マッシのアモーレ♡イタリアワイン ピエモンテでバルベーラ・ダルバを探してみたら、イタリア人の「地元愛」の深さがわかった!?

Gourmet 2025.04.05

マッシ

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回はマッシが6年ぶりにピエモンテ州へ帰郷! 日本でも有名なワイン「バルベーラ・ダルバ」について現地で取材していたら......?! 地元愛あふれるマッシ母とのやりとりは必見。


ピエモンテの日常に欠かせない赤ワイン用ブドウ品種、バルベーラ。日本でもそのブドウ品種は知られているようだけど、今回はピエモンテ人として、その魅力や秘密をお伝えしたいと思う。ピエモンテ州の風景といえば、ワイン畑と霧の組み合わせ。これはまさにこの地域ならではのものなのだ。

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マッシが撮影したピエモンテ州、モンフェッラートの畑より。

ピエモンテ州内でワインを頼む時、「バルベーラ」と品種を伝えただけではワインが出てこないことが多い。バルベーラを飲みたい時には、どこの地域、ワイナリーのものを希望するか伝える必要がある。これは、ピエモンテ人には欠かせない大事な話だ。カザーレ・モンフェッラート出身の僕は里帰りの時に、バルベーラ・デル・モンフェッラートではなく、日本でも有名なアルバ産の「バルベーラ・ダルバを飲みたい」と言い出したら、なぜか家族に裏切り者のように扱われた。

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マッシの実家にあったバルベーラのワイン。モンフェッラートとアスティで造られたものが多く、日本でもよく見かけるアルバ産(バルベーラ・ダルバ)は1本もないという地元愛!

「なぜ故郷のいいものから離れるの?」と、まずは地元のワインを優先する流れになる。ワインの魅力は、バルベーラという黒ブドウ品種というより、造られている土地にあると考えるのだ。地元のスーパーにバルベーラ・ダルバがなく、モンフェッラート地方とその辺のワインが多かったことに驚いた。日本では見かけないワインもたくさんあった。実家では少なくともワイン30本がいつも置いてあってバルベーラの種類も豊富なのに、なぜか「バルベーラ・ダルバ」だけがなかった。モンフェッラート産のものが多く、地元愛を再発見できた。

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ピエモンテ州(赤枠で囲まれた地域)内、アルバ、アスティ、モンフェッラートの位置関係。

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では、有名なバルベーラ・ダルバはどんな特徴を持っているのを説明しよう。力強い味わいと長期熟成に耐えるしっかりとした構造を持ち、複雑な風味が楽しめるワイン。これは、バローロなどの高級ワインが生まれるアルバ地域の地形が、同じピエモンテ州内でもアスティ地域に比べて地層が重なった丘陵地帯であることが影響している。それゆえ、同じバルベーラでも、産地によってワインの呼称が変わる。たとえば「バルベーラ・ダスティ」や「バルベーラ・デル・モンフェッラート」「バルベーラ・ダルバ」など。それぞれの地域の土壌や気候の違いによって個性が生まれる。バルベーラ・ダルバは、兄弟のような存在であるバルベーラ・ダスティに比べて生産量が少なく、あまり市場に出回らないものの、その品質は非常に優れているようだ。

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アルバのスーパーではバルベーラ・ダルバを扱っていた。

バルベーラ・ダルバはピエモンテ州内でも簡単に手に入らないことがわかった。アルバ現地に買いに行くのがいちばん早くて種類も多い。故郷モンフェッラートでも料理と一緒に飲みたいと思っていたら、なんとピエモンテ伝統料理店でやっと見つけた! だけど、小さなサイズのボトルのみだった。

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マッシが地元で見つけたハーフサイズのバルベーラ・ダルバ。

いろんなワインの説明を受けて、同じ地域の中でもワイナリーの違いやワイナリーの人のプライベートな話まで、際限なく出てくる。ワインの特徴の説明は必要だと思うけど、やっぱりワインから少し離れた話も大事だと改めて思った。

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バルベーラ・ダルバは割と料理に合わせやすくて、頼んだ豚とチーズの料理と猪肉のタリアテッレとの相性が抜群だった! ピエモンテ人に生まれてよかったと思った。複雑な料理ではなくシンプルな食材と調理法がピエモンテ料理の特徴。霧が守ったブドウを使った、コクのあるワインはピエモンテ人にとって宝物になる。バルベーラ・ダルバはフルボディでコクがあるから、肉料理(煮込みやロースト、グリルや詰め物をした生パスタ、ミートソースなど)によく合う。ブドウ品種の自然な酸味と繊細なタンニンのおかげで、バルベーラ・ダルバはフレッシュで飲みやすく、ペアリングしやすいワイン。

ピエモンテ現地でバルベーラ・ダルバを飲んでもらいたいけど、実は日本でも楽しめる。同じ地域で造られる赤ワイン用ブドウでも、ネッビオーロで造られるワインとどのような違いがあるのか、バルベーラ・ダルバの特徴をまとめた。

外観:濃いルビーレッドで、紫色がかっている。熟成が進むと、ガーネット色に変化する。
→ネッビオーロの場合は、淡いルビーレッド〜ガーネットで縁が明るい。熟成が進むとレンガ色に変化していく。
香り:ブラックベリーやチェリー、イチゴ、赤果実のジャムのようなフルーティーな香り。スペリオーレバージョンは、シナモン、バニラ、グリーンペッパーなどのスパイシーな香りが加わる。
→ネッビオーロの場合は、スミレ、バラ、チェリー、プラムに紅茶のようなニュアンス。熟成によって腐葉土、なめし革、タバコのような複雑な味わいが出てくる。
味わい:赤や黒の果実(プラム、ブラックベリー、チェリー、スモモ)の風味が豊かで、酸味が特徴。タンニンは穏やかで、暖かく包み込むような味わい。スペリオーレは、バニラやスパイス、バルサミコのニュアンスが加わる。
→ネッビオーロの場合は、タンニン、酸が豊富で、造り方によっては若いうちは攻撃的なまでの渋みを感じることも。熟成や醸造方法によってタンニンがワインに溶け込み、滑らかで美しい口当たりへと変化していく。

バルベーラ・ダルバに特別な存在感があるのには理由がある。バルベーラ・ダルバの中でも特に優れたものは、もともとネッビオーロの栽培に適した土地で育てられている。この土地は、かつて海の底だった新生代の地層で、灰青色の泥灰土(粘土と石灰質が混ざった土壌)を持っている。この土壌のおかげで、バルベーラ・ダルバはより深みのある味わいと複雑な風味を持つ、質の高いワインに仕上がるのだ。そもそも、石灰が豊富な土壌は世界最高級の赤ワインが生まれる環境と言われている。そのため、バルベーラ・ダルバも素晴らしいワインとなる。また、バルベーラ・ダルバには、最大15%までネッビオーロをブレンドすることが許されているそう。ネッビオーロのおかげで、ワインに高貴な雰囲気を与えつつ、バルベーラ特有の鮮やかな酸味を和らげることができるようだ。さらに、「スペリオーレ」という特別なバージョンもあり、最低12カ月熟成(うち4カ月は木樽熟成)されることで、より深みのある味わいになる。

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ところで、母親に「アルバに行ってみない?」と誘ってみたら返ってきた返事を聞いてほっこりした。その返事は「アルバまで行ったって何もないよ! モンフェッラートの方が魅力がたくさんあってワイナリーや素晴らしい景色を楽しめる。いまからマッシをモンフェッラートにもう一度、恋させる」と。母親が可愛かった! そして、宣言通り、モンフェッラート地方にまた恋に落ちた。

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晴れた日のモンフェッラートの畑に、再び恋して。

バルベーラの歴史も少しだけでも知ってもらいたい。

1800年代後半に大きな転機を迎えた。この時期、ヨーロッパ全土でフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)による被害が広がって、多くのブドウ畑が壊滅的な打撃を受けたそう。しかし、この影響で新しいブドウの植栽が進み、ピエモンテ州においては特にタナロ川の左岸にあるロエロ地域で、バルベーラの栽培が定着したようだ。

一方、ランゲ地域では、日当たりが最も良く理想的な区画がネッビオーロの栽培に割り当てられた。その結果、この地域はバローロやバルバレスコといった偉大なワインで名を馳せ、バルベーラは「脇役」になったのだ。それでも、バルベーラは収穫量が多く安定して生産できるから、生産量を重視するブドウ栽培者にとって魅力的な品種であり続けた。

もし、日本でバルベーラ・ダルバを見かけたら、ぜひ試してみてほしい。ワイングラスを手にしたその瞬間、ピエモンテの美しい風景と文化へ繋がる扉が目の前に表れるはずだから。ピエモンテへ行ってらっしゃい!

1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
X:@massi3112
Instagram:@massimiliano_fashion

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