SNSで物議を醸す「完璧な女性」ナラ・スミスとは?
Celebrity 2024.10.13
23歳にしてモデル、レシピクリエイターで3児の母......だが、伝統的な女性の役割を肯定する存在として攻撃されることもある。この女性インフルエンサーはいったい何者なのだろうか。
SNSでの料理関連の投稿といえば、ほとんどがレシピの提案か美味しいレストランの紹介のどちらかだ。そして今やナラ・スミスがいる。彼女は23歳の南アフリカ系ドイツ人のモデル兼インフルエンサーだ。彼女がTikTokやInstagramに投稿したレシピが大人気を呼んでいる。人気の秘密は"ゼロから"の手作り。つまり、コーラであろうがシリアルやチューインガムであろうが、夫と3人の子どものためになんでも最初から作ってしてしまうのだ。しかも最新ファッションに身を包んだ完璧スタイルで登場し、ソフトなハスキーボイスと洗練された身のこなしでレシピを披露する。徹底的なイメージコントロールは憧れも批判も呼ぶ。「トラッドワイフ」現象の後押しをしていると非難されることもある。トラッドワイフ現象とは、専業主婦の復権を支持するSNSでの動きを指す。夫のラッキー・ブルー・スミスは2010年代のTumblrでティーンに圧倒的支持のあった人気モデル。ふたりはまさに理想のカップルだ。あまりに完璧すぎて現実感がなく、素敵と思う一方で戸惑いを覚えざるを得ない。
23歳で3児の母
ナラ・アジザ・スミスは2001年9月27日に南アフリカでナラ・ペルマンとして生まれた。生後3ヶ月で父親の故郷であるドイツのフランクフルトに移り住み、弟や妹と育った。14歳のときにモデルとしてスカウトされ、4年後にロサンゼルスへ。そこでアメリカ人モデルのラッキー・ブルー・スミスと出会った。プラチナブロンドヘアにみずみずしい唇、真っ青な目で並外れた美しさの彼もまた、若い頃からモデルとして活躍してきた。何度も「ヴォーグ」誌の表紙を飾り、ラルフ・ローレン、エンポリオ アルマーニ、ヴェルサーチェのファッションショーにも登場している。ふたりは出会ってわずか6ヶ月後の2020年2月、ロサンゼルスで結婚した。
1年も経たないうちにナラ・スミスは長女の誕生をインスタグラムで発表した。名前はランブル・ハニー・スミス。その後、2022年1月6日に息子のスリム・イージー、2024年4月に娘ウィムジー・ルーが生まれている。結婚前の2017年、ラッキー・ブルー・スミスは女優ストーミ・ブリー・ヘンリーとの間にグラビティという女の子をもうけている。つまり、ナラ・スミスは23歳までに3人の子どもと1人の連れ子のお母さんになったわけだ。
2024年3月、ナラ・スミスはTikTokに「私のことを知って」と題した動画を投稿して自分の生き方について語った。「子どもの頃、父からは、子どもを持つのが遅かったことを悔やむ言葉を何度も聞きました。父のアドバイスに従ったら、私にとって最良の決断となりました。誰にも当てはまることではないとわかっています。私自身は年の割にませていて自立心に富んでいたし、若い頃からいろいろな経験をさせてもらったので、残念に思ったことはありません。もうすでにやり尽くしていたので」。夫妻はまた、子どもに風変わりな名前をつけたことで批判を浴びた。2023年3月、ナラ・スミスはTikTokに動画を投稿し、「フロスティ(霜が降りた)」、「クロウ(カラス)」、「チェリー」など、子どもの名前の候補にしたものの、最終的に諦めたものを列挙した。この動画には、批判が殺到した。「スリム・イージー? どうせならエミネムにしたら?」、あるいは「まるっきり1980年代のラッパーみたい」などのコメントが寄せられた。
---fadeinpager---
料理家兼モデル兼母親
しかしながら彼女が成功を収めたのは料理のおかげだ。2023年にTikTokでレシピの投稿を始めてから300万人以上のフォロワーを獲得した。きっかけは、アメリカで定番中の定番おやつを作ったことだった。「娘が今朝、私のところにやってきて、ピーナッツバターとジャムのサンドイッチを作ってとせがまれました」と、ASMRのようにゾクゾクする心地よい声で語る動画は1月11日にTikTokに投稿された。一見、ごく普通に見えてその実、パンもラズベリージャムもピーナッツバターも全部手作り。しかもそでにファーのついたガウンを着てボブを完璧に整え、お腹が大きい姿だった。
@naraazizasmith who remembers the other bread and jam video I did? #homemadebread #jam #peanutbutter #toddlersoftiktok #fypシ #easyrecipes ♬ Chill Vibes - Tollan Kim
この動画に対し、さりげなく完璧な点を批判、こうしたライフスタイルが非現実的であることを指摘するコメントが寄せられた。「想像してみて。お母さんにサンドイッチをおねだりしたら、パンをこねはじめたなんて」、「朝、目覚めてサンドイッチが欲しかったら食べるまで3時間待たなくちゃいけない」、「次のステップは、ラズベリーと小麦の栽培」、ある母親は「子どもがなにか欲しがっている時、焦れて泣くまで3秒の猶予しかないわ」と書きこんだ。どんな批判的なコメントもなんのその、この動画は1860万回再生された。ナラ・スミスはヒットの方程式を見つけたのだった。こうして「全て最初から手作り」方式のレシピが増えていった。ラザニアではモッツァレラチーズを手作り、はたまた「妹が欲しがっていたのになかったから」という理由でチューインガムまで作ってしまう。
@naraazizasmith who doesn't love bubble gum! #easyrecipes #homecooking #candy #bubblegum #fypツ ♬ O mio babbino caro (Gianni Schicchi:Puccini:Adami) - AllMusicGallery
トラッドワイフ
ナラ・スミスのことを面白がり、彼女をネタにしたパロディがSNSで増殖中だ。その一方で彼女のライフスタイルを非難する人もいる。保守的かつジェンダー的な固定観念を美化していることへの批判だ。「ナラ・スミスが動画でやっていることはすべて、家父長制のもとで女性がやれと言われてきたことばかり」とあるTikTokユーザーは書いた。「誤解してほしくないのだけれど、私はナラ・スミスが大好きだし、彼女が料理するのは素晴らしいことだと思う。でも、同時に理解すべきなのは、彼女の動画の内容は"トラッドワイフ"であること。彼女のライフスタイルはほとんどの女性にとって非現実的。一家の母親がどうあるべきかということに細心の注意を払いながら作り上げたイメージなのだ」と@SaintJenniは動画で分析している。一方、ナラ・スミスは8月7日付の「GQ」誌の取材で、自分に対する批判にやんわりと触れている。「料理のアイデアであれ、子どもに作った料理であれ、私の声であれ、他の何であれ、私がコンテンツを提供しているのはみんなをインスパイアするため。誰もが好きなように使えばいいのです」
モルモン教徒
もうひとつ、彼女の宗教も話題になっている。彼女の夫、ラッキー・ブルー・スミスの家族は末日聖徒イエス・キリスト教会、つまりかつてモルモン教の通称で呼ばれたキリスト教系新宗教の信者だ。この宗教は、男女の不平等を維持することで非常に批判されており、一部のネットユーザーはナラ・スミスを犠牲者の一人とみなしている。この噂について、彼女はTikTokの動画で次のように語っている。「私は自分がなにをしているのか知りません。まだ学んで自分の信仰を探している途中です。自分は筋金入りのモルモン教徒でも何でもありません。夫と私は自分たちの道を歩み、子どもたちをどのように育てたいかを考えています」。ナラ・スミス批判は定期的に起こるが、SNSで彼女を支持する人も多く、日々のインスピレーション源として見る人もいれば、単にやっていることが好きだからフォローしている人もいる。好かれようが嫌われようが、ひとつ確かなことは、みんなナラ・スミスが気になっているということだ。
【合わせて読みたい】
「夫に従順であれ」専業主婦の復権を説くトラッドワイフとは?
アメリカに登場した新たな社会階層「カレン」とは?
text: Alexandra Marchand (madame.lefigaro.fr)