日本ワインと蕎麦を堪能! 北海道の銘醸地に泊まれる「naritaya」へ。

Gourmet 2024.12.20

YOSUKE KANAI

札幌、小樽、定山渓の中間にある朝里岳を水源とする余市川は、かつての火山活動によってカルデラが決壊、その水流とともに鉄分やミネラルを多量に含む栄養豊富な表土を広げてきた。その結果、余市川流域にある仁木、余市では果樹の栽培がさかんに。またドメーヌ・タカヒコをはじめとした生産者たちの名声が高まるにつれ、かつての果樹の一大産地はワイン用ブドウの銘醸地として注目が高まり、現在では多くのワイナリーが点在する地域に成長した。

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仁木町・旭台の丘の中腹に佇む「naritaya(ナリタヤ)」。 

この仁木町・旭台で蕎麦と日本ワインの店「ナリタヤ」を営む成田真奈美さんは、以前は東京都内で生活するワインファンのひとりだった。

「海外の専門誌の日本窓口を担当していたこともあり、仕事で海外に行くことが多かったんです。仕事相手にワイン好きも多く、一緒にワインを楽しんだり、ワイン産地を巡ったりするうちにさらにワインが好きになり、2015年にJ.S.A.ワインエキスパートを取得しました」

そう語る彼女だが、それまで日本ワインは当たり、外れも大きい印象で、そんなに飲んだ経験はなかったという。ところがワインエキスパートを始めとした資格を取得していく中で長野や九州など日本のワイナリーを探訪し、そのおいしさに開眼。日本ワインの魅力にハマって以降は、収穫の時期には各地の生産者の手伝いに出かけるように。そのうち、成田さんにはある思いが芽生えていった。

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naritayaを営む成田真奈美さん、和仁さん。

「日本のワイン産地に出かけても、当時の宿泊先は現地のビジネスホテルということがほとんど。一方、ナパやフランスでは個性的な小さな宿や、地元の味わいを楽しめる飲食店も充実していて産地を訪れる楽しみのひとつになっていました。私が北海道出身だったこともあり、そんな施設を造れないかと、夫と一緒に余市・仁木のエリアで土地を探し始めたんです」

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巡り合った「農地」で、ワイン造りも始めることに。

探し始めて3年、現地にも赴き、仁木の街や山なみを一望出来る区画に巡り合う。だが後にふたりが店を構えることとなるその土地は、耕作放棄された「農地」だった。

「農地を取得するためには、当然ですが農家になって農業を営まなければならないことに。ワインは好きでしたが、自分でワインを造るなんて畏れ多いとも思っていました。でも、これも巡り合わせだと思って、ワイン用ブドウの栽培に挑戦することになりました」

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ブドウ畑は30アール。「少ない面積で集中するため」、と白ブドウ品種のみを手がけている。photography: naritaya

幸い、余市のヴィンヤードを営む先達に、ワイン造りを土地の開墾から教わることができ、結果として2020年、東京からの移住と同時にブドウの苗を植えることに。選んだのはリースリングをはじめとする白ブドウ品種だ。

「アルザススタイルのワインが好きで、最初はすべてリースリングの苗を植えようと思っていたんです。でも、周りからの『リースリングは難しい』『リスク分散した方がいい』というアドバイスもあって、シャルドネのほか、ピノ・グリ、ピノ・ブランといったアルザスでもよく使う品種を植えました」

奇しくもコロナ禍という状況もあり、畑仕事に打ち込むことに。すると、植えてから2年目のタイミングで140kgほどのブドウを収穫することができたのだという。せっかくできたブドウなのでジュースにしよう、と思っていた時に、声をかけてくれたのが近隣でドメーヌ・ブレス(旧ル・レーヴ・ワイナリー)を営む本間裕康さんだった。

「『醸造は年に一度しかできないから、一回でも多く経験した方がいい。タンクも余ってるよ』と声をかけていただいたんです。本間さんもアルザスに見られるフィールドブレンド(同じ畑で育った複数の品種を混醸すること)がお好きで、造りたいスタイルも似ていたと思います」

2021年収穫のブドウはドメーヌ・ブレスに委託醸造を依頼し、自分たちも醸造所に赴いて作業を行い、「Asahidai 245 Blanc 2021 Épisode 0(アサヒダイ 245 ブラン 2021 エピソード0)」が誕生した。

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左から「アサヒダイ 245」の最新ヴィンテージ「シャルドネ アンウッデッド 2023」「リースリング 2023」「ブラン 2023 エピソード2 」。ブドウ畑に現れる天敵の動物たちが可愛らしく描かれている。23年は初めて鳥害も出たことから、「ブラン 2023」のラベルには前の年までいなかった鳥が! ぜひ実際のボトルを見つけたら、目を凝らして確かめてみて。

2024年現在、ドメーヌ・ブレスの醸造所内に自社のタンクを預かってもらう形で、自社のワインを生産できるように。23年収穫のヴィンテージでは「アサヒダイ 245 リースリング 2023」、憧れだったリースリング単一のボトルも誕生した。

「雨、湿度、土壌や霜、雪などの問題で、『北海道でリースリングは難しい』という話を聞いていました。でも、ニューヨークのフィンガーレイクスのような環境でもおいしいリースリングが生産されていた。できないことはないだろうと思ってやってみた、という感じでした」

リースリング 2023からはアカシアのハチミツやリンゴのような香りが漂い、口に含むと柔らかながらも凛と引き締まった酸味が口を引き締めてくれる。

「華やかな香りを維持しながら、柔らかさとリースリングらしい酸が両立するワインになったと思います」

「北海道の気候にリースリングは難しい」と話す生産者もいた中で、あえて挑戦し、自分だけのおいしさを表現したいと話す成田さん。そのチャレンジ精神で好きなものを追う姿勢が、目の前のワインに結実していた。

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北海道の蕎麦と日本ワインを堪能できる宿へ。

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せいろ¥880(十割蕎麦は+¥110)、グラスワイン¥770〜。この日はグラスで「アサヒダイ 245 ブラン」をいただく。シャルドネのふくよかさにピノ・グリのボディ感、ピノ・ブランの白い花の香りがリースリングの酸で引き締まる、余韻の長い染み渡るような一杯。

ランチには夫・和仁さんが打つ蕎麦を堪能できる。会社員時代に通い始めた蕎麦打ち教室の経験が活き、今では土日祝限定で繋ぎなしの十割蕎麦も提供する。香り高い北海道の蕎麦に、滋味深い日本各地のワインがこの上なく合う。こちらも土日祝限定だが、予約制の蕎麦前プレートと日本ワインを味わいながら、窓からの仁木の雄大な眺望を堪能するのもまた心癒される瞬間だ。

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宿泊は1日2組限定。余市、仁木とワイナリーを回った後は、ぜひ「ワイン産地に泊まる」という体験を。
naritaya
北海道余市郡仁木町旭台257
Tel: 0135-32-3877
営)11:30~14:00 L.O.
休)火、水(ほか不定休あり)

naritaya lodge
全2室 1名¥16,500〜 (1室2名、2食付き)

https://www.naritaya-niki.jp
instagram: @naritaya_niki

>>関連記事:ドメーヌ・タカヒコに聞いた、余市の自然派ワインが世界から注目される理由とは?

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photography: Mirei Sakaki

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

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