年代別ワンナイト白書〜case2:20代、30代でワンナイトを経験Bさんの場合。「ワンナイトは気持ちの切り替えのためのスイッチでしかない」。
Lifestyle 2025.06.13
意外なことに、人間の性経験の豊富さは、性欲の強さと必ずしも比例しない。ワンナイト経験があると性欲が強いかというと、むしろ全く逆のケースも存在する。今回取材したBさんは、過去に経験したワンナイトを「自分にとっては髪を切るみたいなこと」だったと表現していた。果たしてどういう意味なのか? 現在40代で夫とはレス。「このまま一生なくてもいい」と話す彼女のワンナイト・エピソードを、恋愛コラムニスト・さかいもゆるが考察。
セックスにまつわる取材をしていると、ほんのりセックスが嫌い、という女性が多いことに気づく。今回取材したBさんもそんなひとり。現在は40代で2児の母、夫とは7年以上もレス。そんな彼女は20代と30代で、それぞれ1度ずつワンナイトを経験して来た。彼女にとって、ワンナイトとはどんな行為なのだろう。
---fadeinpager---
Case1. Bさん 42歳 既婚者
1度目のワンナイトは20代後半、2度目は30代。どちらも失恋がトリガーだった。
「20代のときの方は、落ち込んでいた私を友人がクラブに誘ってくれたときのこと。相手はひとりで来ていた、5歳くらい年下の男性。見た目は悪くないけど、特に好みというわけでもない。向こうは慣れている感じで、会話もスムーズでした」。一緒にいた友人が(空気を読んで)先に帰ったあと、「このあとどこか行かない?」という流れに乗った。「相手の部屋に行くと、お茶を淹れてムードを作ってくれたけれど、内心、そのプロセスめんどくさいなあ、とかぼんやりと思ってました(笑)。その後は流されるがままにコトに及んだけれど、行為中、私はといえば無の心境。感じるということも全くない。相手に失礼にならない程度には少し演技して合わせたけど、ずっと『早く終わらないかな』と考えてましたね」。
終わったあとは、好きだった人への想いが溢れてきて、涙が止まらなかったという。
---fadeinpager---
ワンナイトは、気持ちのスイッチのようなもの。
30代でのワンナイトも似たような流れだった。
当時、上手く行きかけていると思っていた男性がいた。彼に会えると思い仲間内の集まりに参加したものの、結局彼は来ず、さらに既婚者だったという事実を知ってしまった。「めいっぱいおめかしして、可愛い下着まで準備して行ったんです。なのに予想外のことが起こりまくって呆然。その夜は、そのままひとりで帰りたくなかった」。
相手はその集まりに来ていた、初対面の男性。このときはムード作りも何もなく、部屋に行ったら即押し倒されたのだけれど、「話が早くていい! それでこそ」と彼女。
「今思えば、どちらのワンナイトも性的欲求からではなくて、私にとっては失恋したから髪を切る、みたいなこと。それをすることで、上手く行かなかった本命との関係に見切りをつける儀式みたいな。気持ちに区切りをつけるためのものだから、相手が誰であろうと変わらない。ただ、やることが一緒なだけ」。
---fadeinpager---
経験を経て気がついた、自分にとっての性。
ワンナイトのセックス自体は、恋人とのセックスも違いはないという。なぜならBさんは行為中は誰とでも無の境地。「好きな相手ならば触れ合える嬉しさはあるけど、感じるとかイくとかもないから、相手が喜んで満足そうにしてくれれば、それでいい。基本的には最中はずっと演技しています」。
どこまでも性に対して醒めている自分を「リアリストなんですよね、私」というBさん。2度のワンナイトを経験して、自分にはセックスという行為は必要ないと気づいたそう。
このままセックスがない人生でも平気。
「ワンナイトは自分にはフィットしないなと思いました。結婚した夫とは7年くらいレスだけど、悩む気持ちは皆無。元々セックスするくらいなら睡眠時間に充てたいと思っているので今は夫婦生活がなくなってラクだなあという解放感でいっぱいです」。
そもそもセックスって変な行為ですよね、と彼女。「冷静に考えればすごいおかしな動きをしたりするし、付き合っている相手とですら嫌なときがありましたもん」。
それでも、「このまま一生誰ともキスとかしないで人生終わるのかな」と漠然と考えるときはある。「周りを見ていると、成功している人ってみんな性欲が強いんですよね。セックスって本能だから、性欲が強い=生き物として強いんでしょうね。そうやって、性欲がない私のような人間は、自然界に淘汰されて行くのかもね」とBさんは自虐的に笑う。
---fadeinpager---
性欲がなくても行きずりの関係を持つ女性たちの心理とは。
そんな彼女の初体験は20歳を過ぎてから。性的な匂いが一切排除された家庭で育ったこともあり、人よりも性への目覚めが遅かった自覚があるという。つまり元々性的関心が薄かったということだろうか。
世の中には食に対する関心が薄い人も居れば、私のように「この世の美味しいものすべて味わい尽くしてから死にたい!」と貪欲なタイプも存在する。性欲もきっと、そんな感じなんじゃないか。セックスは人間の本能かと思いきや、A子さんのように、そもそも性の快楽に興味がなく、あくまで"世間体"や"社交辞令"、もしくは妊活のために仕方なくしているという女性もいる。
ただ、果たしてこれは、女性だけの傾向なのだろうか?とふと思った。だとしたら、それは肉体的構造によるものなのか、それとも心理的なものなのか。
男性は基本的には「擦ればイケる」けれど、女性の快楽やオーガズムって、もっと複雑でデリケート。さらに環境によっては、性的快楽は恥ずべきものだと刷り込まれて、欲望を解放できないという場合だってあるだろう。
そんな女性が行きずりの関係に身を任せるとき。そこには、肉体的快楽以外の、もっと入り組んだ精神的な現実逃避やストレス発散などの事情が存在するというのは、興味深い事実。セックスにはステレオタイプというものはない。だからこそ、私は彼女たちの個人的な物語を伝えて行くことに、興味があるのだ。
【ニッポンの性シリーズをもっと読む】
恋愛コラムニスト さかいもゆる
出版社勤務からフリーランスのファッションエディターとして独立。その後、アラフォーでバツイチになった経験から、恋愛や結婚における本当の幸せとは何かを考えるインタビュー読み物やコラムを多数の女性誌で執筆している。
text: Moyuru Sakai