「大人の恋」を巡る5冊を山崎まどかがセレクト。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.18】
Culture 2025.09.11
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.18は「大人の恋」をテーマに、コラムニスト、翻訳者・山崎まどかが選んだ5冊を紹介。片想い、失恋、両想い、浮気......人の数だけ恋愛の形がある。様々な大人の恋を本の世界で体感――。
選者:山崎まどか(コラムニスト・翻訳者)
大人の恋。
出会って、惹かれて、ハッピーエンドを迎えるというだけが恋愛小説ではない。そもそも恋愛における幸福な結末とは何なのだろうか? 人と人の間に生まれる不思議な炎みたいな感情を描いた物語が好きだ。火が灯る瞬間を鮮やかに描いたものや、その炎が姿を変えながら長く燃える様子、消えてなお熱が残る状態。ここに挙げた小説は、ロマンスの形態がさまざまであること、恋愛小説の形もあらゆる可能性を孕んでいることを教えてくれる。恋愛に興味がないという人にとってもおもしろいはずだ。自分自身と他者との間の思わぬ絆を探ってみたくなる。
トップ¥327,800、リップスティックリフィル 70、リップスティックケース ネ039 オン プリント 各¥6,160/以上ドリス ヴァン ノッテン
1. 『嫉妬/事件』
アニー・エルノー著 菊地よしみ、堀茂樹訳 ハヤカワepi 文庫 ¥1,188
終わったはずの恋が不思議な形で心を占めることもある。アニー・エルノーの場合、それは6年間付き合った恋人が交際し始めた新しい女性の存在。自分の人生を題材としたオート・フィクションで知られる彼女は、その見知らぬ女性に取り憑かれて相手について考えるのがやめられなくなる。「彼が四十七歳の女を選んだということ、それが許し難かった」。エルノーは理知的な文章で感情の揺れを捉えている。嫉妬もまた、恋の形である。
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2. 『話の終わり』
リディア・デイヴィス著 岸本佐知子訳 白水Uブックス ¥1,980
超短編の作品群で有名なリディア・デイヴィスによる唯一の長編もまた、終わってから人の心を占める恋の物語である。30代半ばで出会った相手の男性は12 歳年下。恋は長く続かない。時間が経ってから彼女は彼との数ヶ月を思い返し、その記憶が正しいのかどうか見極めようとする。まるで恋愛が自分の中で死に絶えていくのを正確に記録するように。彼女にとって恋の終わりは彼との別れではなく、本当の終わりの瞬間の輪郭を捉えた時なのだ。
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3. 『多田尋子小説集 体温』
多田尋子著 書肆汽水域刊 ¥1,980
収録作「単身者たち」は母親の面倒を見て社会にも出ず、恋愛もせずに40代になった女性と、彼女が勤めることになった古道具屋の主人との不思議な関係を描いている。第100回芥川賞候補だった作品だが、これがセクシュアルマイノリティの話だと当時どれくらい理解されていただろうか。性のないところにもロマンスがあり、大事な関係性がある。ひとりぼっちではない、ということの切実さ。慎ましやかに見えて、実はラディカルな話である。
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4. 『運命と復讐』
ローレン・グロフ著 光野多惠子訳 新潮社刊 ¥2,970
大学時代に出会ったロットとマチルドは似合いのカップルだ。卒業後に二人はすぐに結婚し、彼は舞台脚本家として栄光の道を歩み始める。夫の視点による前半と、妻の視点による後半で物語の様相はがらりと変わる。男が見えていなかったことと、妻が隠していた秘密と復讐。しかし、これは裏切りと幻滅の物語ではない。後に妻は自分の中に複雑な形の愛があったことを知る。彼女が愛していたのは、自分を信じた夫のイノセンスだったのかもしれない。
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5. 『半生の絆』
張愛玲著 濱田麻矢訳 ハヤカワepi 文庫 ¥1,892
中国における恋愛小説の名手と呼ばれる張愛玲は、時代の波や社会の理不尽に翻弄される恋人たちのドラマを描くのが上手い。この物語の舞台は1930年代。南京から上海に出てきた世鈞は同じ工場の曼楨に心惹かれ、二人は愛し合うようになる。ところが、それぞれの家庭の事情や他人の横槍が彼らを引き裂いていく。お互いを思い合いながら、結ばれることのなかった二人だが、決して不幸ではない。愛し合った時期があることが慰めとなる。
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著書に『優雅な読書が最高の復讐である』(DU BOOKS刊)、訳書にイヴ・バビッツ著『ブラック・スワンズ』(左右社刊)、サリー・ルーニー著『美しい世界はどこに』(早川書房刊)などがある。
https://www.instagram.com/madokayamasaki/
ドリス ヴァン ノッテン
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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