Kawakyun 伝統を未来へ繋ぐ鹿革の加工技術に、篠原ともえが出合う。

Fashion 2021.12.24

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木製の階段を上ると、明るい光が差し込む、広大な空間が目の前に広がる。色鮮やかな革がずらりと並ぶ光景に、「自然の風の中で日向ぼっこしているみたい!」と篠原ともえさんが微笑んだ。

ここは埼玉県草加市のタンナー(製革業者)、伊藤産業。昨年度、革のアクセサリーのデザイン・ディレクションを手がけた篠原さんは、革という素材に魅了され、新たなクリエイションに取り組みたいという思いを強くしていた。

「職人さんに直接お話を聞いて感動したり、心が揺れたりする、その思いを形にしていくことがすごく大事だと思ったんです」。だから今回も、職人さんと出会い、彼らとコミュニケーションを取るところからスタートしたい——。そんな篠原さんの願いを、伊藤産業の社長・伊藤達雄さんが快諾。今回の訪問が実現した。

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絹のような手触りのソフトレザー。

「この時期は空気が乾燥しているので、革の水分が早く抜けていきます。ゆっくり時間をかけて自然に乾燥させたほうが、革が柔らかくなるんです」。伊藤さんが穏やかな口調で篠原さんに伝える。

頭上に並ぶ、ブラウンに染められた羊の革に触れ、「パリッとしていますね」と篠原さん。その革を伊藤さんが手で軽く揉みほぐし、再び触れてみるよう促すと、「柔らかい! 魔法がかかったよう」と篠原さんが驚く。「革は揉みほぐすことによって繊維が柔らかくなります。この柔らかなタッチ感を大切に作っています」。こう話す伊藤さんに、「触った感じが絹のようですね」と篠原さんが答える。

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こちらの純白に近い革は、スペインの子羊皮を使用。伊藤産業ではさまざまな種類のソフトレザーをつくっている。

三角屋根の高い天井を支える両壁の大きな窓を風が通り抜け、革や木の床を優しい光が包み込むさまはどこかノスタルジックだ。昭和28年(1953年)、伊藤さんの祖父・清さんが建てたこの建物は、当時の小学校と同じ造りなのだという。

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篠原さんたちがいる建物の上棟式の記念写真。「おじいさんが抱っこしている赤ちゃんが私です(笑)」と伊藤さん。

草加市には100年近い皮革産業の歴史がある。
「昭和10年(1935年)に、草加でこの産業が“生まれた”というよりも、東京で仕事をしていた職人さんたちが、生産するものが増えて手狭になり、草加に移り住んだのです。革を鞣したり、染めたりするには大量の水が必要で、草加は地下水が豊富だったんです」。草加市と革にまつわるそんなエピソードを聞き、「染色も、水が綺麗だと色がよく入るといいますよね。水が美しいから草加で革の仕事が始まった——素敵ですね」と篠原さんが呟いた。

草加市ではタンナーやメーカー、革職人などが連携し、次世代が生きる地球環境を守るための、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。名物の「草加煎餅」にちなみ、米ぬか油で鞣した100%土に還るレザーを生み出したり、外部のクリエイティブチームと組んでスタイリッシュな革アイテムを発信するブランド「ハイカー(HIKER)」を始動したり。そして最近スタートしたのが、エゾ鹿のプロジェクトだ。

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鮮やかなオレンジ色に染められたエゾ鹿革に触れる伊藤さんと篠原さん。まだ乾燥途中のため、しっとりとした感触だそう。「こうして自然にドレープが入っていくんですね」と篠原さん。

いま全国各地で問題になっている、野生の鹿による農作物や森林の被害。捕獲された鹿の肉はジビエと呼ばれ特産物になるものの、皮は廃棄されてしまうことがほとんどだった。命をいただいているからこそ、皮も有効活用したい——。そんな声が草加の伊藤さんたちのところに届くようになった。もともと製品開発、PR事業を事業者同士の連携でチームとして取り組んでいたため、この社会問題に草加の技術が役に立てるのであれば、と鹿皮鞣しから制作への動きは早かった。2016年には埼玉県秩父の鹿皮を使ったセーム革のメガネ拭きやポーチなどを発表。すでにオリジナルブランド開発の実績もある草加の革づくりは高く評価された。

そして2018年に、北海道北見市のエゾ鹿皮との出合いがあった。生態系保全のために鹿が捕獲される現状に心を痛め、“命を繋ぐサイクルをつくりたい”との思いからエゾ鹿肉加工会社「ポロ ワッカ(poro wacca)」を立ち上げた林徹さんが、草加のチームにコンタクトを取り、エゾ鹿皮の鞣しと染色を依頼。林さんのブランド「レザレクション(LEATHERECTION)」で美しいバッグや革小物となり、ブランド名の由来である“復活(resurrection)”の言葉どおり、新たな命が吹き込まれた。創業時から鹿皮の鞣しを手がけてきた伊藤産業が、その重要な役割を担った。

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大切に守られてきた、革の秘密のレシピ。

「これは私の祖父のノートなんです」。伊藤さんはそう言って、篠原さんに一冊のノートを見せてくれた。

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伊藤さんの祖父であり伊藤産業の創業者、伊藤清さんが、革のつくり方を書き残したノート。60年〜70年ほど前に書かれたものだという。

「祖父は大正3年に東京の革屋さんに丁稚奉公して、その時に勉強したことをこのノートに書いたんです。羊や鹿など、いろいろな種類の革をどのように染めたか、書き残されています。私がこの仕事を始める前、祖父は私にこれを見せて、昔はこういうふうにつくっていた、いまは科学が進歩していまのやり方があるけれど、基本を大事にして革をつくりなさい、と教えてくれました。昔ながらの革のつくり方にはひとつの流れがあり、その意味でもこれはとても大事なノートです」

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「読めない字もあるでしょう(笑)」と伊藤さん。篠原さんは手書きの文字を眺めながら「秘密のレシピが載っているんですね。宝物ですね」

「鹿革は、表面のタッチ感が人肌に近いのが特徴なんです」と伊藤さん。その柔らかさを生かしてバッグやジャケットなどに使われるという。篠原さんはエゾ鹿革に触れて、その感触を確かめる。「鹿革は人肌に近い——使ってみたいです」。衣装デザインを手がける篠原さんも、素材としての鹿革に惹かれたようだ。

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古(いにしえ)から現代へ続く、鹿革の伝統。

実は日本では古くから鹿革が使われてきた。奈良時代には装飾を施した鹿革の文箱などがつくられ、戦国時代には鎧や兜にも用いられたという。

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エゾ鹿革は大きく厚みがあり、また断熱性にも優れているという。

なかでも、鹿革の伝統工芸と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「甲州印伝」だろう。
鹿革と漆の産地だった山梨県(甲州)で、遠祖上原勇七が鹿革に漆付けする独自の技法を創案したことから、甲州印伝が始まったといわれている。四季のモチーフを漆で表現した、美しさと実用性を兼ね備えた印伝の革小物は江戸時代の人々に愛好され、現代でも国内外の人たちを魅了する。その伝統を守り続ける1582年創業の老舗「印傳屋上原勇七」に、伊藤産業では伊藤さんの祖父の代から、鹿革の加工技術で協力しているという。

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エゾ鹿革の端の形状に着目した篠原さん。

「この白い革、綺麗ですね!」テーブルに広げられた革を見て、篠原さんが言う。
「これもエゾ鹿です。鞣した後に油を加え、いったん乾燥させることで、どのくらいの柔らかさになっているかを確認します」。人肌に近いその感触を、篠原さんは再び確かめる。

「このアウトラインの形が綺麗ですね。山の稜線のようにも見えますね」。エゾ鹿革の縁を指して、篠原さんが言う。「動物たちが住んでいる山の形に似ているのがおもしろいですね」。この部分は通常、次の工程で扱いやすいよう、機械に絡んでしまうのを防ぐために、ある程度カットしているという。その切れ端は色の調整などに活用するが、篠原さんはこの自然な形をそのまま生かせないか、と言う。「ありのままの革の形には、物語を感じますね」

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鹿革の技術を受け継ぐ若き職人たち。

伊藤さんは、そのエゾ鹿皮を鞣している現場へ篠原さんを案内した。
「こんにちは」と、伊藤さんに似たよく通る声で篠原さんを迎えてくれた精悍な青年は、伊藤さんの息子で伊藤産業の4代目である伊藤公則さんだ。

「エゾ鹿皮を鞣しているところです。薬品が少しずつなじんでいくので、4日間かけてじっくりと鞣していきます。この自動のドラムは2008年に入ったものですが、木の太鼓は曽祖父の代から使っています」

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ステンレス製ドラムは、中だけが回転するので安全性が高く、また温度や時間の管理もしやすいという。ドラムから鞣したエゾ鹿革を取り出し、手際よくシワを伸ばして重ねていく。

この日はちょうど4日経ったタイミングで、公則さんがドラムを開けて革を一枚ずつ取り出し、「馬」と呼ばれる道具に掛けていく。「重そうですね」と篠原さんが声をかける。「4キロあります。『馬』に掛けることによって水がよく切れて、革が乾きやすくなります」。一枚一枚を広げ、丁寧にシワを伸ばして掛けていくさまを、篠原さんはしばらく見守っていた。

その反対側で、木製のドラムを使っていたのは菊地信吾さん。弓具に使用する鹿革の加工などを手がける信高産業の代表を務めている。この日は伊藤産業で、キョンという小さな鹿の革を、白く仕上げる方法で鞣していた。ドラムを開け、淡いクリーム色の革を取り出し、その一部をこすって篠原さんに見せてくれた。「乾くと、このくらい白くなります」

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種類や用途によって鞣し方を変えるそう。「こんなにも白くなるんですね。同じ鹿革でもいろいろな種類があるんですね」

この後は乾燥の工程に入るという。乾燥用の太鼓に入れて温風を送り、水分を蒸気にして穴から逃していく……と、説明を聞きながら「想像以上に手間暇がかかっていますね」と篠原さんは少し驚いた様子だった。「やはり昔からつくっているものは、昔からのやり方でやったほうがいい。仕上がりもそのほうがずっといいんです」。そう言う菊地さんに「革もそのほうが気持ちがいいのかもしれませんね」と篠原さんが答える。

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革を素材にした、次なる伝統×イノベーション。

昨年度、篠原さんが手がけた革のアクセサリーは、国際的な広告賞、ニューヨークADC賞のファッションカテゴリーにて、「トラディショナル・アクセサリー」と「イノベーション」の2部門でメリット賞を受賞という快挙を成し遂げた。篠原さんはその反響の大きさを実感するとともに、革のクリエイションに携わるタンナーや職人さんが守ってきた伝統と技術力への敬意も深めていったようだ。

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篠原さんの革のアクセサリーに贈られた、ニューヨークADC賞の表彰状。

「初めてエゾ鹿の革に触れましたが、本当に人肌のようで、身に纏ったらどんなに心地よいだろう、と思いました。職人さんとの会話の中で、鞣すには時間がかかる、先人たちが記してきたレシピに従うことで綺麗に仕上がる、という話がとても印象的でした。手間暇かけて、時間をかけて向き合うことで美しいものが仕上がっていくのを間近で見ることができて、感動しました。

伊藤さんがおじいさまから受け継いだ伝統を大切に守り、息子さんに手渡している、4世代にわたって革の伝統を守っているという物語を知ることができて、その思いが革そのものに宿っているようにも感じました。こんなにも大切につくられた革を使って、デザインの力で何か新しいものを作るお手伝いができたらと思いました」

そして篠原さんがクリエイションにおいていつも大切にしているのが、環境に優しくあること。「革素材に向き合うまで、革はどんなふうにつくられているのだろうと気になっていましたが、革づくりは捕獲された動物たちの命を生かすこと。SDGsと直結している革素材を、さらに余すところなく使いきる、そんな作品を作れたらいいなと思います」

人肌を思わせる柔らかなエゾ鹿革、職人たちが守り続ける伝統、そして山の稜線のような革の端の形——篠原さんの中には、すでに素敵なアイデアが生まれつつあるようだ。次回はそんな篠原さんの作品制作の様子をお届けする。

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篠原さんが思い描く、エゾ鹿革の作品とは? 乞うご期待!

篠原ともえ Tomoe Shinohara
デザイナー・アーティスト
1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。歌手・ナレーター・女優活動を通じ、映画やドラマ、舞台、CMなどさまざまな分野で活躍。2020年、アートディレクター・池澤樹と共にクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。2021年、革きゅん第一弾でデザイン・ディレクションを務め製作した革アクセサリー「LEATHER-MADE JEWELRY」が、国際的な広告賞であるニューヨークADC賞において、トラディショナルアクセサリー・イノベーションの2部門でメリット賞を受賞した。
www.tomoeshinohara.net
Instagram : @tomoe_shinohara

* 日本タンナーズ協会公式ウェブサイト「革きゅん」より転載

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篠原ともえさん連載「TOMOE SHINOHARA MAKING」

phography : Sayuki Inoue director: Mitsuo Abe styling: Tomoe Shinohara hair & make-up: Misato Narita collaboration: Ito Sangyo, Sinco Sangyou special thanks: Fukushima Kagaku Kogyo

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