マダムkaoriの23SSパリコレ日記 4日目はクロエのショーからスキャパレリの展覧会まで。
Fashion 2022.10.10
元「フィガロジャポン」の編集長でもあり現在ファッションジャーナリストとして活躍中のマダムKaoriこと塚本香さん。2年半ぶりにパリコレ参戦中。ショーに展示会、そして展覧会を巡る4日目のお話です。
9月29日 忙中閑あり、パリコレ4日目
忙中閑あり、だったパリコレ4日目。9月26日から10月4日まで開催された今回のパリコレクションでショーもしくはプレゼンテーションを発表するブランドはパリファッションウィークの公式スケジュールだけでも106。それ以外のオフスケジュールでも若手デザイナーがショールームを開いたり、小物ブランドが展示会をしたり、とさまざまな形での発表があります。その全部を見るのは無理なので、自分でどう動くかを考えてスケジュールを決めます。そして、ブランドに取材申請をしてインビテーションをもらう、というのが通常のフロー。ランウェイショーの後にはRe-seeと呼ばれる、ショーで発表したルックや小物を実際に見られる機会も設定されているので、それを含めて予定を立てるのですが、忙しい日となると10~12をこなさなければいけない。ショーがあまり遅れず遠い会場がなく、道も混んでおらず、効率よくスケジュールを組めばなんとか実現できます。逆にショーのインビテーションが結局もらえず、そうなるとポッカリ時間が空いてしまうことも。今日は残念ながらそういう一日。でも、まだまだ折り返し地点にも至ってないのだから、これくらいのペースでいかないと。ショーは3つだけ、Re-see1、小物プレゼンテーション1を余裕でこなしました。
デルヴォーの展示会はホテルから歩いて1分という嬉しいロケーション。いつものようにクロワッサンとカフェクレームの朝ごはんをゆっくり食べての出発です。
「ベルギーの海岸で過ごす夏の休暇」が2023年春夏のテーマ。会場のタウンハウスにはなだらかな砂浜が広がり、ところどころに巨大な砂のお城が作られていて、そこにパステルカラーがメインの新作バッグが飾られています。
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1967年誕生のアイコン、Tempête(タンペート)にトートタイプとクラッチがお目見え、Lingot(ランゴー)にも横長のスマートなクラッチが仲間入りするほか、ナノサイズのPin-Toy(パン-トイ) も登場するなど、人気シリーズがどんどん進化中。砂丘に咲く花のように会場にたくさんセットされていたレザーのポンポンはデルヴォーのクラフトマンシップを集約したもの。定番のBrillant(ブリヨン)やPin(パン)を色とりどりのポンポンでデコレートした春夏ならではのニューフェイスにも注目です。
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ショーはクロエとリック・オウエンス、そして若手のLudovic de Saint Sernin(ルドヴィック・デ・サン・サーナン)。ランウェイショーはどんな場所でどんな演出で新しいコレクションを見せるかも重要ですが、そういう意味でこれまでと明らかに違っていたのが、ガブリエラ・ハーストをクリエイティブディレクターに迎えて4回目のコレクションを発表したクロエです。
コロナ禍のデビューコレはクロエゆかりの地でもあるサンジェルマンの街角をランウェイにライブ配信、2シーズン目は遠くにシテ島を望むセーヌのTrournelle岸で、とパリの空気感あふれる場所を選んできた彼女ですが、今回の会場はヴァンドーム広場の一角とはいえ、周辺からは遮断された真っ暗なスペース。人工的なネオンカラーのスポットライトを浴びながらランウェイを歩くクロエ・ウーマンはボーホーシックなパリジェンヌではなくクールでストロングな表情。環境への負荷を最大限減らすことを目標に、オーガニックやリサイクル素材を使用し、サステナブルラグジュアリーを提案する彼女の姿勢は変わりませんが、カットアウトを施したロング&リーンのニットドレス、ストリングがアクセントになったバイカラーのモーターサイクルジャケットやコート、メタルパーツがアクセントのパンツスーツやブルゾンなど、今季のアイテムはどれもシャープで力強い。いい意味でちょっと意外なコレクションでした。
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2023年春夏のテーマは「Fusion Energy」ということ。どういう意味なのかショー後のリリースもなかったのですが、いろいろ調べてみると彼女はこれからのエネルギーはどうあるべきかを真剣に考えていて、未来のエネルギーについてのビジョンを提言したかったよう。彼女のエネルギー論には賛同できないところもありますが、この先のファッションを考えるうえで、避けて通れない課題であることも事実。リスクを承知であえてそれをテーマにした姿勢は評価したいと思います。
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リック・オウエンスはここ数シーズンと変わらず、会場はいつものPalais de Tokyoで。建物の中ではなく、スクエアの池がある庭をランウェイに見立ててのコレクション発表です。そして、期待どおりショーの開始とともに中央の噴水から巨大な水の柱が立ち上り、という演出。
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コットンジャージーやシフォンなどしなやかな素材をツイストしたりドレープを寄せたりして描くオウエンスらしいシルエットのドレスが次々に登場。コーンショルダーやトレーンといったアイコニックなディテールも変わらず。色はミルクベージュやブラックに、フューシャピンクやイエローがアクセント。ロング&リーンのいつものラインにプラスして、今シーズンはプリーツを配したAラインのミニドレスやボックスシルエットのジップアップブルゾンが軽やかなムードを加えています。
中盤に登場した風に舞うようなボリュームたっぷりのガウンは、200mものリサイクルチュールを使用したとか。コットンジャージーはすべてGOTS認証のものを使うなど、変わらない世界観を追求しながらも、よりよいアプローチを模索していることが伝わってきます。”SS23 EDFU Womens” と名づけられた今季のコレクションは、メンズに引き続きオウエンスのエジプトへの旅がインスピレーション源(EDUFはナイル川左岸の古代エジプトの神殿の名前です)。でも、その旅は「逃避ではなく、世界の全体像を見るための内省の時間だった」と彼はショーノートで語っていました。困難を経てなお生き残るものがあるという彼の思いが託されたコレクション、しっかと受け止めました。
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どちらもデザイナーの熱量を感じるショーでしたが、その合間に早足でパリ装飾芸術美術館で開催中のエルザ・スキャパレリの回顧展『SHOCKING! THE SURREAL WORLDS OF ELSA SCHIAPARELLI』を見てきました。
ここ数年シュルレアリスムアートが再び注目されていますが、彼女はその時代を代表するデザイナーで、アートとファッションを融合した前衛的な表現で知られています。メゾンとしてのスキャパレリも2019年にアーティスティックディレクターにダニエル・ローズベリーが就任、バイデン大統領の就任式でレディ・ガガが彼のデザインしたドレスを着用したこともあり、話題を集めています。それもあって今回のパリでどうしても見たかった。
まず、6387枚にも及ぶ彼女のデザイン画で埋め尽くされた部屋から始まって、その後はダリ、ジャン・コクトーなどのアーティストとのコラボレーション、サーカス、ゾディアック(占星術)など彼女を象徴するキーワードごとに洋服から小物、関連するアート作品までが並んでいます。彼女の作品だけでなく、ダニエル・ローズベリーのコレクションからもテーマに合わせたルックが一緒に展示されていて、メゾンの歴史と現在がよくわかります。同時代を生きたシャネルと比較されることも多く、断然シャネル派の私ですが、こうして間近で彼女の作品を見ると、やはりその奇想天外なクリエイションに圧倒されます。そしてそれを継承し、進化させている現ディレクターの力にも。写真や本では何度か目にしていても、こうして本物を見るとまた違った感激があります。ファッションの歴史は知れば知るほど深いので。
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左がスキャパレリのネクタイ、右がジョン・ガリアーノのコートです。
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ランウェイショーを見るのがもちろんパリコレの主題ですが、たまにはこういう時間も必要。
最後はエッフェル塔を見ながらセーヌ川を渡って帰宅、夜はパリジェンヌ代表のような古くからの友人宅でディナーというかなりゆる~い1日でした。でも、パリコレはまだまだ続きます。
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Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
Vol3.ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto