生涯の相手はただひとり? 運命の人とのソウルメイトは存在するの?

Lifestyle 2024.03.03

自分はソウルメイトと出会って結ばれたという話を聞くことがある。だが最高に相性の良い相手は本当に生涯ただ1人だけなのだろうか。専門家の意見を聞いてみた。フランスのマダム・フィガロ誌のリポート。

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赤い糸で結ばれている運命の相手というのは存在するのだろうか。photography : venimo / Getty Images/iStockphoto

香水鑑定士のジュリエットは44歳、ロマンチストを自認している。それも「白馬の王子様の存在を信じ、運命というものに惹かれる筋金入りのロマンチスト」だと言う。これまでずっと、ソウルメイトを探し求めてきた。誰かの微笑み、視線の裏に隠れているのではないかと。これまでたくさんの男性を振ったり、別れたりしてきた。そのうちのふたりは本当に好きだった。「でもこの人が"唯一無二の存在"ではないと感じていた。自分がこうなのは(ジュリエットなんて)名前のせいかもね」と彼女は苦笑いした。

ところが数ヶ月前のこと、とうとう運命の出会いをしたのだそうだ。「彼、エティエンヌは仕事帰りの同僚と一緒だった。ひと目で耳鳴りがして身体がほてったり冷たくなったりした」とジュリエットはその時のことを語る。ひと目ぼれだ。数日後、エティエンヌとジュリエットはパリ6区のビストロでデートした。「その晩はお互いの共通点を発見するのに忙しかった。好きな映画のような些細なことから、実は同じ場所へ同じ時期に旅行していたという驚愕の事実まで。しかもエルサレムとアンコール遺跡群の2箇所に!」と言うとジュリエットはいかに彼が完璧な相手かを語りはじめた。エティエンヌと一緒にいると、彼女は "やっと自分の居場所に戻った "と感じる。ふたりは"一心同体"で、片方がしゃべるともう片方が続ける。同じ価値観を共有し、同じ信念に導かれている。「エティエンヌは間違いなく私のソウルメイトだわ」

かの有名なソウルメイトの概念は、ロマン主義時代に真実の愛という神話が生まれて以来、現代社会に深く根付いている。文学、詩、映画等の文化表象は、気持ちや信念が完全に調和した一心同体の関係というユートピアをあおり続けている。しかし、本当に唯一無二の相手がこの世に存在するのだろうか。

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ほとんど宗教に近い恋愛観

その名もずばり、『Soul Mates(ソウルメイト)』という著作があるアメリカ人作家のトマス・ムーアはそう信じている。修道院で12年間過ごしたあと、スピリチュアルな問題の専門家を自称するようになり、各地で講演を行なっている作家はその理由を次のように説明する。「ソウルメイトとは、あなたの奥底に隠されている自我、あなたの魂そのものに触れてくる相手です。単に感情だけでなく、あなたの存在全てに基づいた関係なのです。すべてが関わります。気持ちが結びつくだけでなく、魂同士の結びつきのようなものなのです」

プラトンの教えを思い出させるような定義だ。ソウルメイトの概念を最初に広めたギリシャの哲学者は『饗宴』の中で、人間が2つの顔、2つの性、4本の足、4本の腕を持つ時代があったと語る。そこにギリシャ神話お定まりの悲劇が起こる。貪欲な人間は神々の住むオリンポス山に足を踏み入れようとし、主神ゼウスの怒りを買った。ゼウスは罰として人間を2つに引き裂き、完全な充足を得るには、自分の片割れを見つけなくてはならない運命を与えた。この寓話がその後、何十世紀にもわたるロマンスや愛の概念を育んだ。いまもなお、たくさんの人々が地球の人口80億人の中から運命の人を探したいと思っている。「ほとんどの人にとって、"ソウルメイト "とは、自分と出会って一緒になる運命を持つ人のことです。魔法を信じるようなものですが、私は魔法に対して肯定的な考えを持っています。それに愛というものは魔法が多く作用していると思っています」とトマス・ムーアはコメントした。彼がそう思うようになったのは、ひと目惚れしたとか、ひと目見ただけで運命の人と悟った等の体験談を見聞きしてからだ。

今回、10人ほど会った取材相手も皆、異口同音に自分たちの関係が知性、感情、性的な面などあらゆる点で調和していると語っている。そして自分のパートナーは「安らぎの源」、「ふたりの存在の基盤」、「大小の幸せの源」なのだと言う。恋愛関係を専門に研究する心理学者で心理療法士のヴェロニク・コーンは、こうした人たちの存在を次のように説明する。「19世紀以来、私たちはロマンティック神話にどっぷり浸かってきました。今日、解体する社会を前にしてその気持ちは強まっています。私たちは自分を癒したい、安心できる場所を見つけたいのです」。取材相手は皆、ほとんど宗教に近い恋愛観を持っていた。いかに「運命的な出会い」をし、「精神的なつながり」があるかについて語る。ひたすら美しく、愛情に満ちた彼らの恋愛話は現実を美化しているように思える。だが彼らが少数派なのではない。2021年4月に世論調査機関OnePollが実施した調査*によれば、フランスの未婚者の56%が、ソウルメイトの存在を信じている。

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絶対的なものを求める重さ

だが信念というものは重たかったりする。独り身の人の30%が、真実の愛を逃してしまうかもしれないプレッシャーを感じると答えている。そこから漠然とした不安もうまれる。「絶対的なものを求めるあまり、あまりにも多くの人が、目の前にある関係やそこから得られるかもしれないものに対して自分を閉ざしてしまうのです」 と心理学者のヴェロニク・コーンは嘆く。なんと残念なことだろう。しかも科学者の話を信じるならば、相性の良い相手はたったひとりではなく、たくさんいるはずなのだそうだ!『The Life-Changing Magic of Numbers(原題訳:人生を変える数字の魔法)』の著者である数学者ボビー・シーガルは、12の因子(年齢、性別など)を組み込んだアルゴリズムを使って、フランスでは未婚者1人に対して相性が完璧な相手が30人いることを論証した。

心理学者のヴェロニク・コーンもソウルメイトという概念をかなり懐疑的に見ている。「カウンセリングで、今の相手が自分のソウルメイトだと確信している人をたくさん見てきました。運命によって結ばれたと思いこんでいるため、きちんと関係を築き、強固にし、維持するために必要な努力をすっかり怠っているのです」と嘆く。心理学者によれば、これは期待に応えなければならないという強いプレッシャーをカップルに与えるものだし、最悪な場合、共依存に陥って有害な関係となり得る。

39歳の翻訳家、イクラムは7年間、仲良し夫婦を続けてきたのに、ほぼ1年前破局した。破局するまでイクラムは何も気づかなかった。「完璧な夫婦だと思っていました。ケンカもほとんどせず、出会った日のように愛し合っていました。いつでも頼りにできる相手で、彼が調子いいと私もそうでした」と振り返った。だが相手はそうしたお互いの近さがまさに息苦しかったようだ。彼は、ふたりの人生が夫婦関係に終始していると感じていた。「幸せになれる唯一の男性を見つけたと確信していたのに、彼を失ってもう終わりだと思いました。死にたかった。ソウルメイトはひとりだけだから、もう死ぬまで独身でいるしかないと絶望しました」とイクラムはその時の気持ちを語った。

だがある友人と話すうちにイクラムは発想の転換をした。「幸せになれるかどうかは自分次第だと気づいたのです」と彼女は心境の変化を説明した。心理学者のヴェロニク・コーンは、「一緒に幸せになれる人を見つけようとする態度は有益に思えます。でも相手が見つかれば幸せになれると思うのは違います」と指摘する。幸せになるカギは自分の中にあるのであって、相手を探して得られるものではない。「自分が満たされる手段を外に求めてはいけません。逆に自分自身を受け入れ、さらに、常に満たされた状態はないことも受け入れなくてはなりません。私たちは常にゆれ動く存在なのです」とヴェロニク・コーンは言った。

運命、カルマ、恋の輪廻転生、ひと目惚れ、ソウルメイト......それをどう呼ぼうと、愛とはなにかを決めるのは人それぞれだ。しかし、運命にせよ自分の選択にせよ、愛のルールは変わらない。相手だけがすべてという関係になってはいけない、そして夫婦関係を継続するための努力を怠ってはならないのだ。

*2021年4月20日から23日にかけて、フランスの出会い系サイト「Badoo」の未婚ユーザー1,000人を対象に実施された調査。

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text : Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr)

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