マダムKaoriの2023-24AWパリコレ日記 パリコレ取材4日目は、3つのショーと3つのRe-seeへ。

Fashion 2023.04.10

「フィガロジャポン」をはじめ、数々のモード誌で編集長を歴任されたファッションジャーナリストのマダムKaoriこと塚本香さんが、2023-24秋冬ファッションウィークに参戦するため今季もパリへ。ハプニングに見舞われつつも駆け抜けた、4日目を振り返ります。

INDEX
>>仏最古の乗馬学校で開催、ステラのランウェイショー。
>>憧れのパリシック、IRIEの展示会。
>>クワイエット・ラグジュアリーを象徴する、The Rowへ。
>>ルイ・ヴィトンのショー会場はオルセー美術館。
>>エレガント極まる、サカイのコレクション。

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3月6日 ファッションの進むべき道を見つめて。

たった5日の取材なので、早くもラスト2日に突入です。2年半ぶりに生でショーを見た前回はただただ感激の連続で最終日まで駆け抜けたようなパリコレでしたしが、今回はどこか冷静な自分もいて、ここでちょっと振り返り。パンデミックを経て、そして困難な世界情勢のなか、デザイナーたちはより深くファッションの進むべき道を探求している、ここまでのショーからそんなことを感じています。

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パリの冬景色は色褪せた写真のよう。物思いにふけるにはぴったり。そして寒い!

前シーズンもたびたび耳にした本質という言葉。今回のテーマとしてこれまで出てきた原点、出発点というワード。どちらもある意味では同じことを指している気がします。コロナ禍の閉塞感から解放されてファッションを謳歌するという自由なムードから、さらにその先へ、そのためには原点や本質というすべてのスターティングポイントからまた始めるということなのでしょう。「純化のコレクション」(ロエベ)、「服を作るという芸術」(バレンシアガ)、「服の解剖学」(アレキサンダー・マックイーン)といったショーノートに綴られたワードもそこにつながります。なによりコム デ ギャルソンの川久保玲さんの「ゼロに戻ってリセットして、前へ進む」という言葉が今シーズンを象徴しています。服作りの原点からそれぞれにブランドのアイデンティティを提言する、だからどのショーもパワフルで美しい、それが23-24秋冬です。

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左からロエベ、バンレンシアガ、アレキサンダーマックイーン、コム デ ギャルソンの23-24秋冬コレクションより。 photo:Imaxtree

そんなことを考えつつ迎える、またもや曇り空のパリ左岸の朝です。でも、今日は忙しくも楽しい一日になること間違いなし! ランチタイムがない可能性も大なので、ホテルでがっつり朝食をとって出かけます。どんなに疲れていても朝早くても朝ごはんは絶対に抜かない主義なので。私にとっては体調キープのための重要なポイント。

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左:ホテルの朝食ルームは地下1階ですが、ガラス窓の天井なので光も感じられて。 右:天井を上から見るとこんな感じ。中庭になっています。

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仏最古の乗馬学校で開催、ステラのランウェイショー。

さあ、まずはステラ マッカートニーへ(ちなみに今日の予定だとステラも含めてルイ・ヴィトンサカイという3つのショーはすべて左岸です)。会場は7区にあるフランス最古の乗馬学校、マネージュ・ド・レコール・ミリテール(Manège de l'Ecole Militaire)。軍所属の歴史ある学校だけに敷地も広大。学校の門を入ってから実際のショー会場までも距離があります。バックステージと思われる白いテント脇には、ステラ・マッカートニーの亡き母、写真家でもあったリンダ・マッカートニーの撮影した馬の写真が置かれて。そして到着したショーの建物は乗馬の室内練習所でしょうか? 今回のランウェイはこの土の地面のようです。

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左:母、リンダ・マッカートニーが撮影した馬の写真。 右:この馬場がこれから始まるショーのランウェイ。シートは階段状に片側に設置。

何が起きるのかドキドキしながら待っていると、バックステージ側からステラ・ファミリーが出てきて、彼らがシートに座るといよいよショーがスタート。と同時に7頭の馬がバックステージの逆側から登場、ランウェイを駆けていきます。全員が息をのんだオープニング。ひとりの男性の姿が見えます。この男性は馬と心を通わすホースウィスパラー、レスキューとして知られるジャン・フランソワ・ピニョン氏。
ピニョン氏は、馬に刺激を与えることなくクルエルティフリーな方法で馬を訓練し、保護しながらともに暮らしているとか。彼の動きに合わせて馬たちは止まったり一列に並んだり常歩したり。そんな馬たちとウィスパラーの幸せそうな光景のなか、モデルたちが土のランウェイを闊歩していきます。

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7頭の馬とホースウィスパラーのジャン・フランソワ・ピニョン氏に心から拍手を。©︎Stella McCartney 

トップを飾ったのはグレンチェックのスリーピーススーツ。ワイドな肩にウエストをシェイプしたジャケット、お腹が見えるコンパクトなベスト、スリークなパンツのセットに足元はヒールを合わせて。ステラの原点ともいえるサヴィルロウ仕立てのテーラリングですが、モダンかつフェミニン。彼女が提案する現代女性のためのシックなデイリーウエアを象徴している。その後もそんなルックが次々に登場します。

コンパクトなベストを素肌に着てゆる〜いバナナパンツやローライズパンツを合わせる、ダブルブレストのジャケットと深いスリット入りスカートのセットアップ、タキシードはジャンプスーツにテーラードコートはビスチェドレスに変換、という具合。レースを配したアシンメトリーなドレスやチェーンのボティアクセサリーなど、彼女のDNAアイテムも健在です。モデルたちのウォーキングにはお構いなしに、ホースウィスパラーと馬たちは対話をするようにずっとパフォーマンスを続けています。

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ファーストルックはステラらしいサビルロウ仕立てのスリーピース。 photo:Imaxtree

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正統派のピンストライプのベストとパンツも、シルエットの対比でモダン・フェミニンに。 photo:Imaxtree

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馬と人が一体になったランウェイ。どちらからも目が離せない。©︎Lauren Dunn

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ボーイフレンドパンツにデニムをパッチワーク。デニムには再生コットンを使用。 photo:Imaxtree

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ウエストシェイプが女らしいタキシードコート。インにはチェーンのボディアクセサリーだけ。 photo:Imaxtree

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ショーの終盤ではスーツやコートのテーラリングをフェミニンな赤に染めて。 photo:Imaxtree

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馬が主役なのはパフォーマンスだけでなく、馬がインスピレーション源のルックもランウェイで躍動。アメリカ原産の馬、アパルーサの斑点を写したようなカーリーウールのコート、後ろ脚だけで立つリアリングホースがグラフィックに描かれたジャカードニット、90年代を彷彿とさせるラグビーシャツにも馬のワンポイントが施されている。

ステラの馬モチーフといえば、クロエ時代の2001年春夏のショーが頭に浮かぶけれど、彼女の馬への愛は今シーズンより大きく温かく表現されているよう。この23年冬コレクションのテーマが愛ーー母、娘、自然、人間、動物への愛と聞くとそれも納得です。
ショーリリースにも書かれていたように「選べるなら馬だけで旅をしたい」と語っていたほど、馬を愛していた母のリンダ・マッカートニー。その愛に応えるように、ステラは彼女の馬の写真をラストのスリップドレスのシリーズにプリントしました。母やステラと同じように馬を愛する姉、やはり写真家として活躍するメアリー・マッカートニーの写真はジャカードのポロニットのイメージ源に。
ステラにとって馬は家族の絆、家族の愛の象徴なのだと思います。彼女は自分が受けた愛をいま娘たちへ、そしてすべての命あるものたちへと渡していこうとしているのでしょう。

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妹のメアリー・マッカートニーの写真がインスピ源となった馬のグラフィックプリント。 ©︎Lauren Dunn

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馬のアパルーサの斑点模様にインスパイアされたというモチーフをコートに。 photo:Imaxtree

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90年代に思いを馳せるラグビーシャツの胸元のワンポイントも馬と蹄鉄。 photo:Imaxtree

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ピクセル化したリアリングホースもさまざまなアイテムに描かれて。 photo:Imaxtree

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フィナーレのスリップドレスは亡き母へのオマージュのよう。 photo:Imaxtree

彼女の愛が人間や動物だけでなく、地球全体に注がれているのはいうまでもありません。先シーズン91%だった持続可能な素材の使用が、今回は92%、これまでで最もサステイナブルなコレクションになったということ。ウエアに使われている素材は責任を持って調達されたものばかり、植物性でプラスチックフリーの循環型素材MIRUM®を使ってアイコンバッグのファラベラを刷新、リンゴの廃棄物を利用したAppleSkin™️のS ウェーブやフレイムが誕生するなど、バッグコレクションも愛ある進化を続けています。愛はすべての始まり。彼女が愛の力で変えようとしているファッションの未来、それは私たちみんなの未来でもあるのです。

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さあ、フィナーレ。馬もモデルもお疲れさまでした。©︎Stella McCartney 

>>ステラマッカートニー、コレクション全ルックへ

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憧れのパリシック、IRIEの展示会。

Loveいっぱいの気持ちで会場を後に、久しぶりのIRIEの展示会に向かいます。IRIEのブティックが日本を撤退してかなりになるので、IRIEをご存知ない方も多いかもしれません。でも、IRIEは私にとってはずっと憧れのパリシックを代表するブランドのひとつ。デザイナーの入江末男さんは1970年にパリに来て、高田賢三さんのアシスタントを10年間務めた後、80年代前半は日本のStudio-Vの専属デザイナーとして活動、83年にIRIEを設立してパリ左岸に1号店をオープン、半世紀に渡ってこのパリを拠点に活躍しているレジェンドです。

いまは新宿伊勢丹でも取り扱っている、洗濯機でも洗えるデイリーウェア、IRIE WASHがメインとなっているようですが、90年代、プレ・オウ・クレール通りにあるIRIEのブティックはパリのおしゃれを手に入れるために訪れるべき旅のマストアドレスでした。ここでカルソン(今でいうレギンスです)とジャケットを買うのがお約束。それ以外にも小粋なパリジェンヌの日常着が揃っている聖地でもある。

このフィガロ・ジャポンにも入江さんに何度も登場していただきました。とてもお世話になっているうえに、いつ伺っても心からのおもてなしをしてくださるハートのある方。さりげないパリジェンヌスタイルという服に加えて、なによりご本人がチャーミングで魅力的な人物なのです。これも洗えるとは驚きのシックなパンツスーツやコケットリーなフリンジのミニドレスなどの新作を見ながら、おしゃべりをしているとあっという間に時間が過ぎていく。

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左:ショールームに待機している専属モデルが最新ルックを披露してくれる。 右:60年代を思わせるフリンジのシフトドレス。これも洗濯機で洗えます。

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クワイエット・ラグジュアリーを象徴する、The Rowへ。

IRIEでタクシーを呼んでもらい、午後のルイ・ヴィトンのショーまで、The RowValentinoのRe-seeをこなします。ヴィトンの前にランチできそう、と思っていたら、この後とんでもない事件が! 事件というより私のうっかりでしかないのですが。ショーを見られなかったThe RowはRe-seeでキャッチアップと、ショールームに入るなり携帯を出そうとしたのですが、ない。恥も外聞もなくバッグの中身を展示用テーブルの上にすべて出して探しても、け、け、け・い・た・いがな〜い! 背筋が凍りつきました。さっきのタクシーの中で携帯のMapで住所を確認し、その後バッグにしまわず座席に置いてそのままにしてしまったに違いない。あ〜、なんてこと、どうしよう? どこに連絡すればいいの? でも、連絡しようにも携帯がないんだ〜。がっくり肩を落とす私でしたが、その場に居合わせた皆さまがタクシー会社やIRIEに連絡をして、私の携帯の行方を追跡。そのおかげで30分後に、なんと、なんと見つかりました〜。皆さま、本当にありがとうございました(うれし涙)。あらためて御礼申し上げます。無くした携帯が見つかるなんて、パリでは奇跡かもしれません。その後に乗った乗客の方が座席にある携帯に気づき、ドライバーさんにそれを預け、入江さんからの連絡を受けたドライバーさんが、夕方までにショールームに届けてくれることに。なので、今日の夕方までは携帯なしですが、でも、再び手元に戻ってくることがなにより。

さて、気分を取り直し、The Rowの24Winterに戻りましょう。昨年オープンしたばかりのパリオフィスのショールームには、今回のコレクションに合わせたモダンな家具が置かれ、そこに洋服が展示されていて、Re-seeのセットそのものがまた素敵なのですが、あ〜、携帯なしでは写真も撮れない! でも、まさにクワイエット・ラグジュアリーを象徴するうっとりするような服ばかりだったので、最新コレクションに少しだけ触れておくとーー。

アシュリー・オルセンとメアリー=ケイト・オルセンが最高級の素材で作る、繊細でミニマルなスタイルは今シーズンも変わらない美しさを放っている。彼女たちの追求する正確無比なテーラリングのパンツススーツやコートに加えて、今シーズンはラッピングスタイルともいえるレイヤードの着こなしが新しい。ランウェイでのファーストルックは実はタートルネックのショルダーケープにダブルフェイスカシミヤのロングケープをダブルで重ねたもの、同じケープをダブルフェイスのコートの上からかけて裾を結ぶと、アシンメトリーなシルエットのできあがり。どんなに重ねても高品質のカシミヤはふんわりと軽やか、The Row でしか完成しないコーディネートです。静謐な服は着る人を雄弁にする、そんな彼女たちのフィロソフィーが伝わってきます。

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左:頭からかぶるだけのラッピングケープを重ねたファーストルック。 右:スクエアなケープの裾を結ぶだけで違った着こなしが楽しめます。 photo:Imaxtree

>>ザ ロウ、コレクション全ルックへ

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ルイ・ヴィトンのショー会場はオルセー美術館。

携帯事件で時間をとられてしまったので(助けてくださった皆さまもお忙しいなか、貴重な取材の時間を割いていただき、ありがとうございました)、ヴァレンティノのRe-seeを慌ただしく見て、ルイ・ヴィトンへ移動。結局ランチは抜き、です。パリコレの最終日にルーヴル美術館で開催されることの多いルイ・ヴィトンですが、今回のショー会場はオルセー美術館。22-23秋冬もそうでしたが、オルセー美術館が休館の月曜日にスケジュールそのものも変更になっています。ルーヴルが会場だとそちらの休館日、火曜日に発表されるはずですが。年2回、2月から3月にかけてと9月から10月にかけて開催されるパリのプレタポルテコレクションは、月曜日にスタートして翌週の火曜日に終わるのが恒例のスケジュール。毎年、カレンダーでその日程はずれますが、曜日は変わらず、となっています。

というわけで2回目となるオルセー美術館での開催ですが、今回選ばれた場所は2階のサロン。そのなかのひとつ、レストラン「Le resutaurant d’Orsay」に先シーズンに引き続き現代アーティスト、フィリップ・パレーノと、プロダクションデザイナーのジェームズ・チンランドが手がけたセットが設置されています。ここはこの建物がまだ駅舎だった頃、貴賓室として使用されていたというだけあって、フレスコ画の天井やシャンデリアがクラシックなインテリア。パリの石畳を再現したという濡れたような黒のランウェイはそれとは対照的にどこかダークなムードも。街のざわめきのような音響はサウンドデザイナー、ニコラ・ベッカーとのコラボレーション、コツコツとヒールの音が聞こえてきたと思ったら、ショーの始まりです。

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クラシックな内装とコントラストを描くモダンな石畳のランウェイ。©︎Louis Vuitton

23-24秋冬のテーマは「フレンチ・スタイルの再解釈」。ショーのセットもこのテーマに合わせて。このコレクションを進めるにあたって、アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエールはインターナショナルな顔ぶれのクリエイションチーム全員に、フレンチ・スタイルとはなにかと質問したといいます。その答えは驚くほどバラバラで、逆にそれがインスピレーションにもなったとか。その曖昧な概念を現代に密着させてモダンに再定義すること、いまのパリジャン・パリジェンヌの多様性を提言すること、それが彼の導き出したフレンチスタイルの最新バージョン。なので、ランウェイに次々と登場するルックにルールはなく多種多様。でも、どれもインパクト大でそれぞれにオリジナルの個性を主張しています。全面にタックを畳んだウエストシェイプのノーカラージャケット、メンズライクなツイードやチェックで仕立てた立体的なドレス、曲線を強調したコクーンシルエットのブルゾンやコート。膝にスラッシュを入れたシャープなスリーク、超ボリュームのバナナシルエットと、パンツもバリエーション豊富。メランジのチャンキーニット、繊細な総刺繍のスリップドレスなど、さまざまに展開されるみんなのためのフレンチ・スタイルです。誰もが自分のフレンチ・スタイルを持っている、そしてそれは時代とともにどんどん進化する。それはルイ・ヴィトンというフレンチ・メゾンで彼が追求していく終わりのないテーマかもしれません。守るべきコードがあるとしたら、洗練されていてノンシャランというスピリットだけ。

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ウエストシェイプとふんわりした袖がフェミニンなジャケット。長くたらしたベルトも今回のキー。 photo:Imaxtree

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3Dで膨らんだようなビスチエドレス。パンプス×ソックスのトロンプルイユなブーツに注目。 photo:Imaxtree

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ヘムラインが正方形となった立体ドレス。シンプルゆえにそのフォルムが際立つ。 photo:Imaxtree 

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チャンキーニットにバナナパンツのオーバーサイズミックス。ニットの裾のトリコロールのマークがフレンチ。 photo:Imaxtree

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ホルン、トランペットなど管楽器モチーフを編み込んだトリコロールカラーのニット。手袋も同じフランス色。 photo:Imaxtree

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直線、曲線、それぞれのシルエットの競演する今シーズン、シャギーファーのブルゾンは曲線の代表。 photo:Imaxtree

そんな進化系パリジェンヌのオンパレードのなか私が個人的にフレンチ要素を強く感じたのはいささかクラシックなコーディネートかも。モヘア調キャミソールとレギンスにビーズ刺繍のシフォンスカートを合わせて、首には長〜い手編みのマフラー、足元はバレエシューズの着こなし、パジャマシャツとフェイクファーの膝丈パンツにサテンのガウンというイブニングスタイル、どちらも目が釘付けになりました。すでにご報告したように携帯がないから写真も動画も撮れず、それもあって見るしかない、という事情もありましたが。

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ヴィンテージ感覚の刺繍スカートにストリートなキャミ&レギンスを合わせたミックススタイリング。 photo:Imaxtree

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パジャマシャツやガウンでドレスアップというのがフランス的。ゆるいショートパンツとのバランスも絶妙。 photo:Imaxtree

黒のパンプスに白のソックスを合わせたように見えるトロンプルイユのブーツ、ホルンやトランペットを模したブローチ、直球ストレートなトリコロールカラーのグローブなどなど、いつも以上にアイキャッチーな小物が満載のランウェイだったのですが、ノートに手書きでメモするしかなく、このあたりは明日のRe-seeのレポートでズームしてお届けします。

>>ルイ・ヴィトン、コレクション全ルックへ

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エレガント極まる、サカイのコレクション。

ルイ・ヴィトンから次のサカイまで時間がない。急いでパリファッションウィーク公式のシャトルバスに乗り込みます。今日ほどこのバスに感謝したことはありません。比較的アクセスのよい場所ばかりだったので車は手配しておらず、なのに携帯=Mapもないのですから、次のショー会場まで移動できるこのバスは命綱。今日はルイ・ヴィトンもサカイも郵送されてきた招待状だから、まだよかった。いまや半数くらいがデジタルインビテーション、メールで送られてきたQRコードをエントランスで見せる、という方式になっているので、携帯がないと招待状もなしに。今日の夕方までは、はなはだ心許ない感じ。シャトルバスは会場の真ん前に停車しているわけではなく、会場を出たら、まず黒のスーツを着てプラカードを持っているギャルソンを探して、停車している場所を聞かないと。3〜4台はあるので乗り損なう心配はないですが。ちなみにプラカードを持っている男子は、まあまあのイケメン揃いです。

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左:撮影はほかの日にしたものですが、窓に「Paris Fashion Week」と入ったシャトルバス。 右:バス利用の場合は「Official Shutlle」というプラカードを持ったギャルソンを探します。

サカイの会場は15区にある旧ルノーのガレージ。オルセーからはセーヌ川沿いの道をエッフェル塔を超えてひたすら進んでいきます。思いのほか早く到着したのか、まだ会場には入れない。エントランス前で待機していると、目の前を宇多田ヒカルさんが通り過ぎていく。周囲の人はすぐに携帯を取り出して、ですが、私にはその携帯がない! 絶好のシャッターチャンスだったのに。宇多田さん、白のミニドレスがとても似合ってました。

無機質なコンクリートのスロープをランウェイに始まったショー。モデルたちが緩やかなカーブを描きながら歩いてきます。しつこいようですが、携帯がないのでノートにメモを取るしかないのですが、そうしながらショーの間中ずっと感じていました、なんてエレガントなのだろう、と。左半身の一部を別素材に置き換えたピンストライプのトレンチコートのファーストルックからラストを飾ったトレーンをひくビスチエドレスまで、全ルックがこの思いに集約されます。

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ピンストライプのコートの左半身の一部をカットアウト。その空白には別のファブリックを。photo:Imaxtree

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ジャケットを水平にスライス、位置をずらして重ねるとフリルを寄せたような新シルエットに。photo:Imaxtree

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シャツもスカートも垂直にスライスして再構築。モノトーンがその美しさをより際立たせて。photo:Imaxtree

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フィナーレのビスチエドレスはジャケットの変換。白のステッチが未完成の美を主張。photo:Imaxtree

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「Everything in its right place(すべてのものにはふさわしい場所がある)」という概念のステートメントが今回のコレクション。「一見すると先入観で”あるべき姿”と異なるように見えても、すべての人やものにはそれぞれの居場所がある」とデザイナーの阿部千登勢さんは語っています。既成の構造を解体して、新しい美のカタチを再構築するというチャレンジ。ジャケットやシャツは水平、垂直にスライス、本来あるべき位置をずらしたり別のものとスイッチすることで、シルエットを変換、ギャザーやラッフルのような優雅なディテールへと発展させる。深いスリット入りドレスはあるはずのないバッグのショルダーストラップとパッチポケット付き、アシメトリーに揺れるヘムラインが女らしさを漂わせる。袖や裾のパーツを移動して作ったボウタイは普通とは違うけれど、クラシカルな存在感を胸元で放っている。サカイ流の破壊的エレガンスの提案です。

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バッグのショルダーストラップでヘムラインに動きを。シャツの袖のようなシフォンのボウタイで洗練度アップ。photo:Imaxtree

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スライスされたシャツとジャケットを1枚のドレスに再構築。 photo:Imaxtree

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エコファーとエコレザーのハイブリッド。スカートはボンディングでフォルムを強調。 photo:Imaxtree

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ピンストライプのパンツスーツの既成概念を変える1着。photo:Imaxtree

あるべき姿と異なっているのはショーの終盤に登場した、しつけ糸を残したような白いステッチの装飾もそう。生地をボンディングするときなどに使用する糸をあえてそのまま残したのは、未完成もまたひとつの美であることを証明するため。「常識とは違っていてもそれも美しいということを示したかった」という阿部さんの言葉を体現している。ハイブリッドというブランドのシグネチャーを進化させ、彼女はさらにその先へと向かおうとしています。阿部さんがバックステージで繰り返し語っていた「価値観」という言葉。これまでの美の価値観にとらわれない、すべての人にはそれぞれの美の価値観がある。彼女らしい「価値観」に挑戦する阿部さんの決意にも思えて、なんだか胸が熱くなるような。こんなにも心に響くショーなのに、写真の1枚もないなんてと思いながら、目と頭にしっかり焼きつけました。

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身頃や袖に残されたしつけ糸のようなステッチ。未完成の美も阿部さんの追求する価値観のひとつ。photo:Imaxtree

>>サカイ、コレクション全ルックへ

感激続きの今日のショーも終わり、バレンシアガのRe-seeにもちゃんと行って、その後にようやく携帯をピックアップ。戻ってきて本当によかった。これで安心して明日を迎えられます。いよいよ最終日ですが、なんと大々的なストライキが計画されていて、引き続きどんなハプニングがあるか。とんだ事件の1日だったので今日はホテルでおとなしく休んでラストデーに備えます。

2023-24FWコレクション

Kaori Tsukamoto
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、2022年からフリーランスとして活動をスタート。コロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami

 

text & photography: Kaori Tsukamoto

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