【ニッポンの性】欧米と日本の性感覚の違いって? セックス・カウンセラーと話す、セックス・エデュケーション対談。
Lifestyle 2025.10.17
日本ではまだまだポピュラーではない、セックス・カウンセリング。これを体系的に学び、悩めるクライアントに実践的アドバイスをしている専門家がいる。ラブライフアドバイザーのOliviAさんと鍼灸師の鰻沢智美さんだ。最近増えている性のお悩みとその解決法について、恋愛コラムニスト・さかいもゆるが訊いてみた。おふたりのセックス・エデュケーション対談からは、現代日本のリアルなセックスライフが見えてくる。
(左から)インタビュアーのさかいもゆるさん、鰻沢智美さん、OliviAさん。性生活の充実を目指すためのカップルカウンセリングやセックスのテクニックの具体的指導などを行なっているラブライフアドバイザーのOliviAさんと、古代中国の皇帝が実践していた世継ぎを絶やさないための性生活指南「房中術」の識者である、鍼灸師の鰻沢智美さん。日頃からクライアントから性の悩み相談を受けているおふたりに、いま、どんなことで悩む人が多いのか訊いてみた。
セックス・カウンセリングでは一体何が行われている?
受け身な日本人女性と性を楽しみたい欧米男性のスレ違い
OliviA:数年前より国際カップルが増えている印象はあります。特に多いのが、日本人女性と欧米出身男性との組み合わせ。悩んでいるのは主に欧米人男性の方。彼女や妻に『ベッドでもっと積極的になって欲しい』というのが彼らの要望です。
基本的に日本人女性はベッドで受け身のことが多く、「セックスの頻度を増やしたい」、「もっと楽しみたいのにいつも自分からばかり誘っている」、「スキンシップを増やしたい」というのが彼らの抱く悩み。『妻は性欲が他者に向かない"アセクシャル"なのではないか』とまで思い詰めていることもあるという。
さかい:性に対する温度差なんて交際中に分かりそうなものなのに、結婚前はどうだったのでしょうね?
OliviA:それが、『結婚すれば変わってくれるだろう』と思っていたら、やっぱり変わらなかったパターンがほとんど。
鰻沢智美(以下、鰻澤):私のところには最近外国人パートナーと付き合い始めた女性がいらして、『彼と私の思う"セクシー"の表現が違いすぎる』と悩んでいました。彼の友人も含めて踊りに行ったときに、『セクシーに踊ってくれ』と言われたそうです。だけど『セクシーに踊るって??』と戸惑ったのだとか 。
さかい:たしかにそれはハードルが高い!
そんな風に、国際結婚カップルではセックスの手前の、セクシーの基準自体にズレがあることも多いそう。
鰻澤:『日常と違うドレスアップをして素敵な姿を見せてくれ、セクシーな言葉を言ってくれ』と言われても、その引き出しがなくて困ってしまうみたいですね。
OliviA:そうそう。それと欧米男性は、女性から『あなたのものが欲しくてたまらない!』と貪りつくようなパッションを感じたい欲求が強いですよね。
さかい:言われてみればAVのシチュエーションも、日本では女性が恥じらったり嫌がったりしているものが多いけど、欧米のそれは女性がノリノリで「カモ〜〜ン!」となっているイメージがあります。あれはそのまま、その国の男性の願望を反映しているのですね。
OliviAさんのところに来る国際結婚カップルは、彼女のところに来る前にOMGYESというカップルでセックスを楽しむための情報サイトやセックストイなども試した上で、さらに「もっと彼女が積極的になる方法はない?」とアドバイスを求めて来たそう。パートナーがそんなに研究熱心で気持ちよくさせることに対して積極的になってくれたら、嬉しい気もするけれど......。
OliviA:それが女性側にはプレッシャーになっていたみたい。それでも、私のところにいらしてから前よりは気持ちいいという感覚がわかるようになってきたと後日報告してくださる方もいらっしゃいます。
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セックスの希望頻度の擦り合わせはどうやる?
さかい:セックスの頻度のニーズの違いの擦り合わせって難しそうですが、カウンセリングではどうやって落としどころをみつけて行くんですか?
「大事なのは腹を割った話し合い」とOliviAさん。たとえば女性側が月1、男性側が週1が希望だとしたら、その中間地点を探って"日数調整"をして行く。
OliviA:その場合、まずは行為の内容を徹底的にヒアリングして行きます。愛撫の仕方やオーラルセックスの有無、などなど。その上で、回数が少なくて不満だというのなら、1回のセックスをできるだけ時間をかけて長くして、満足度を高めるようにする。そうすれば回数はそこまで増えなかったとしても、不満は減らすことができますよね。
さかい:たしかに、おざなりなセックスを連発するよりも、濃厚な行為を一度する方が充実感は得られそうです。
ちなみに国際カップルのカウンセリングは男性が予約をして、女性がひとりで訪れるというケースが多いとか。欧米男性にとって性生活は、パートナーシップにおいてそれほどまでに大切な価値観だということ。性の不一致を見て見ぬふりして流すよりも健全に感じるけれど、どうだろう。
ポリアモリーに、シニアのセックス問題まで
―――そのほか、最近では複数恋愛の「ポリアモリー」カップルも増加傾向なのだとか。
OliviA:自分の考えるポリアモリーとパートナーが考える複数恋愛の価値観に認識の違いがある、と悩む方がいらっしゃいます。いままで複数のパートナーと関係を持つ複数性愛を選択しているカップルの悩み相談はそこまでなかったので、これも最近の傾向だなと。
鰻澤:私は鍼灸治療にいらっしゃる、高齢男性の性機能のお悩みをよく受けます。85歳の現役男性が、腰痛で性行為のときの体勢が辛くなってきたり、年齢的に体力も落ちて来た。そうするとついに性機能が落ちてきて、最近勃ち辛くなって来た気がする、と。
鰻澤さんによると、その年代の男性にとって性行為は「女性からエネルギーをもらい、生きるための活力」そのものなのだという。
鰻澤:女性と性的なコミュニケーションが成り立っていると、仕事や若さに自信が持てて、あらゆることが上手く行く。だからその方は性機能を維持するために、私が考案した40分間の体操を、毎朝きちんとやられているんです。昔の中国の武将もお抱え鍼灸師から教わった体操を池の辺りでやっていたというエピソードがあるんですが、まさにそれと一緒。
性機能を維持するために、鍼灸や漢方などの東洋医学的アプローチとヨガや太極拳の運動で全身の血流を改善するのが、鰻澤さんが行なっている治療だとか。
もうひとつ、増えているのがバリトリン腺という膣周りの分泌腺の詰まりによる炎症のお悩み。
鰻澤:ゴルフボール大くらいに腫れてしまう人もいるのですが、お股のお悩みってなかなか人に相談しづらいですよね。ですからご自分で色々調べて、「どうやら漢方がいいらしい」となって、私のところに相談しにいらっしゃる。これ、若いと血行もいいし分泌力もあるから、清潔にして温めておけば自然に治ることも多いのですが、40代以降は自然治癒はあまり望めない。
OliviA:粘液が出る機会も少なくなりますからね。だから、自分がどれだけ濡れなくなっているのかを日頃から定期的に把握しておくのは大切なこと。
鰻澤:健康診断じゃないけど、「もっと早く気づいたら対処できたのに」と手遅れになりますからね。
さかい:手遅れになっていたらどうしよう、怖い......!
鰻澤:そういう意味では、昨今のフェムテックやフェムケア・ブームみたいなものは、セクシュアル・ウェルネスにプラスになるのではないかと思います。
シニアセックスの話が他人事ではない50代の私。ではどうすれば性機能低下を予防し、40代以降も健康なセックスライフを送れるのかというお話は、引き続きvol.2でご確認を。
ラブライフアドバイザー/日本性科学会会員
2001年よりセクシュアリティやジェンダーの調査研究を始め、2007年から性に関する総合アドバイザーとして活動。メディア出演、執筆、講演、カウンセリング、商品開発など幅広い分野で、「女性のセクシュアルウェルネス」や「コミュニケーションを重視した性生活のあり方」を提案している。オンラインで好きなときに受講できる講座もオープン。著書は日本・台湾で出版。近著「セックスが本当に気持ち良くなるLOVEもみ」(日本文芸社)
公式サイト:https://olivia-catmint.com/
インスタグラム:@oliviacatmint
鰻沢智美
鍼灸師。古代中国で皇帝が世継ぎを作るために実践していた「房中術」に精通、GINZA Webで東洋医学と性についての房中術コラムを連載。太極拳やヨガなどの身体機能を高める指導と、漢方や鍼灸などの東洋医学を融合させた施術が評判。
さかいもゆる
恋愛コラムニスト。アラフォーでバツイチになり、以降、自身や取材の経験を活かした恋愛&セクシュアル・エンパワーメントコラムを執筆。多数の女性誌&モード誌で連載を手がける。Xアカウント:@batsui1teacher
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text: Moyuru Sakai