ビフォーアフター!105平方mのアパルトマンがふたつの居住空間に。
Lifestyle 2023.10.09
スタジオ・ガゼルがパリ10区の105平方mのアパルトマンを家族用の住居と賃貸向けワンルームに大改造した。
オスマン様式のアパルトマンをふたつの独立した空間に分割するリフォームに挑戦したスタジオ・ガゼル。寝室だった部屋が明るく開放的なキッチンに生まれ変わった。photography: Studio Gazelles
スタジオ・ガゼルはそもそも友情の物語だ。アナスタジア・エカラールとメラニー・ジョランは、パリのデザイン専門学校エコール・ブルーで出会った。デッサンが好きで、しっかりした性格という共通点から、ふたりは意気投合。最初は建築事務所やフリーランスで、それぞれに経験を積んだ。
現場の仕事を一緒にやったらどうかと提案したのは、ふたりにプロジェクトを持ちかけた共通の友人たちだ。こうして2017年にスタジオ・ガゼルが誕生した。持続可能性、循環型建築、職人技術の尊重を理念として掲げた建築デザイン事務所の事業はすぐに軌道に乗った。個人のアパルトマンや事務所だけでなく、パリのレックス・クラブのコンサート会場、4つ星ホテル「ル・ルレ・サン・ジャン」など、ふたりがこれまで手掛けてきたプロジェクトはバラエティに富み、デザインと人間工学、光の造形、詩情をミックスしたスタイルはいまやシグネチャーとして知られている。そのエスプリは、彼女たちが初めて発表した家具コレクションにも、そして今回紹介する、オスマン様式のアパルトマンをふたつの独立した居住空間に改造したリフォームにも感じることができる。
studiogazelles.com
出発点
「クライアントはふたりの子どもを持つカップル。彼らにとって、このオスマン様式のアパルトマンの購入は一種の投資でもありました。もともとは別のエリアで、自分たちの予算に見合った、もう少し小さなアパルトマンを探していたのですが、10区にあるこの105m2のアパルトマンを訪れたときに、これをふたつに分割するアイデアを思いついたそうです。家族用の住居と賃貸用ワンルームに分け、予定より増えてしまった融資の返済に充てることにしたのです。23平方mの独立したワンルームと、リビング、キッチン、浴室、寝室2部屋、トイレ、そしてゲストルームとしても利用できる衣装部屋からなる82平方mの住居。この二つを設けるために、空間を一から見直すことが、私たちに与えられたミッションでした。また、すべての部屋に自然光が入るようにすることも課題でした」
玄関
「パリのアパルトマンの例にもれず、玄関を入ると、扉が並ぶ薄暗い廊下が長く伸びていました。そこに光を採り入れて閉鎖的な印象をなくそうと考えました。もともと壁で仕切られた寝室があったスペースにオープンキッチンを設けて光を取り込みました。また、居間は扉を取り払い、浴室部分はスライド式扉で隠すことに。廊下の突き当たりは衣装部屋で、寝室につながっていますが、この扉も壁と一体になるようノブをなくしてなるべく目立たない仕上げにしています。全体が軽い印象になるよう、あえてモールディングを裁断し、ルスルス社の濃いグレー、SILEX色のペイントで壁自体を際立たせました。それ以外の壁は白で、コントラストが明るい印象を作り出します。また、素材も明るさに影響します。床板はもとのままですが、削り直してマットなニスを塗り、無垢の質感を出しました。オークより明るい色合いの白樺材も使用しています。キッチンのタイルもやはり明るさを考慮して選択しました。照明も軽さを強調するために軽やかなデザインに仕上げています」
ビフォー:典型的なオスマン様式のアパルトマンの玄関。薄暗い長い廊下に扉が点々と並ぶ。見直すべき箇所は多い。photography: Studio Gazelles
アフター:光を採り込んだ個性のある玄関。photography: Studio Gazelles
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キッチン
「キッチンと居間をひとつにまとめるというアイデアもありましたが、そうすると、リビングとダイニングに充てる空間がかなり限られてしまいます。そのため、早い段階で、キッチンを独立させることに決めました。建物の規約上、この小さな元寝室にしか、水道管や排水設備を新規に敷設することが許可されなかったので、キッチンはこの部分に設置するしかありませんでした。そのようなわけで寝室だった部屋が開放的なキッチンに生まれ変わりました。床材はイタリア製の白とピンクのテラッツォ、カウンターと調理台はコーリアンです。やはり採光を最優先に考えて、全体にミニマルな仕上がりになっています。人をもてなすのが好きな家族なので、キッチンはアパルトマンの中心です。そのため、カウンターがキッチンの境界線として、キッチンと廊下を“象徴的に”仕切る役割を果たすようなレイアウトを考案しました。カウンターでは朝食を取ったり、友人たちとアペロを楽しむこともできます。収納に関しては、イケアの家具を採用し、それを階段状に組み合わせるアイデアを提案しました。低い棚は子どもたちがその上に乗って、調理台で両親と一緒に料理ができるようなレイアウトになっています。カウンターのそばの低い棚もベンチとしても利用できます。多様な使い方ができるように、お掃除しやすい素材を選びました。団欒の場にふさわしい温もりのある空間になるよう、カーテンを取り入れ、壁の一部に風景が描かれた壁紙を貼っています。これは湿気の多い部屋向けに開発された壁紙です。美観を考慮して、見栄えのよくないものはすべて整理して仕舞えるようにしました。玄関とキッチンを繋ぐ木製のアーチが空間を区切り、料理関係の本や多少の食器類も収納できるようになっています」
ビフォー:想像しにくいが、この小さな部屋がキッチンに生まれ変わる。photography: Studio Gazelles
アフター:白樺材のアーチがアクセントのキッチンは家族や友人たちと過ごす憩いの場。photography: Studio Gazelles
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居間
「居間はキッチンの向かい側です。前のオーナーは造りつけ家具を沢山持っていましたが、空間を広く使うためにそれらは撤去。やはり光が隅々まで行き渡るように、家具は背の低いものに限定しました。とはいえ“大改造”を行なったわけではありません。オスマン様式の美しく快適な空間がそこにあったわけですから。暖炉の前にダイニングスペース、反対側にリビングスペースを配置することにし、リビングスペースには、もともと扉があった場所にできたニッチを利用してワークスペースも設置しました。同じ壁の右側には寝室の扉がありましたが、この部屋は独立したワンルームになったので、扉を完全に塞いで、戸棚を設けました」
ビフォー:大きな備え付け家具が並んだ居間。photography: Studio Gazelles
アフター:すっきりしたダイニング。photography: Studio Gazelles
ビフォー:壁際に寄せられたダイニングスペース。photography: Studio Gazelles
アフター:明るいリビング。塞いだ扉と煙道は戸棚とワークスペースに生まれ変わった。photography: Studio Gazelles
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子ども部屋
「ここはもともと寝室でした。この部屋には衣装部屋からアクセスします。衣装部屋はゲストルームとしても利用できるように、壁収納ベッドも取り付けました。主寝室側からもアクセスできるようになっています。廊下の突き当たりにある、ほとんど目につかない扉が衣装部屋の入り口です。この部屋の大きさは変わっていません。もともと暖炉があった壁の左右にニッチをふたつ作りました。色を使うことで空間にリズムが生まれます。“ワークスペース”には濃いめのピンク、窓の向かい側の壁には淡いピンクを選びました。玄関やリビングと同様に、床はもともとあったものを活かし、無垢の感じを引き立たせるために少し手を加えました。天井の菱形模様のモールディングはそのまま残しました。とても美しい、珍しいデザインです。クライアントのこだわりの木のおもちゃもディスプレイしました」
ビフォー:日当たりのいい、こざっぱりとした寝室。photography: Studio Gazelles
アフター:ふたりの子どものための部屋。煙道の両脇に造作したニッチに小さなワークスペースをふたつ設置。濃淡のピンクが空間にリズムを生み出している。photography: Studio Gazelles
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主寝室
「この部屋に幅180cmのベッドを置くことがクライアントの要望でした。ミッションをクリアするためには、暖炉を撤去せざるをえませんでした。暖炉があった壁を背にしてベッドを据え、ベッドの上部を囲むようにアーチを取り付けました。煙道部分を利用して、ナイトテーブルを兼ねたニッチを造作。家具を置く余裕がほとんどなかったので、これはとてもいい選択でした。ベッド周りのアーチ型収納棚は、イケアのボックスにオーダーメイドのカナージュの扉を取り付けたものです。アーチの内側には玄関のアーチとおそろいの白樺の板を貼り付けています」
ビフォー:暖炉のある寝室。幅180cmのベッドを入れるために暖炉は撤去することに。photography: Studio Gazelles
アフター:明るさがぐっとアップした寝室。暖炉の代わりに設置されたアーチ付きのキングサイズのベッドは収納力も抜群。photography: Studio Gazelles
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浴室
「浴室はアパルトマンに入って左手にあります。もともと、トイレのある大きめの浴室がありましたが、クライアントの希望はセパレートタイプのトイレ。そのためレイアウトを一から考え直しました。玄関に面したスライド式の扉の裏がランドリースペースで、トイレと浴室へはそこからアクセスします。浴室は小さめです。バスタブは窓の下に、シャワーキャビンはその正面に設置しました。タイルの目地の数はあまり多くない方がいいということで、グリーンの腰板には大判のタイルを使用しています。これにじゃ小さな浴室を広く見せる効果もあります。コック類は目地に合わせて黒を選びました。波のモチーフが描かれた防水加工の壁紙が個性を感じさせます。予算の都合で、家具はイケアの引き出しを利用し、それにテラッツォの洗面台を組み合わせてカスタマイズしました」
ビフォー:トイレのある広い浴室。photography: Studio Gazelles
アフター:使いやすさを重視したコンパクトな浴室。photography: Studio Gazelles
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ワンルーム
「ワンルームに充てられる床面積は23m2でした。もともとこの部分には寝室とキッチンがありました。そこに生活空間とキッチンコーナー、大きめのシャワーキャビンのある浴室を設けました。バルコニーもあります。もちろん、この独立したワンルームを作るために、建物の共同の踊り場に玄関を新たに設ける必要がありました」
ビフォー:居間に面した寝室。この部屋がスタジオの中心となる。photography: Studio Gazelles
ビフォー:もともとあったキッチンもステュディオの一部となる予定。photography: Studio Gazelles
アフター:すっきりとした生活空間。photography: Studio Gazelles
アフター:快適なバルコニー。photography: Studio Gazelles
アフター:機能的な浴室。photography: Studio Gazelles
アフター:調理器具が完備されたキッチンコーナー。photography: Studio Gazelles
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text: Vanessa Zocchetti (madame.lefigaro.fr)