【ニッポンの性】結婚生活に夜の営みは必須?セックスと夫婦の在り方を考える。

Lifestyle 2023.12.23

私は普段、恋愛相談コラムを執筆しているのだが、「セックスはしたくない。けれど将来が不安だから結婚はしたい」という悩みを受けることがある。私にとってはセックスと結婚は密接に結びついているものだけど、一方でその気持ちもわからなくはない。このご時世、生活をともにするパートナーが居たら、それだけで心強いだろうなと思うからだ。恋愛コラムニスト・さかいもゆるが、実際に性交渉なしの結婚を実現した体験者の話を通して性と現代の結婚について考える。

結婚にセックスって必要ですか?

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世の中には、アセクシャセル、つまり恋愛感情や性欲を持たない無性愛者を自認する人も増えていると聞く。では、そんな、"性行為が介在しない"結婚というのはどんなものなのだろうか。そんな疑問を、性愛のない異性との結婚=友情結婚をサポートする結婚相談所、「カラーズ」にぶつけてみた。

そもそも、カラーズで友情結婚を望むのはどんな人たちなのだろう。 

基本的には、アセクシャル、ノンセクシャルもしくは同性愛者だけれど、いずれも人生の伴侶を求めて、異性との婚姻関係を望んでいる人々だ。登録条件は「結婚に性交渉を求めない」こと。その内訳は、男性は約8割が同性愛者、女性は約半数がアセクシャルだという。ちなみにアセクシャルは他人に恋愛感情も性的欲求も抱かないこと、ノンセクシャルは恋愛感情は抱いても性的欲求を持たない人々のことを指す。同性愛者とひと口で言っても、恋愛感情は抱かないけれど性欲はある、恋愛は女性が対象だけど身体は男性が対象、など、そのセクシャリティは様々だ。

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カラーズによれば、2016年のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のヒットの影響で問い合わせが急激に増えたという。『逃げ恥』は妻=従業員、夫=雇用主という関係の「契約事実婚」から始まるストーリー。また、アセクシャルがドラマなどの題材で取り上げられたことで自分もアセクシャルだと気づいた人たちからの相談も多いのだそう。

恋愛感情のない結婚、と聞くとものすごく割り切ったドライなものを思い浮かべてしまうけれど、実際にはカラーズの多くの成婚者たちは仲が良く温かい家庭を築くのだそう。ただ、そこにセックスがないだけで、内情は恋愛結婚した人と変わらない。 「恋愛感情がない相手と結婚して子どもも産み、育てる方も多いので、むしろ異性愛者よりもパートナーとの人同士の関係性や家族を持つということ自体を真剣に捉えている方が多い気がします」と、カラーズの中村社長。

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また、結婚後の性欲処理についても結婚前に話し合うカップルもいて、お互いが納得するようクリアにしておくという。「風俗はOK」、「決まったパートナーを作るのはNG」といったことから、仮交際時には「子どもは欲しいか」、「欲しいとしたら何人?」、「妊活費用はどちらが出すか」、「貯金額」、「家賃や生活費はどうするか、共働きならいくら出せるか」などお互いの条件面も明確に。恋愛結婚と違ってふんわりしたまま結婚して、後から「思っていたのと違った!」ということがない。その点割り切りやすいのは、友情結婚のメリットかもしれない。

聞けば、なんとカラーズの成婚率は44%。経済産業省が発表した結婚相談所の成婚率が10%なのと比べると驚異の高さなのだが、これは婚活でぶち当たる、「この人とセックスできるか」というハードルがなく、条件と人間性だけで相手を選べるからというのがひとつの理由。「いい人だけど性的魅力を感じられない」という"婚活あるある"がないのだ。これは婚活においては、すごいアドバンテージではないか。

しかし結婚は目的であってゴールではない。友情結婚のリアルな生活は幸せなのか。実際にカラーズでゲイの男性と成婚して2児の母になった、アセクシャルのAさんにお話を伺った。

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高校生くらいから自分が人と違うことに気づいていたAさん。誰かに対して恋愛感情を持つことができなかったけれど仲のいい3兄弟の家族で育ち、子どもが好き。「サザエさんやちびまる子ちゃんみたいに3世帯で住む家族に憧れがありました」。だけど自分はアクセシャル。結婚はできないと病んだ時期もあったけれど、29歳のときにカラーズをみつけて登録。3人会ったうちのひとり、ゲイの男性と結婚。

Aさんの決断力はすごくて、実家を出て一度も他人と暮らしたことがない状態から、西日本から夫の赴任地である関東地方に移住することを決め、新居もどこでもいいと、内見せずに夫に任せて決めたという。引っ越しするときは20軒近く内見して決めるこだわりの強い私からすると、うらやましいくらいの潔さ。「どこに住もうと、日本なら大丈夫だろう」と思っていたそう。

恋愛感情のない相手と、遠距離での月一度のデートを数ヶ月続けただけで一緒に暮らすのは大変そうだ。実際、最初は気を使ってギクシャクすることもあったそう。けれどシリンジ法で授かったひとりめの子供を出産する際、立ち会い出産にしたことでグッと絆が強まった。「陣痛が辛かったのですが、2日間腰を摩ってくれたり、飲み物をストローで飲ませてくれたり。甲斐甲斐しく世話をしてくれました。あのときの恩は、一生忘れないと思います」。

出産後は、それまで家事がまるきりできなかった夫が家事や育児を手伝ってくれるように。ふたりで手分けして家庭を運営するチームプレイで、3歳になった上の子のイヤイヤ期も乗り切った。ふたりめの出産後、体調を崩してしまったAさんの家事が楽になるようにと、ホットクックやルンバを買ってきてくれたり、夫がサポートしてくれたことに感謝が生まれた。意外なことに、寝室は結婚当初から一緒(ただしベッドは別々)。今は子どもたちと4人仲良く親子で寝ているのだとか。

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Aさんのお話を伺っていると、友情結婚は一般的な結婚と何ら変わらないことがわかる。恋愛から結ばれても仮面夫婦になるカップルもたくさんいる中、互いに思いやりと感謝と支え合いを持ち合える彼女の結婚は、成功例だと感じる。もちろんどこの家庭とも同じように、Aさんの結婚生活にも予測不可能なことはある。夫が急に脱サラして自宅で仕事をはじめ、収入が不安定になったのだ。それをきっかけに、出産後専業主婦だったAさんが働きに出ることに。現在は夫が家事と育児を主に担当している。でも夫のキャリアチェンジはいいきっかけになったと、Aさん。

「夫が家事をよくやるようになって、初めてその大変さに気づいたらしくて。『今までやってくれて本当にありがとう』と感謝してくれるようになったんです。家に帰ったらおうちがピカピカになっているし、夫が在宅ワークになって、結果的によかったのかもって」。

「今が人生の中でいちばん幸せ。家族がいれば、幸せなんです」。そう心から言えるのは、Aさんがマイノリティとして生きて来て、普通の幸せを諦めかけていたことが大きいのだと思う。この先どうなるのかはわからない。だけど「実家が送ってくれるお米さえあれば何とかなる」と笑う彼女を見ると、欲深くないことが幸せを感じる秘訣だとわかる。

Z世代では結婚を望まないというアンケート結果を目にすることもある一方で、冒頭のように「セックスはしたくないけど将来が不安だから結婚はしたい」という声も聞く。これはどちらも結局、先が見えないということへの恐れから来る、両極端な思考なのではないか。愛する相手と結婚しても、統計によると3組に1組が離婚すると言われる時代。私自身バツイチだし、結婚に夢を持てなくなるのも理解できる。

だけど、どれだけテクノロジーが進化して、おひとり様が生きやすい社会になったとしても、私たち人間は所詮哺乳類。ひとりでは生きられず、本能では番い(つがい)を求める生き物だ。よく夫婦は会社経営に例えられるけれど、結婚が恋愛というものの延長にあると思うと心許ないけれど、Aさん夫婦のように「ともに家庭を運営する」という覚悟を持てるのであれば、セックスがあろうがなかろが、強い絆は生まれ得る。結局、恋愛やセックスは結婚の動機づけのひとつでしかない。結婚生活を続けるためにはそれがあるかどうかよりももっと大事なものがあるのだと気付かされた。

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恋愛コラムニスト さかいもゆる

出版社勤務からフリーランスのファッションエディターとして独立。その後、アラフォーでバツイチになった経験から、恋愛や結婚における本当の幸せとは何かを考えるインタビュー読み物やコラムを多数の女性誌で執筆している。

 

text: Moyuru Sakai

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