シャネルとle19Mの文化展示「la Galerie du 19M Tokyo」が完成するまで。職人、エディトリアル コミッティが語ったその想い。
Fashion 2025.10.24
2025年10月20日まで六本木の森アーツセンターギャラリー&東京シティビューを会場に開催されていた、シャネルとle19Mの文化プログラム「la Galerie du 19M Tokyo(ラ ギャルリー デュ ディズヌフエム トーキョー)」。2021年にパリ北部に設立し、メゾンのクリエーションに携わる職人や専門家が集う複合施設、「le19M(ル ディズヌフエム)」による手仕事を展示し、さらに日本の職人や作家たちとの創造的なコラボレーションを果たしたエキシビションだ。
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開催に向けて、本エキシビションを作り上げたエディトリアル コミッティのメンバーや関わった職人らによる4つのトークセッションが行われた。ジャーナリストのGeraldine Sarratiaをモデレーターに制作背景から想い、日本とフランスの交流、そして次世代へと繋いでいく継承についてまでを語り合った、その一部をレポート。

le19M、サヴォワールフェールを紡ぐシャネルの信念。
トークプログラム1では、シャネルのCamille Hutinとジャーナリストでモデレーターを務めたGeraldine Sarratiaによるセッションが行われた。卓越した職人たちの技術を守り、継承していく、その意義とは。
―――まず、シャネルがパリに設立したle19Mはどういう文化施設なのか教えてください。
Camille Hutin:le19M、それは創設者のガブリエル・シャネルへのオマージュとして作られた場所で、とてもユニークで卓越した職人たちの宝庫です。「19」は幸運の数字であり、所在地であるパリ19区を示すと同時に、ガブリエル・シャネルの誕生日でもある。そして、「M」はMode(モード)、Mains(手)、Maison(メゾン)、Manufactures(手仕事)、Metiers d'Art(メティエダール)を表しています。11のメゾンダール(アトリエ)で、30以上の異なるものづくりが行われ、その技術が職人から職人へと受け継がれている特別な場所なのです。
―――卓越した職人技は、継承をしていくべきものだと思います。これまでサヴォワールフェールを築いてきた歴史から何を学ぶべきでしょうか?
Camille Hutin:1985年にシャネルが最初のメゾンを取得したことから始まったle19Mですが、いまや11のメゾンダール(アトリエ)となり、約700人の職人が所属するほどとなりました。中でもルサージュは2024年で100周年を迎える歴史を重ねています。サヴォワールフェールを絶やすべきではありません。
そして、クリエイティビティに限界はないということも言及しておきたいことです。これまでも刺繍をはじめ、内装、インテリアなどでも素晴らしいコラボレーションやクリエイティブなチャレンジを続けて、全てを可能にしてきました。可能性は無限なのです。
―――今回、東京でle19Mを披露する意味とはなんでしょうか?
Camille Hutin:今回のエキシビションが東京で開催できたことは、とても光栄なことです。日本のクラフトマンシップは何100年も前から続いており、私たちにとっても同じ視点を持つ日本の職人たちと対話ができたというのは重要な時間でした。彼らと一緒に考え、一緒に作り、会話する。時間や情熱を共有し、意義ある時間を過ごすことができました。
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メゾンダールのもつクリエイティブの力。
ユベール・バレール(ルサージュ アーティスティックディレクター)、クリステル・コシェール(ルマリエ アーティスティックディレクター)、アスカ・ヤマシタ(アトリエ モンテックス アーティスティックディレクター)によるトークプログラム2では、それぞれのアトリエの魅力を解剖。
―――アスカさんがアーティスティック ディレクターを務めているアトリエ モンテックスは1949年創業以来、オートクチュールの伝統の一翼を担い、革新的な精神で知られています。力強いクリエイティブなビジョンのもと、伝統的な技術と現代的なデザインを融合させた独自のスタイルを確立し、クラシックな刺繍の洗練された再解釈をしていますよね。ルサージュの特徴を教えてください。
ユベール・バレール:ルサージュの歴史は1924年、アルベール・ルサージュが妻のマリー=ルイーズ・ルサージュとともに刺繍職人ミショネの工房を引き継いだことから始まります。刺繍とツイードで知られるルサージュは、1世紀以上にわたって現代デザインの形成に貢献し、数々の素晴らしいクリエイティブなコラボレーションを生み出してきました。伝統を革新し続ける力によって、その遺産は3世代にわたり受け継がれ、芸術性と実験精神を融合し、大胆かつ冒険的な姿勢で伝統を守っています。
―――ルマリエはいかがですか?
クリステル・コシェール:1880年創業のルマリエは、もともと羽根細工で知られるフランスのアトリエですが、その後、フラワーメイキングやプリーツ加工、クチュール仕上げ、テキスタイル装飾など、卓越した技術を幅広く取り入れてきました。これらの専門技術の融合により、アトリエ内でシームレスなコラボレーションが可能となり、唯一無二の作品を生み出しています。
ーーー今回のエキシビション開催を通して、日本に来られたことをどう感じてますか?
ユベール・バレール:繋がりを持つことの大切さを感じました。日本はとてもユニークで、唯一の文化を持っている場所。日本の職人たちの精密なものづくりを見て、私自身が改めて謙虚な気持ちになりました。いろいろな刺激を与えてくれました。
―――クリステルさん、アスカさんは日本の作家や職人とのコラボレーションはいかがでしたか?
クリステル・コシェール:それぞれが特異性を持っていることに感銘を受けました。例えば、木を編み込む、80歳の巨匠との仕事や、沖縄の芭蕉布を使ったコラボレーションもしましたが、皆さんの正確性に驚かされたのです。今回のプロジェクトは本当に嬉しいものになりました。
アスカ・ヤマシタ:私は、"技を伝えていく情熱"の部分にとても共通性を感じました。色々なことに共鳴してくださって、参加してくださり、それはle19Mの一部になりました。職人の技術力の高さだけでなく、ものづくりへの情熱、それは日本もフランスも一緒なんだと実感しました。
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歴史とクリエイティビティは、"水平線を越えて"。
トークプログラム3は、映画監督の安藤桃子、カーサブルータス編集長の西尾洋一、シンプリシティ代表で東京とパリを拠点に活動するデザイナーの緒方慎一郎、キュレーターの德田佳世、アスカ・ヤマシタが登壇。本エキシビションの中盤に位置し、日仏約30名の職人やアーティストによる作品を集めた「Beyond our Horizons」のパートを監修した5人がそのプロセスと込めた想いを語った。
―――安藤さんは「Beyond our Horizons」をどのように組み立てたのでしょうか?
安藤桃子:初めは映画監督として果たして何ができるのかと悩みましたが、今回の展示の構成は、未来から始まって過去に踏み込んでいくんですよね。それがまさに"水平線を越えて"だと感じたのです。そこから、緒方さんと話して、みんながストーリーを感じやすいものに落とし込もうと短編の物語を書いて、西尾さんがそれをもとにビジョンを広げていき......と、構築していきました。
フランスは、日本の文化ととても異なる部分があるのですが、コラボレーションの作業を重ねていく上で全ての人が開かれているのを感じたのも印象的でした。日本文化はもう少しクローズしているところがあって、静かにことが運んでいく。静かであることは、とても日本的です。それも伝えていきたいと考えていました。
緒方慎一郎:今回の展示をどうやってまとめるのかが課題でした。ひとつのストーリーを作り、どう感じてもらうかは当初から議論を重ねていたこと。私は常々「茶は人と人を繋ぐ」と思っているのですが、今回のような場で芸術にまで繋がるきっかけを作れたことは重要な機会だったと感じています。
シャネルがこの場を作り上げてくれたこと、そしてそれに関われたことはとても貴重。伝統の継承を文化としてどう続けていくか、今回関わって痛烈に考えさせられました。
アスカ・ヤマシタ:私はフランスと日本の両方にルーツがあり、このプロジェクトを通じて2つの文化を繋ぎたいと思いました。日本のアーティストとコラボレーションするのは初めてで、楽しみながら対話を重ねていきました。
―――德田さんはどのように「Beyond our Horizons」をキュレーションされたのでしょうか?
德田佳世:登壇していらっしゃる皆さんをはじめ、それぞれが縦糸のように強い個性のあるアーティストも多く関わるなかで、自分という横糸を通すことで、どのように綺麗なテキスタイルを作れるものか、と考えていました。ご来場くださった方が、見終わった後に綺麗な夕日を見た気持ちになる。そんな記憶が心に宿るような場を作りたいと思ったのです。
―――日本のクラフトマンシップの特徴とはなんでしょうか?
西尾洋一:歴史が深いクラフトが多いことでしょうか。400年前の安土桃山時代からや、200〜300年前の江戸時代から続くクラフトがあるというのがひとつ挙げられます。
ただし、伝統には新しいものを取り入れていかないと続いていかないという側面もある。今回のようにフランスのサヴォワールフェールと関わり合えるというのは、ある種、異種格闘技戦のような感じで(笑)、今後も続いていくといいなと感じました。
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伝統と革新。卓越した技術とのコラボレーションが生むものとは。
京都に本拠を置き、茶道具・土風炉を代々制作してきた善五郎家の18代 永樂善五郎。そして、建築家の村上あずさとアーティストのアレキサンダー・グローヴスによるデザインユニット、AA Murakami。今回のエキシビションにあたって、コラボレーション作品を作成した2組に話を訊いた。
―――アスカさんはと永楽さんがコラボレーションした茶碗が展示されています。共同作業はいかがでしたか?
アスカ・ヤマシタ:大きな機会に恵まれて、永楽さんに会いに京都に行くことができました。以前から陶芸に刺繍をしたいという夢を描いていたのですが、ただパーツを貼り付けることはしたくなかった。だから永楽さんに受けて入れていただかなくてはならなかったんです。
永樂善五郎:実は、茶碗に穴を開けたいと初めて聞いた時はお断りをしたんです。しかし、その後プレゼンテーションしてくれたものが、すごくよかった。透明感があって、いま自分がつくっているものにはないものを感じて、お受けすることにしたんです。
―――コラボレーションを通して、何か新しい視点を持つきっかけはありましたか?
永樂善五郎:可能性が広がったことを感じました。対話をしていく中でも、色々な違いを感じました。自分は余白でものを語るスタイルなのですが、Askaは反対に余白をなくすものづくりをする。その辺の違いも楽しみながら進めることができました。
―――AA Murakamiのお二人は、le19Mにあるアトリエのパロマとルサージュとコラボレーションをしましたね。
アレキサンダー・グローヴス:素晴らしいコラボレーションになりました。私たちのテクノロジーを活用しながら、ツイードと泡を使ってウェアラブルだけれど移り変わりを感じる、そんな作品を作りました。
制作過程で素材のサンプルなどを送り合いながらコミュニケーションを重ねたのですが、技術の最先端や新しいもの、アトリエが持つ素晴らしい技術を見て、仕事ができて光栄でした。
photography: Chanel




