職人気質を感じるシャンパーニュ、ジャクソン。7つのヴィンテージを垂直試飲して見えたものとは?

Gourmet 2024.08.04

フィガロワインクラブで開催された、希少なシャンパーニュ「ジャクソン」の7ヴィンテージ垂直試飲イベント。ワインジャーナリストの柳忠之による、イベントレポートを公開! 会場の雰囲気を知るのはもちろん、今後ジャクソンを購入する時の参考に活用してみてはいかがだろう?


どこまでも職人気質なシャンパーニュメゾン、ジャクソンとは?

ジャクソンを知っている人は相当なシャンパーニュ通だ。エペルネの近く、ディジー村にある年間生産量35万本ほどの中堅メゾン。かつてはシャロン・アン・シャンパーニュにあり、モエ・エ・シャンドンをもしのぐ業界最大手だった。創立は1798年と古く、1810年に皇帝ナポレオンがカーヴを訪問し、オーストリア皇女マリー・ルイーズとの再婚においては、ジャクソンのシャンパーニュが振舞われたと伝わる。

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SHE meguroが取り揃えた、ジャクソンの740から746をフードとともに垂直試飲。

このメゾンに転機が訪れるのは1974年、ディジーのシケ家がオーナーとなってからだ。ジャン・エルヴェとローランのシケ兄弟はクオリティを追い求めたシャンパーニュ造りに意欲を燃やし、原料となるブドウの厳選(ピノ・ノワールは特級のアイ、一級のディジー、オーヴィレール、ムニエに特級のアヴィーズ、シャルドネは特級のオワリーで生産)、搾汁率の低減、オークの大樽を使用した発酵、無ろ過、無清澄、瓶内熟成期間の延長など、さまざまな取り組みを進めた。そして2000年代の初頭、メゾンを象徴するキュヴェとして「キュヴェ700」シリーズをリリースする。

シャンパーニュメゾンの主力のアイテムはノンヴィンテージ(NV)ブリュット。フランスのワイン産地のなかで最も北に位置するシャンパーニュ地方は天候が安定せず、ブドウの出来は年ごとにばらつきが大きい。そこで過去に醸造したワインをリザーヴワインとして取り置きし、その年のワインとブレンドして毎年コンスタントに一定の風味を提供する。これがNVブリュットのコンセプトだ。

しかし、ジャクソンの考え方は違う。たとえNVブリュットであっても、毎年同じ風味なんて退屈なだけ。リザーヴワインでクオリティのばらつきを最小限に抑えつつ、そのベースとなる収穫年の特徴を引き出したスタイルを目指す。最初のキュヴェナンバーは728。これはメゾンの創設以来、記録上728番目のブレンドだったことにちなむという。ともかくそんなわけで、数多あるメゾンのなかでも、まるで「レコルタンマニピュラン(RM)」と呼ばれる栽培農家兼醸造所のような職人気質こそ、ジャクソンのジャクソンたるゆえんだ。

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「その年の記憶」を表現する、ジャクソンの世界観。

そのジャクソンの「キュヴェ700」を垂直試飲するイベントを、フィガロワインクラブと会場のSHE meguro(シー メグロ)とのコラボで開催した。最新のキュヴェ746からバックヴィンテージの740まで全7本。歯抜けなしの完全垂直である。余談だが、垂直試飲とは同じワインをヴィンテージ違いで同時に試飲すること。反対に、同一のヴィンテージで銘柄の異なるワインを並べた場合は水平試飲という。

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ジャクソンのヴィンテージごとに、ペアリングのフードを合わせていく。

試飲会は、シー メグロの冨田逸斗ソムリエが各キュヴェに合わせたフードとともに進行。各キュヴェの概要とフードは以下のとおり。

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手前左から反時計回りに「鈴木農場4種のキャロット・ラペ」「貝柱とグリーンチリのピクルス」「真鯛のカルパッチョ」「生ハム ジャーキー仕立て」「スモークサーモン ブルスケッタ」「芽キャベツのヴァプール、オニオンムース」「和牛の炙りカルパッチョ」。
 

●キュヴェ746 &「鈴木農場4種のキャロット・ラペ」
2018年がベース。この年は雨の多い冬に始まり、春は穏やかな気温ながら、雷雨もあった。6月になって天候が変わり、晴れて乾燥。生育は早く8月30日に収穫を始め、9月11日に終えた。ブドウは完璧なまでに健全で豊作、果実の熟度は高く酸は控えめだが、繊細で気品がある。
シャルドネ50%、ピノ・ノワール40%、ムニエ10%。2022年10月に澱抜き。ドザージュ2g/ℓ。

●キュヴェ745 &「貝柱とグリーンチリのピクルス」
2017年がベース。冬から春はとても乾燥。春の初めは穏やかだったが、4月に遅霜の被害を受け、とくにコート・デ・ブランに損害が。気温は再び上がり、7月までは好天に恵まれた。夏の終わりは暑く、同時に雨に見舞われた。収穫は9月4日から13日まで。熟度が高く健全なブドウのみ厳しく選ったため収穫量は少ない。ワインはリッチで凝縮感がある。
シャルドネ50%、ピノ・ノワール40%、ムニエ10%。2022年2月に澱抜き。ドザージュ0.75g/ℓ。

●キュヴェ744 &「芽キャベツのヴァプール、オニオンムース」
2016年がベース。冬から春にかけて雨が多かった。当初は穏やか気温だったが2月末に気温が下がり、4月末には大きな霜害に見舞われた。春の終わりは好天に恵まれたが涼しく、夏はとても暑く乾燥した。収穫は9月19日に始まり、10月6日に終了。かなり不均一な熟度のため、収穫を中断することもあったが、健全で熟度の高いブドウが得られた。ワインは香り高く、味わい深い。
シャルドネ45%、ピノ・ノワール+ムニエ55%。2021年2月に澱抜き。ドザージュ0.75g/ℓ。

●キュヴェ743 &「真鯛のカルパッチョ」
2015年がベース。冬から春の大部分は暖かく雨が多かった。その後乾燥し、とても暑い日々が8月中旬まで続き、涼しく雨がちな日と暑く乾燥した日が交互に来て夏は終わった。収穫は9月10日に始まり、30日に終了。収穫は均質でブドウは完熟し健全。量的にも十分で、酸も満足できるレベルにあった。素晴らしいヴィンテージ。
シャルドネ50%、ピノ・ノワール25%、ムニエ25%。2019年8月に澱抜き。ドザージュ0!

●キュヴェ742 &「生ハム ジャーキー仕立て」
2014年がベース。冬は雨が多かったが、気温は穏やかだった。春は暑く乾燥したが、7月、8月は涼しく、雨が多かった。9月は暑く乾燥し、好天にも恵まれ、このヴィンテージを救ってくれた。アルコールと酸の調和はとれ、ブドウの衛生状態はおおむね良好。一部の区画で酢酸菌が発生し、収穫の段階で厳しくブドウを選る必要に迫られた。
シャルドネ50%、ピノ・ノワール30%、ムニエ20%。2019年2月に澱抜き。ドザージュ1.5g/ℓ。

●キュヴェ741 &「スモークサーモン ブルスケッタ」
2013年がベース。冬はとても寒く雪が降った。春から初夏にかけても涼しく、雨がち。開花不良や結実不良が起こり、開花は遅れ、成熟も遅れた。8月および9月は暑く乾燥し、収穫は遅れたものの、素晴らしいブドウが摘み取られた。とりわけうまくいったのがアイとディジーのピノ・ノワール、アヴィーズのシャルドネである。
シャルドネ60%、ピノ・ノワール20%、ムニエ20%。2018年5月に澱抜き。ドザージュ2.5g/ℓ。

●キュヴェ740 &「和牛の炙りカルパッチョ」
2012年がベース。冬は寒く長引いた。春から初夏にかけては雨が多く、ベト病に見舞われた。しかし夏の終わりは好天で、量的には少ないが質的には申し分のないヴィンテージとなった。
シャルドネ50%、ピノ・ノワール25%、ムニエ25%。2016年12月に澱抜き。ドザージュ1.5g/ℓ。

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シャンパーニュジャクソン、印象に残ったヴィンテージとは?

最も若いキュヴェ746がフレッシュで快活な印象なのは当然として、澱抜きからすでに5年以上も経っているキュヴェ741でもフレッシュさを失わず、生き生きとした状態なのが印象的。澱抜き後の甘味調整、すなわちドザージュは、最大でもキュヴェ741の2.5g/ℓとべらぼうに低く(6g/ℓ以下ならエクストラ・ブリュット、3g/ℓ以下ならブリュット・ナチュールを名乗れる)、キュヴェ743に至ってはとうとうゼロ。もっともそれはいささかやりすぎと思ったのか、キュヴェ744、745で0.75g/ℓ、キュヴェ746で2g/ℓと少しずつ元のレベルまで戻している。

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ワインのサービスと解説を担当した冨田逸斗ソムリエ。

ベースワイン(原酒)の醸造にはフードルと呼ばれるオークの大樽を用いるジャクソンだが、目立って木のニュアンスが感じられるキュヴェはひとつもなく、あくまでマイクロオキシジェネーション、つまりわずかな酸素とのコンタクトによってワインのストラクチャーを高めることが、フードル使用の目的だとわかる。

このなかで香り的に最も開き、階層的な複雑味を楽しめたのはキュヴェ740で、ヘーゼルナッツを思わせる香ばしさも漂う。ただし、これはオーク由来というよりも澱抜き後の熟成によって醸し出されたものだろう。ほかにもレモングラスやジンジャー、シナモンなどのハーブやスパイス香が彩りを添える。やはり2012年はシャンパーニュの当たり年だと痛感した。

いっぽう、決して目立つヴィンテージがベースではないにもかかわらず、力強く、複雑味をもち、凝縮感とエナジーに満ちあふれていたのが、2016年ベースのキュヴェ744。単にフレッシュ感を求めるなら最新キュヴェでも十分楽しめるが、ジャクソンらしいエナジーを感じたければ、現行キュヴェより2、3年前の数字を選んだほうが満足度は高そうだ

フードペアリングで最も感心したのはキュヴェ740と和牛の炙りカルパッチョ。熟成を経て複雑なフレーヴァーを備えたこのキュヴェなら、肉とも対等にわたりあえる。

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共通点はありつつもヴィンテージごとに香り、味わいが微妙に異なる。7ヴィンテージを同時に試飲しなければ見えてこない、奥深すぎる世界観がグラスの中に潜んでいた。

どのキュヴェもエレガンスとパワーが絶妙のバランスを保ちつつ、熟成の進行とともにまた別のディメンションが発展する。こうなると、たとえば通常のキュヴェ740と、遠からずリリースされるはずのキュヴェ740デゴルジュマン・タルディフ(瓶内熟成期間を延長し、澱抜きを遅らせたキュヴェ)とを並べ、澱が熟成にもたらす影響も比較したくなってしまう。ジャクソンのキュヴェ700シリーズ、やはり通好みのシャンパーニュだ。

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柳 忠之
ワインジャーナリスト

ワイン専門誌記者を経て、1997年に独立。以来フリーのワインジャーナリストとして、ワイン専門誌はもとより、数々のライフスタイル誌においてワイン関連記事を寄稿。日本ソムリエ協会発行の資格試験向け教本執筆者ながら、ソムリエ資格を有さず、業界のブラックジャックを自称する。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ、ボンタン騎士団名誉コマンドゥール。

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