日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。 イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回はマッシが6年ぶりにピエモンテ州へ帰郷! ワインの名産地で、現地のイタリア人はどんなワインをどのように飲んでいるのか、リポートしてくれた。
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ワインにそこまで詳しくない人も、「ピエモンテ産ワイン」と聞けば、ネッビオーロから造られるバローロ、バルバレスコが思い浮かぶだろう。でも、ピエモンテワインの魅力はそれだけではない。実際にこの地を訪れ、ワイナリーやブドウ畑を巡ることで、世界的に有名な産地の奥深さを発見できる。 では、ピエモンテの人々は普段、どんなワインを楽しんでいるのか。その答えを知るために、ピエモンテのワイン文化を巡る旅に出てみよう。
ピエモンテ州には合計で43,000ha以上のブドウ畑があり、19種類のD.O.C.G.ワイン(統制保証原産地呼称、最も厳格な格付け)、41種類のD.O.C.ワイン(統制原産地呼称、D.O.C.G.に次ぐ品質等級)が生産されている。この地域のワイン造りの伝統と歴史は、何世代にもわたって受け継がれ、近年はより洗練された非常に高いレベルへと進化している。
では、ピエモンテでぜひ味わってほしいワインを紹介しよう。 まず、ピエモンテ州には多種多様な赤ワインがある。ネッビオーロやバルベーラ、ルケ、ドルチェット、グリニョリーノといった品種は、その品質と地域(クーネオとアスティ)にしっかり根付いた歴史で世界的に知られている。 また、ガッティナーラD.O.C.G.やゲンメD.O.C.G.、ボッカD.O.C.、ブラマテッラD.O.C.など、あまり知られていない高品質な赤ワインもたくさんある。これらのワインもピエモンテ最高の赤ワインの一部で、ヴェルチェッリやノヴァーラ、ヴェルバーノ・クジオ・オッソラのブドウ畑から生まれている。ワインの名前を聞くたびに、その地域の楽しさが口の中に広がる。

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ワインの魅力はその景色と歴史から始まる。
「ワインを知ることは、その土地の文化を知ること」 とよく言われるけど、ピエモンテではまさにその通りなのだ。 ピエモンテ人として言わせてもらいたいのは、ワインの魅力はその景色と歴史から始まる、ということ。それぞれの地域は単なるワイン畑ではなく、地元人がブドウと一緒に成長していくユニークな関係。だからこそ、こんなに種類が多い。 ランゲやロエロ、モンフェラートの間には、バルバレスコ、バローロ、ニッツァ、ロエロ、ペラヴェルガ・ディ・ヴェルデュノといった生産地がある。一方、ビエッラとトリノの間では、カレマとカネヴェーゼ・ロッソを楽しむことができる。特にトリノでは、バルベーラ、フレイザ、ドルチェット、ボナルダといった品種で造られたワインを試飲できるところが多い。そして、ヴァル・ディ・スーザやヴァルスーザD.O.C.の地に移ると、より独特な味と香りに出会える。

ピエモンテ州内では数十キロ動けばワインの特徴が大きく変わって、その村にあるワインの習慣は、その村にしか残らない。地元の人々は、その土地で生まれたワインを特に大切にし、ほかの地域のワインよりも地元産を好むのだ。
「ピエモンテは赤ワイン」のイメージが強いけど、実はそれぞれの丘を回ればピエモンテ人も驚くほど意外な新発見がある。州都であるトリノや、ヴェルチェッリ、ビエッラ地域では、エルバルーチェ・ディ・カルーソD.O.C.G.のような重要な「白ワイン」の生産を誇っているのだ。ロエロ・アルネイスD.O.C.G.とランゲD.O.C.ビアンコは、なんとユネスコの世界遺産であるランゲ・ロエロとモンフェッラートのブドウ畑で生産されている。アレッサンドリア県では、コルテーゼ種のブドウから作られたガヴィD.O.C.G.とティモラッソが有名だ。
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ワインの名産地、現地の人が選ぶワインって?
ピエモンテのワイン文化を語るうえで、スパークリングワインとデザートワインも欠かせない。特に、お祝いや宴会のテーブルには、アスティのワインはもってこいだ。アスティ・スプマンテD.O.C.G.やモスカート・ダスティD.O.C.G.、アスティ・セッコD.O.C.G.は、アスティ、クーネオ、アレッサンドリアの各県で生産されていて、この地域は有名な段々畑のブドウ畑が特徴的。 スパークリングワインとデザートワインの選択肢には、マルヴァジア・ディ・カソルツォ・ダスティD.O.C.やストレヴィD.O.C.、ロアッツォロD.O.C.、アックイD.O.C.G.ロゼ、ブラケット・ダックイD.O.C.G.がある。特にモスカート・ダスティは、フルーティで軽やかな甘さが特徴で、ワインを飲まない人も楽しめる一本だ。

ワインだけの話に止まらず、ピエモンテは蒸留酒やリキュールも有名だ。ピエモンテの丘陵地帯で生まれた蒸留酒は、独特の風味と特徴がある。最も有名なものは、グラッパ・ディ・モスカートやグラッパ・ディ・バローロ。そして、ジェネピー・デル・モンチェニージョやゲンチアナ・リキュール、ガルース・スシーノ、アルケブーズなどのリキュールもある。キヴァッソで生産されているロゾリオとノッチョリーノ、バローロ・キナートも忘れてはいけない。
古代からの伝統的な製法で造られたこれらのリキュールは、食後酒として楽しむのに最適だ。 日本でよく知られているバローロやネッビオーロ、バルバレスコは、ピエモンテではあまり選ばれず、そのほかの地元産のものが優先されることがほとんど。たとえば、僕の出身地であるカザーレ・モンフェッラートでは、グリニョリーノ・デル・モンフェッラート・カサレーゼの赤ワインがバローロより人気で、地元のレストランから家庭の食卓までいたる所に並んでいる。

ピエモンテ人の僕にとって、ワインの豊富さは誇りそのもの。気づけばいつも、「イタリアといえばピエモンテ!」という話から始まり、冒険のように地元愛あふれる物語が始まってしまう。ピエモンテ人にとって、ピエモンテ料理に合うワインはやっぱりピエモンテ産以外考えられない。 もし、ピエモンテを訪れる機会があれば、ぜひ地元のワインを味わい、その土地ならではの文化や歴史を感じてみてほしい。きっと、新たなワインの楽しみ方が見つかるはず。
1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
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