シリコンバレーで広がる新常識、「マナー講座」の中身とは?

Celebrity 2026.01.15

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テック業界も様変わり。経営者が権力や影響力を持つようになり、外見も大事になりつつある。サンフランシスコでは、デジタル界の未来のスターを"見映えよく"するための講習が登場した。

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「負け組」から「ニュークール」へ。テック業界のトップたちは権力や影響力に魅力を兼ね備えた「勝ち組」だ。photography: Madame Figaro


よれよれのパーカを愛用して服装には無頓着、でもコードを書かせたら天才の「オタク」。テック業界でそんなステレオタイプはもう過去のものだ。たとえばフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは筋トレに励み、総合格闘技の試合では最前列に陣取る。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスはボディビルダーのような体格となり、昨夏にはローレン・サンチェスとのヴェネチアでの結婚式にハリウッドのビッグスターたちを招いた。XやテスラのCEOであるイーロン・マスクは、キラキラのゴールドチェーンにキャップをかぶり、ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ米国大統領とツーショット。IT技術やAIが注目されるようになって以来、かつては薄暗い部屋でパソコンにかじりついていたテック業界の寵児たちが表に出てきた。権力や影響力だけでなく、魅力を兼ね備えた彼らは負け組からクールガイに変身した。それに続けとばかり最近、テック業界の楽園シリコンバレーでは未来の富豪候補者たちを「改造する」ための前例のない講座が誕生した。

「これは、パートナーや投資家との付き合いに欠かせないソフトスキルを身につけるために2025年、初めて開催したマナー講習会『スロー・エチケット・フィニッシング・スクール』の風景です。場違いな振る舞いをして平然としている"パーカー姿の技術屋"はもう流行りません」とインスタに11月6日、スナップ写真を投稿したのは同スクールを主催するサム・レッシンだ。ハーバード大学でマーク・ザッカーバーグと同期だったサム・レッシンは、オンラインストレージ「Drop.io」の創業者であり、青いロゴで知られるSNSでも働いた経験を持つ。初回講習は成功裡に終わったそうだ。「また開催します! 参加してくださった方に御礼申し上げます。修了生の皆さん、おめでとうございます」

会場となったのはサンフランシスコ中心部にある高級ホテル、フォーシーズンズの格調高いサロン。インドの「タイムズ・オブ・インディア」紙によれば、この「エチケット・フィニッシング・スクール」講習は3時間かけて行われ、参加者は約40人、主に20代の男性だったそうだ。ある若手起業家はインスタのコメント欄にユーモアたっぷり書き込んだ。「貴重な体験をありがとうございました。次回はぜひ『なぜ11時以降のカプチーノがマナー違反なのか』を30分で解説してほしいものです」


マナー講座

初回講習の内容は基本中心だった。洋服選びからマナー、そしてIT技術に注目するようになった政府高官との付き合い方などがレクチャーされた。米「ビジネス・インサイダー」によればサム・レッシンは開講挨拶で2010年に作られたフェイスブック創業者の伝記映画に触れ、「映画『ソーシャル・ネットワーク』で描かれたシリコンバレーのイメージはいまや変わりつつあります」と述べた。

レッシンはシリコンバレーの課題を取り上げたポッドキャスト配信も妻や仲良しの起業家カップルと共同で手掛けている。この「More or Less」でも彼の信念は揺るがない。ある回では「AI分野の若い才能や台頭する若手創業者は非常に優秀だが、権力交渉が実際に行われる場にふさわしい着こなしや話し方という、 いわば"目に見えない履歴書"が不足していることが多い」と指摘した。

今回の講習ではサンフランシスコの有名老舗テーラー「ウィルクス・バシュフォード」のアドバイザー、クリス・ディーハンを講師に招き、具体的な着こなし法がレクチャーされた。派手な色や目立つロゴは避け、上質な素材を選ぶこと。一押しはカシミヤだ。11月から2月にかけての冬の外出にはシャツの代わりにタートルネックをスーツと合わせてもいい。この場合は、シルエットのバランスを取るためにポケットチーフを使う。講習の最後には参加者へのプレゼントも用意されていた。携帯用マウスウォッシュ、クシ、毛玉取りローラー、そしてウィルクス・バッシュフォードで使える100ドル分のギフトカードのセットだ。

ワシントン・ポスト紙の記事によれば、身だしなみに気をつかわなくてはならない場面は増えているそうだ。同紙の取材を受けたイメージコンサルタントのヴィクトリア・ヒッチコックは、ホワイトハウスを今年訪れた複数企業と仕事をした経験から、若い人のなかには「自分を徹底的に変えたいと考えている人もいる」ことを指摘した。15年前にヴィクトリアが仕事を始めた頃に比べ、相談内容が変化しているそうだ。以前はスーツの選び方やデオドラントの使い方、鼻毛や耳毛の処理といったベーシックな助言で済んでいたが、いまでは整形手術や植毛の相談まであると言う。

キャビアの食べ方

身だしなみや服装の話に加えて講習ではスマートな会話術や高級食材にも1時間が割かれた。参加者は円卓4台に分かれ、ビーツのタルトやスイカのポキボウル、キャビアが並ぶ前でジェフリー・チェンからレクチャーを受けた。魚卵の専門家というジェフリーは「キャビアをどう味わうか」「正しい取り分け方」「なぜ銀ではなく真珠のスプーンを使うのか」「どのワインと合わせるべきか」といった知識を披露した。

「ビジネス・インサイダー」誌はこの時にたくさんの質問が飛び出したと面白おかしく伝えている。たとえば「キャビアって、正確には何回噛めばいいんですか?」と、他の参加者に尋ねた人もいたそうだ。

講習内容が表面的すぎると感じる向きもあるかもしれない。主催者のサム・レッシンが目指しているのはテック業界のイメージアップ。2025年10月に「ピュー・リサーチ・センター」が発表した調査によれば、「AIの利用が日常的に拡大していることに不安を覚える米国人が50%いる。これは2021年の37%から増加傾向にある」とのこと。これはシリコンバレーの将来にとって不利な傾向だ。信頼性が低下し、人々から警戒される状況でサム・レッシンは信頼を取り戻すことが大事と考え、まずは身だしなみを整え、礼儀作法を身につけて、相手への敬意と配慮を示そうと説く。


イデオロギーの争い

地元紙「サンフランシスコ・スタンダード」が報じるように、テック業界人おしゃれ化計画に誰もが賛同しているわけではない。起業支援を行う「Yコンビネータ」のCEO、ギャリー・タンは初回講習のニュースに対し、Xに批判メッセージを投稿した。「フィニッシング・スクールに通って礼儀作法を学ぶ必要なんかない。必要なのは素晴らしいものを作り、ユーザーを幸せにし、ちゃんとした仕事への感覚を育むことだ。(中略)真に豊かな人とは、強固な人間関係を築き、人々のニーズにマッチしたものを生み出した人であって、うわべだけとりつくろってパワーゲームをする人ではない」

この投稿に、フィニッシング・スクールを運営するためにサム・レッシンが設立した「スロー・ベンチャー」社は皮肉たっぷりのコメントを寄せた。「次回はぜひご参加を、ギャリー!」この相反する2つのビジョンはこれからのシリコンバレーで新しいイデオロギーの争いを招くのだろうか。

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text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr)

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