VAN CLEEF & ARPELS ヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリーと東京都庭園美術館の空間がもたらすアール・デコの世界。
Jewelry 2025.09.22
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9月27日に幕を開ける『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ー ハイジュエリーが語るアール・デコ』は、4つのチャプターからなるキュレーション。東京都庭園美術館の副館長牟田行秀と学芸員の方波見(かたばみ)瑠璃子、セノグラフィ(空間演出)を手がける建築家の西澤徹夫に見どころやチェックポイントを教えてもらった。
CHAPTER1
アール・デコの萌芽
ハイジュエリーと建築をともに楽しんで。
「アール・デコというムーブメントは一体どんなものだったのか。本展ではその本質を伝えること、そしてアール・デコが多様な側面を持っていることもお伝えしたいと思っています。まずチャプター1"アール・デコの萌芽"では、1925年の博覧会でヴァン クリーフ&アーペルがグランプリを受賞した『絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット』をはじめ、煌びやかな作品の数々をご紹介していきます」(方波見)
左:『ロングネックレス』生け花を想起させるオリエンタルなデザイン。(PT×エメラルド×ルビー×サファイア×オニキス×エナメル×ダイヤモンド、1924年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:幾何学的なデザインと東洋のモチーフの調和が見事。ペンダント部分を取り外し、シンプルなチェーンだけでも使えるように仕立てられている。 右:『ローズ ブローチ』様式化されたグラフィックな輪郭で表現された大輪のバラの花。(PT×エメラルド×ルビー×オニキス×ダイヤモンド、1925年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:カラーストーンを精密に研磨し、絵画のような効果を上げた職人技が圧巻。目を凝らすとバラの小さなトゲまでもがルビーで表現されていることにも注目。
1階の大食堂には、彫刻家ブランショによる花々の模様のレリーフが。この部屋にバラをモチーフにした華麗なハイジュエリーが飾られる。
『ラペル ウォッチ』襟元に留めて着用する時計。ドロップ部分の裏側に小さな文字盤がある。(PT×カルセドニー×真珠×エナメル×ダイヤモンド、1924年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
アンリ・ラパンが内装を手がけた本館1階大客室にはルネ・ラリックのシャンデリアが下がる。アール・デコ様式の粋美ともいえる、最も華やいだ空間。
アール・デコというと幾何学的、直線的で力強いグラフィックを思い浮かべがちだけれど、華やかなバラモチーフや東洋からインスピレーションを得たエキゾティックなモチーフも、この時代のジュエリーの特徴だったことがわかる。そして時計。モダンでスピーディな生活に欠かせない時計は、この時代の人々の憧れだった。
こうしたアール・デコ初期の作品が展示されるのは、美術館本館1階。かつて大客室や小客室、大食堂として使われていた室内だ。
「マントルピースがある小客室は、とても居心地の良い空間です。そして大客室や大食堂に足を運ぶと、そこはさまざまな素材やアーティストたちの競演の場になっています。作品を展示する什器はマントルピースの石や壁紙、木材や床などの基調色に近づけたデザインで、什器そのものを部屋に溶け込ませています」と答えてくれたのは、本展のセノグラフィ(空間演出)を手がける西澤徹夫。これまで数多くの美術展でセノグラフィを担当してきた気鋭の建築家だ。近代的なミュージアムのシンプルな大空間とは異なり、ここはかつて宮家の人々が実際に住んだ家で、国の重要文化財にも指定されている1933年竣工の建物。歴史をリスペクトしながら、各部屋にふさわしいセノグラフィを工夫しているそう。
蛇紋石のマントルピースがあり、落ち着きを漂わせる1階の小客室。木立や滝などを描いたシックな壁の油彩画は、アンリ・ラパン自身が描いたもの。
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CHAPTER2
独自のスタイルへの発展
プリンセスが愛用したエメラルドも登場。
そしてチャプター2"独自のスタイルへの発展"は、アール・デコ期のヴァン クリーフ&アーペルが追い求めた立体感のある新たな造形に迫る内容。当時流行したプラチナとダイヤモンドの「ホワイトジュエリー」を中心に、彫刻を思わせる立体的なエレメントが紹介される。
「2階の妃殿下寝室にある花模様のラジエーターカバーは、朝香宮允子妃がご自身で手がけられたデザインです。ここには花モチーフのブローチなど、部屋の設えと関連性のあるジュエリーが並びます。アール・デコ建築の装飾とジュエリーをともに楽しめるのが、本展の大きな魅力となっているんですよ」と方波見。
左:『ネックレス』「ホワイトジュエリー」の典型ともいえる作品。(PT×ダイヤモンド、1929年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション 右:『コルレット』1935年、ブリュッセル万国博覧会で展示された名品。(PT×エメラルド×ダイヤモンド、1929年)エジプトのファイーザ王女旧蔵/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション。 CHECK POINT:トータル165ct にもなる大粒のエメラルドが目に鮮やか。直線的にカットされたダイヤモンドのあしらいにもアール・デコの美意識が感じられる。
チャプター2のハイライトは、豪華なエメラルドのネックレス。かつてエジプトのプリンセスが所有したこのネックレスは必見!
「1925年のアール・デコ博覧会は、工業化時代の最新のスタイルを世界に広く提案する目的で開催された国際博覧会でした」と教えてくれたのは、東京都庭園美術館の副館長、牟田行秀。アール・デコを研究する専門家だ。
『ブローチ』ベルトのバックルが着想源。リボンに通してチョーカーやブレスレットとしても着けられるデザイン。(PT×ダイヤモンド、1927年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
ボール形の照明や大きな鏡など、女性らしい雰囲気の設えが見どころの妃殿下居間。この展示室に続く妃殿下寝室には時計などが飾られる。
「フランスにはバロックやロココといった伝統的な装飾美術の歴史がありました。それが近代化の流れによって、世の中が合理的、機能的なデザインにどんどん移り変わっていく中で、あらためて新時代にふさわしい最先端の装飾のスタイルとは何かを博覧会で見せようということになったのです。主催者はフランス政府とも繋がりのある装飾美術家協会という組織でした。その副会長が後に朝香宮邸の設計や内装を手がけることとなるアンリ・ラパンだったのです」(牟田)
上奥:2階の照明を飾る様式化された花模様は少しも古さを感じさせない意匠。 上:ラジエーターカバーには日本の青海波を思わせるパターンも。
2階、妃殿下寝室にはめ込まれたラジエーターカバー。花をあしらったエレガントなデザインは允子妃自らが考案したといわれる。
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CHAPTER3
モダニズムと機能性
モダンな女性たちに愛される宝飾品を。
チャプター3"モダニズムと機能性"では、そんな社会の大変革に応じてヴァン クリーフ&アーペルが制作した進歩的な作品の数々を紹介する。ここで注目したいのは、機能性と美しさが一体化したかのような『ミノディエール』だ。リップスティックやパウダーコンパクト、シガレットケースやライター、小さな時計など、女性が持ち歩くこまごまとしたものをきれいに収納できるのが『ミノディエール』の特徴。夜ごとのダンスパーティや社交で忙しいレディたちのためにメゾンが生み出した、画期的ともいえるジュエリーバッグだ。方波見は「この作品を見た時、100年近く前のものとは思えない実用的なデザインに目を見張りました。化粧品などをきっちりしまって、フタを閉めるとモダニズム的な形態が現れます。これこそアール・デコの本質を捉えた作品ですね」と語る。
『セルクル ブローチ』アール・デコ期のジュエリーの表現における洗練されたモダニズムを物語るような優れたピース。(PT×WG×ダイヤモンド、1931年) /ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:ミニマルな形ながらもさまざまなカットのダイヤモンドやセッティングでアクセントをつけ、単調にならないように仕上げているのがさすが。
2階、若宮居間の天井から下がるカラフルなステンドグラスの照明。この展示室には『セルクル ブローチ』や色彩豊かなデザイン画が並ぶ。
『カメリア ミノディエール』 ヴァニティケースを改良したジュエリーライクなミニサイズのバッグ。(YG×ミステリーセット ルビー×ルビー、1938年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:リップスティック、パウダーコンパクト、ライター、ノートなどを機能的に収納。椿の花の留め金は取り外してクリップとして楽しむことも可能。ライターが入っているのは、当時のお洒落な女性たちが喫煙を好んだため。最先端のライフスタイルに必要な品がミノディエールに収納され持ち運ばれた。
殿下寝室の照明。部屋ごとにデザインが異なる照明も見どころ。
『ミノディエール』パウダーやライター、シガレットなどが収納できる機能的なミノディエール(YG×PT×ブラックラッカー×ダイヤモンド、1935年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:外側の直線的な装飾はいかにもアール・デコ。艶やかなブラックラッカーは日本の漆器を想起させる。
同じくこのチャプターで展示される『カデナ リストウォッチ』も、南京錠を模った大胆なフォルムが印象的。ジュエリーであり、時計でもあるこのデザインは、まさに機能美の極み。
左:寄木細工の床が残る姫宮居間と姫宮寝室。温かみのある木材をふんだんに使ったこの部屋には、ウッドを素材とした珍しい時計が飾られる。 右:『カデナ リストウォッチ』1935年に初登場して以来、現代も作り続けられているアイコニックな時計(YG×ルビー、1943年)/ヴァン クリーフ&アー ペル コレクション CHECK POINT:「カデナ」とは南京錠のこと。当時は女性が公の場で時刻を確認するべきではないと考えられていたため、小さな文字盤をさりげなくあしらっている。
優美さを失わなかった、メゾンのフィロソフィ。
「アール・デコ期のジュエリーを調べていて私が感じたのは、さまざまなデザインがどんどん幾何学的で無機質な形になっていく中で、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーは伝統的な優美さや装飾性を失わずに進化している、ということでした。王侯貴族以外にもジュエリーを身に着けて夜会に通うような女性たちがたくさん登場した時代にあって、それにふさわしいデザインをヴァン クリーフ&アーペルは次々に考え出していったわけですね」(方波見)
2階、合の間の照明は、リング状のパーツを組み合わせた形がユニーク。リング状のデザインはアール・デコ期のジュエリーにも多く見られる。
モダンな壁紙が特徴の殿下居間。ラジエーターカバーのデザインにはアール・デコ期の装飾によく見られるジオメトリックな噴水のモチーフが。
合の間の壁面。「各部屋の雰囲気に近い素材を選んで什器を設計し、什器が存在しないかのようなセノグラフィを試みました」と西澤。
また、朝香宮の邸宅も装飾に凝った部屋がある一方で、シンプルかつ実用的な部屋もある。
「1階の大客室や大食堂は、まるでアール・デコ博覧会のパビリオンをそのまま持ってきたのではないかと錯覚させるような壮麗な部屋。一方で2階の書斎は無駄な造作は避け、機能的な空間に仕上げています。伝統と革新のふたつのスタイルが同居しているのです」と牟田。大きな時代の流れの中で、20世紀らしい新たな美を生み出そうとした人々の想いが時代を超えて伝わってくる。
ジュエリーと建築のハーモニーを楽しんだ後は、新館へ。東京都庭園美術館は旧朝香宮邸を保存した本館のほか、開放的な広さの新館がある。ガラスの回廊を通って新館へ行くと、そこは一転してホワイトキューブとも呼ばれるニュートラルな展示空間。ここではチャプター4"サヴォアフェールが紡ぐ庭"と題し、メゾンが継承する職人技をテーマとしている。
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CHAPTER4
サヴォアフェールが紡ぐ庭
超絶技巧という視点で、咲き誇る花々を楽しむ。
「咲き誇るミステリーセット、華やぐエナメル、いのちを紡ぐ形と幸運......などの5つのセクションで、メゾンならではの特徴的な技をご紹介していきます。当美術館はその名のとおり緑豊かな庭園がありますから、庭というキーワードともリンクさせて、動植物のモチーフの作品を中心に展示しています」と方波見は言う。
『クリサンセマム クリップ』ルビーの赤とダイヤモンドの白との対比が強い印象を残すクリップ(PT×YG×ミステリー セット ルビー×ダイヤモンド、1937年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:ルビーの下に溝を刻み、台座のレールに溝をかませるようにして留めたメゾンを象徴するミステリーセットの技法。花びらにベルベットのような質感が生まれている。
たとえば『クリサンセマム クリップ』は、メゾンが1933年に特許を取得した、ルビーを留める爪がまったく見えないミステリーセットで仕立てられ、赤の鮮烈さが強調されている。また『ジップ ネックレス』誕生の裏側には、ウィンザー公爵夫人が1930年代に口にしたアイデアを12年以上の月日をかけてやっと実現したのだという。
『シャンティイ ジップ ネックレス』クチュールを愛するメゾンが制作した、ジッパーをモチーフとし、ゴールドのタッセルが揺れる重厚なネックレス(YG×PT×ダイヤモンド、1952年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション CHECK POINT:ネックレスをジップアップするとブレスレットに形を変える。小さなパーツまですべて手作業で組み上げるという、目を見張るような超絶技巧。
『スモール ブーケ クリップ』メゾンに受け継がれるエナメル技法を駆使して表現された小さな青い花束。(YG×エナメル×ダイヤモンド、1938年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
『シルエット クリップ』現代の「フラワー レース」コレクションのインスピレーション源にもなった金工芸の技が光る貴重な作品。(YG×ルビー×ダイヤモンド、1937年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
『ローズ ド ノエル セット』宝石彫刻の技巧を象徴するコーラルの花びら。クリップとイヤリングがセットになっている。(YG×コーラル×ダイヤモンド、1970~71年)/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
思わずため息が出るような歴史的名品が並ぶ会場。輝きを目にした時の感動が、その人の胸の中で永遠に息づくことを願い『永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル─ ハイジュエリーが語るアール・デコ』というタイトルがつけられたのだそう。忘れられない輝く瞬間に出会うために、この稀有な展覧会へ足を運びたい。
2014年に完成したコンテンポラリーな新館。広いギャラリーがあるほか、庭園を眺めながらゆったり寛げるカフェや、ミュージアムショップも併設。
Story 01.>>
東京都庭園美術館に集結、 ヴァン クリーフ&アーペルのアール・デコの輝き。
Story 03. >>
メゾンの歴史研究者が語る、アール・デコの魅力。
会期:9/27~2026/1/18
会場:東京都庭園美術館
営)10:00~17:30最終入場
※11/21、22、28、29、12/5、6は19:30最終入場
休)月、10/14、11/4、25、12/28~2026/1/4、1/13
※10/13、11/3、24、2026/1/12は開館
料)一般¥1,400
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/
photography: ©Van Cleef & Arpels (objects), Aya Kawachi text: Keiko Homma