スパイスを駆使すれば、料理はもっとおいしくなる。
Gourmet 2018.08.27
スパイスという言葉に惹かれるものの、なかなか使いこなせずにいる人も多いのではないだろうか? 普段から活用するにはどうしたらいいか、どんなタイミングで加えればいいか……。元スターシェフでスパイス専門家のオリヴィエ・ロランジェが、スパイスの上手な使い方を伝授。いつもの料理をもっとおいしくする、スパイスの奥深い世界へようこそ。
世界には、地域ごとに好んで使われる多彩なスパイスが存在する。Photo : iStock
「料理におけるスパイスとは、フランス語における句読点のようなもの。句読点があってこそ言葉の真価が発揮されるように、スパイスは料理の隠れた顔を引き出します」と語るのはオリヴィエ・ロランジェ。彼は3ツ星を得ていたフランス北西部の港町カンカルのガストロノミックレストランを、絶頂期の2008年に閉店。それはできるだけ多くの人々に、スパイスの素晴らしさを伝えたいという考えからだった。ロランジェによると、スパイスを活用すれば油や塩分を抑えた健康にいい料理が作れる上に、それぞれの食材のおいしさを再発見できるという。
「おいしいという以前に身体にいいことが大切です。それが35年間変わらない、私と妻の考えです」。それでは、スパイス使うに当たっての心得と、上手に使うコツを聞いてみよう。
スパイスは混ぜるもの。
スパイスと言えばたいていの場合、異国料理を作る時に使ったり、下ごしらえにちょっとふりかける(たとえばニンジンにクミン、ジャガイモにターメリックをかけるなど)くらいだろう。
ところがロランジェによると、スパイスは混ぜなくては意味がないという。「たとえばラゼラヌゥにしてもガラムマサラにしても、スパイスを何十種類もミックスしたものを指します」とロランジェは説明する。香水と同じように、自分好みの配合を見つけることが大切なのだ。
火を入れてもOKだが、コツが要る。
とろ火で煮る、グリルで焼く、さっと炒めるなど、調理法によってスパイス投入のタイミングは違う。肝心なのは、繊細なスパイスを台無しにしないこと。「大事なのは焦がさないこと。焦げると風味が落ち、栄養面のメリットも損なわれてしまいます」
煮込みの場合:「エシャロット、ニンジン、タマネギなどの薄切りを、油で炒めます。野菜が透明になってきたらスパイスを小さじ1杯。そのまま5秒おいてスパイスを浸透させてから、酢、水、ワインなどでのばします」
スープの場合:「スパイスはやはり小さじ1杯ですが、煮ている途中で加えます」。クールブイヨンやブイヨンも同じ要領で加える。
マリネ液の場合:「肉の場合、羊の肩肉でも背肉でも、スパイス小さじ1に対してオリーブオイル大さじ1を混ぜたたものを肉に塗り、1時間冷蔵庫で寝かせてから焼くといい」というのがプロのアドバイス。魚の場合は? 「魚は身が繊細ですから、基本的に同じやり方で、5分~10分寝かせれば充分。魚を温め直すときは、ショウガとコリアンダーパウダーを加えるといいでしょう。フェンネルシードでもかまいません。脂ののった魚なら、トルコ料理には欠かせないスパイス、スマックを足してもいいでしょう」
グリルの場合:「短時間で焼き上げる場合は、あらかじめスパイスを加えても大丈夫。牛の骨付きロースのように、時間をかけて火を通す場合は、スパイスを焦がしてしまわないよう調理の最後に。牛の骨付きロースに合わせるなら、マダガスカル産コショウ、白コショウ、ロングペッパーといった2~3種類のコショウに、煎ったクミンを加えれば最高です」
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ベストな組み合わせを覚えれば、スパイスはもっと楽しくなる。Photo : Istock
スパイスとデザートのおいしい関係。
スパイスと聞いて、デザートを思い浮かべることはあまりない。それでも、もちろんバニラだけは例外だ。ロランジェは、「バニラは使い方に気をつけて。このスパイスはベースとして使うもの。料理に奥行きを出すものであって、バニラ自体が目立ちすぎてはいけません」。また、デザートに使ったバニラのさやは、ドレッシングや煮込み料理に再利用するといいという。
「さやを1センチ切り取って。それ以上では多すぎます。あとは料理に入れるだけ」。バニラがあれば料理の可能性がぐっと広がるが、ほかにも使えるスパイスはある。たとえばコショウは、デザートを”スイング”させるのに役立つ。シェフはまず次のふたつに挑戦してみてほしいと言う。
赤コショウ:「カラメルや綿菓子、焦がした砂糖のような味があり、デザートに使うととても引き立ちます」
山椒の実:「冬山椒はライムの風味があり、ヨーグルトやチーズケーキに最適。夏山椒はチョコレートにぴったりです」
自分でいろいろ試してみよう。
スパイスを使う時に心がけたいのは、少し大胆になって、自分なりの調合を試みてみること。
「香水とまったく同じでよくある間違いは、量が少なすぎて誰にも気づかれないか、あるいは振りまきすぎてしまうか――このふたつです。スパイスは調合すること、ルールはそれだけです。組み合わせは無限。いろいろ試してみると、驚かされることばかりです。私は35年やってもまだ飽きません」。調合する時は、まず少量から始めたい。そして少しずつ量を増やし、適量を探るといい。ニンニクは何とでも相性がよいわけではないので気をつけてもらいたいが、エルブ・ド・プロヴァンスや、乾燥した海藻との組み合わせはぜひトライして。まずは、ロランジェが以下に挙げるような、シンプルな取り合わせから始めてみよう。
定番:ショウガ+コリアンダーパウダー+唐辛子(唐辛子は300種類以上ある。自分の好みに合うものを見つけて)
野菜料理に:シナモン+ナツメグ+ネズの実
パスタに:グリーンカルダモン+ショウガ+タイムまたはオレガノ
ほぼどんな料理にも合う万能スパイス:クミン+コリアンダー+フェンネル(フロマージュ・ブランやクロック・ムッシュにも合う)
ベリー類に:ジンジャーパウダー+グリーンアニス
リンゴやナシに:サフラン+シナモン+コショウ
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常備しておくべきスパイスとは?
スパイスの基本セットを自分で揃えたい人のために、フランス有数の専門家であるロランジェに、必須のスパイスを挙げてもらった。
「まずは、珠玉のスパイスである黒コショウ、それに蠱惑的なシナモン、官能的なナツメグ、生意気なコリアンダー、やんちゃなクローブ、爽やかなカルダモン、エレガントな赤ロングペッパー、そして褐色の髪の美男子のようなクミン。フェヌグリークのかっと熱くなるような苦みも、ジンジャーパウダーの燃えるような辛みも忘れてはなりません。それからメキシコの高貴なるチレ・ワヒージョ(ドライチリ)、花椒、サフラン、そんなところでしょうか」
スパイスを買う店を吟味しよう。
スパイス門外漢だった方は、いま心の中でこう思っていることだろう。スーパーマーケットで買ったスパイスは捨てるべきかしら? あるいはスーパーの棚に並ぶ有名ブランドの製品で済ませていいのかしら?
ロランジェによれば、スパイスの質は何よりも鮮度。「フランス人の消費するコショウは、採取から平均で5年も経ったもの。これはとんでもないことです。中には10年経ったものを食べている人もいるわけですから」とロランジェは語気を強めて言う。彼の店では、混合スパイスはスパイス本来の風味を第一に考えて、3週間に一度、少量ずつ作っている。スパイスは新鮮なものを扱っている専門店で購入する、商品を裸で店先に並べているような屋台は絶対に避けるべき、というのがロランジェのアドバイスだ。「くしゃみをする人もいますし、ホコリも飛びます……。衛生面でも質の面でも、最低限守るべき点があるのです」
専門店のほうが安いスパイスもある。
コストパフォーマンスという点でも、質のいいものを少量買うほうがいい。「スパイスのなかには、バニラやピマン・デスプレットのように、スーパーで買うと高くつくものもあります」
ロランジェからすると、値段が適正であることは生産者にとっても大事なこと。「適切な値段で購入することは生産者の生活を保証すること。大手スーパーの一部がしているように、彼らを苦しめてはいけません。」と、世界各地を巡り1000を超える小規模生産者と仕事をしてきたロランジェは語る。
賞味期限に気をつけよう。
誰でも一度は、棚の奥に古いスパイスの瓶を見つけて、賞味期限を過ぎても使えるものかと考えたことがあるはず。「古いスパイスは身体に悪いわけではありません。スパイスには天然の抗菌、抗カビ成分が含まれていて、食べても病気はなりません。ただ風味の点では、まったく価値がありません」
新鮮な商品を届けるために日々奮闘しているロランジェだが、最近、消費者に整理の意識を持ってもらおうと、「スパイスの棚や引き出しに風を!」というキャンペーンを始めたばかり。「使っていないということは、好きでないか、使い方を知らないということです。だとしたら残念なこと。遠慮なくアドバイスを求めましょう」とロランジェは言う。では期限切れのスパイスはどうしたらいいのだろう? 「松ぼっくりなどと合わせて、ポプリにしてみては?」。なるほど!
オリヴィエ・ロランジェのスパイスは、本人の運営するサイト「Epices Roellinger」、またはパリ、カンカル、サンマロにある直営園にて。
texte: Claire Mione (madame.lefigaro.fr)