「日本では年間8万人が不穏に『蒸発』する」フランスで報道された日本の失踪者の現状。

Lifestyle 2025.12.29

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日本では毎年約8万人が行方不明になっている。その中には、自らの意志で命を落とした人も多い。フランスのテレビ局「Arte」で配信中のドキュメンタリー番組「Évaporés(消えた人々)」では、その様子が描かれている。

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写真はイメージ。photography: Shutterstock

「人間にはあらゆる希望が許されている。消え去ることさえも」と、生物学者ジャン・ロスタンは語る。日本では、多くの人が、まるで最後のあがきのように、忽然と姿を消すことで生きようとしている。この現象は広く知られており、自ら姿を消す人々は「蒸発者」と呼ばれ、年間およそ8万人にのぼると言う。その背景には、厳格な日本社会における、恥や不名誉への深い恐怖がある。第一の人生、つまりオフィシャルな人生がひどく行き詰まった彼らは、別の場所でひっそりと第二の人生を始めるのだ。こうしてひとつの世界から別の世界へ移る手助けをするのが、「夜逃げ」と呼ばれるサービスだ。この現実は、12月23日まで配信中の「Arte」のドキュメンタリー番組でも詳しく紹介されている。


恥に縛られずに生きる

杉本さんは、数年前に息子が最後にかけた言葉をいまでも鮮明に覚えている。「パパ、いつ帰ってくるの?」末っ子が彼を見上げながら尋ねた。そのとき杉本さんはスーツに着替え、旅行カバンを手にしていた。「3日後に戻るよ」と答えたが、嘘をついたことに申し訳なさを感じながら、子どもに別れを告げた。数年前、家業が倒産し、約5億円の負債を抱えた杉本さんは、まず自殺を考えた。「家族の名誉を汚した。恥をかかせてしまった自分を責めた。打ちのめされていた。最初はすべてを終わらせようと思ったが、勇気が出なかった。首をつることを考え、ネットで"それが一番簡単"と読んだが、失敗するとひどいことになる。結局、怖くなった」と振り返る。出口を探し続けた結果、杉本さんは自発的な失踪を手助けする会社の存在を知り、別の人生を手に入れた。従業員と家族に手紙を書いた。内容は『こんな身勝手な行動を取って申し訳ないが、他に選択肢がない。少し時間をくれ。必ず全額返済する』というものだった。そして、その手紙を書いた翌日、妻と3人の子どもが見守る中でスーツを着た。その日、杉本さんは忽然と姿を消した。

いまでも、思い出が胸を刺すように蘇ってくる。友人と笑い合った日々、家族と囲んだ食事。匿名を希望する別の「蒸発者」も同じように語る。貧しい家庭に生まれた彼は、数年前にマフィアの電話交換手として加わったと言い、「そして、返せないほどの金を借りてしまった」と告白する。当然、彼と家族は脅迫を受けた。「絶望して逃げ出した」と、ギャンブルにのめり込むようになった彼は語る。あまりにも匿名的で、人間らしさの失われた生活に、彼は深い悲しみを感じている。「何の計画もない。たださまよい、寝る場所と食べる場所を探す。毎日をその日その日で生きるだけだ」と語った。

夜逃げ引越し業者

こうした人々は、身を隠すために「夜逃げ引越し業者」に頼る。ドキュメンタリー番組では、こうした業者が1990年代に登場したことを指摘する。「日本のバブル崩壊後、何千人もの人々が借金から逃れた」としている。これらの業者は完全に合法的に営業し、オンラインでも簡単にアクセスできるものの、その業務の一部はグレーゾーンに陥っており、多くの市民の逃亡を可能にしている。50代の女性、斎田さんはこうした業者を経営している。「私たちは、依頼人の荷物を秘密裏に運び、見つからないようにしています。新しい住居や仕事を見つけるだけでなく、警察への同行や弁護士の紹介なども行います。私たちのサービスは多岐にわたります」と彼女はカメラに向かって説明する。

そこでもうひとつの物語が浮かび上がる。あるカップルが彼女のサービスを利用した話だ。

ふたりは当時、同じ雇い主のもとで働いていた。雇い主は暴力団関係者で、あまりに支配的で、従業員に「仕事で出たミスの返済」と称して金を払わせていた。終わりのないプレッシャーに追い詰められたふたりは、「私たちも消えよう」と決断する。成功すれば助かる。失敗すれば命を絶つ覚悟だったという。夜逃げ引越し業者は、ふたりの依頼を引き受けた。数週間後、ふたりは海の近くにたどり着き、現在はラブホテルで働きながら、空いた客室で寝泊まりしている。「ここでは誰にも支配されない。自分のお金があって、前より自由に感じる」と女性は語る。「親にとって私の意見はどうでもよかった。全く聞いてくれなかった。友達付き合いも、お金の使い方も全部管理されていた。......はっきり言えば、毒親だった。」ただし、すべての親がそうではない。こうした予期せぬ失踪の残酷さに苦しむ親も数多くいる。

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家族の無力感

不倫や多額の借金など、家族がまったく知らない理由が背景にあり、突然姿を消してしまうケースもある。行き場を失った家族は、探偵に助けを求めることも少なくない。愛知県刈谷市にある会社の社宅から、ある晩を境に忽然と姿を消した26歳のカズキさん(仮名)の母親も、そのひとりだ。何百回も電話やメッセージを送り続けても返事はなく、彼女は自分で調べ始め、「考えつく限りの場所」を探し回り、息子の職場にも足を運んだ。しかし、どうにもならない無力感に押しつぶされそうになり、最終的には専門家の力を借りることを決意した。

日本では、失踪した人の個人情報は家族であっても閲覧できない。本人の同意か、死亡が確認された場合を除き、法律で開示が禁じられているためである。そのため、逃げた本人のクレジットカードの利用履歴や携帯電話、健康保険などの情報を家族が調べることは事実上不可能だ。「警察も同じです」と、心身ともに疲れ切った母親はこぼす。「警察から息子に連絡をとるようにと言われるのですが......私にはそれができず、本当に辛いです。」

生まれ変わる

どれほど現実が厳しく、行き場が閉ざされていても、蒸発者たちが求めているものはひとつ。「二度と見つからないこと」。世間から姿を消し、この世界では"死んだも同然"になることだ。皮肉なことに、ドキュメンタリーに登場する探偵のひとりは、彼らの心情をこう言い表す。「家庭でも学校でも職場でも、失敗をしたとき、『恥を抱えて生きるくらいなら、死んだほうがましだ』と考えてしまう日本人は多いのです。だから、誰も自分を知らない場所へ行って、人生をまっさらな状態からやり直そうとするのかもしれません。」彼らにとってそれは、ある意味、生まれ変わることなのかもしれない。

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text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi

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