いつまでもそれに苦しめられ続ける。一方の少年Aは更生施設を出て社会復帰し、弁護士になり、家庭を持つが、遺族への謝罪はない。本書は凶悪犯罪がもたらす悲劇と、多くの不条理を読者の心に突き付けてくる。


6. 『姉飼』

遠藤徹著 KADOKAWA刊 ¥1,260

祭りの夜、太い串で胴体を貫かれ、ぎゃあぎゃあ泣き喚く「姉」が出店に並んでいる。生餌を食べ、湾曲した長い爪を持ち、うっかり近づき過ぎると乱杭歯で肉を食い千切る。人であって人でない、「姉」と呼ばれる恐ろしくも妖艶な存在に魅了された主人公。おぞまし過ぎる「姉飼」の物語は、目を背けたいのに引き込まれてしまう魅力に溢れている。第10回日本ホラー小説大賞を受賞した本作を含む、4つの中編が収載された一冊。

夜馬裕|Yamayu 怪談師・作家
怪談コンテスト「怪談最恐戦2020」優勝。著作に『厭談』シリーズ(竹書房怪談文庫)、『自宅怪談』(イースト・プレス刊)ほか多数。連載中の漫画『厭談夜話』(小学館刊)の原作や、映画『ドールハウス』のノベライズなども手がける。
https://x.com/yamayu_ggh

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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

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