見て楽しい、食べておいしいクッキー缶。小さな箱にぎっしり詰まったクッキー缶は、おすすめの手土産です。もちろん、自分で味わうたのしみも。文筆家・甲斐みのりさんが教えてくれたクッキー缶をご紹介します。
♦店名:洋菓子店&Anne
♦製品名:クッキー缶 ¥6,500

琵琶湖の東北部に位置する滋賀県彦根市。江戸時代には彦根藩井伊家35万石の城下町として発展し、歴史の遺産が数多く残るまち。井伊家13代当主で江戸幕府の大老も務めた直弼は、大名茶人としても知られ、茶の湯の心得を示した『茶湯一会集』を著して、「一期一会」の思想を広めた。茶道に菓子はつきもので、直弼は延命長寿の神として知られる多賀大社の杓子の柄を切り取って、菓子器を手作りしたそうだ。
1953(昭和28)年創業の「菓心おおすが」は、彦根ゆかりの銘菓「三十五万石」で知られる名店だ。米俵の形の最中皮に、滋味深い自家製の粒餡と、柔らかな求肥餅を詰めたそのお菓子を、「家族みんなが大好きなお菓子です」と彦根が地元の方からいただいたことがある。
菓心おおすがのルーツを辿れると、明治時代にさかのぼる。渡米して農園を営んでいた大菅市之丞の帰国後に、後継者が小麦商を始めたという。昭和28年には「大菅製パン所」を立ち上げて、地域の学校給食を手がけていた歴史もある。
そんな老舗和菓子店の隣に、2013年に誕生したのが、店舗に書店を併設した洋菓子部門の「&Anne(アンドアン)」。屋号の「アン」は、菓心おおすがが大切にしている"自家製餡"にちなんでいる。店頭に並んでいるのは、フランスの伝統菓子を中心に、素材を活かした焼き菓子やスコーン。ふんわり甘い香りに包まれながら、お菓子や本を選ぶことができる。昔ながらの地元の商店街の一角にあるから、誰でもふらっと立ち寄ることができて、文化の発信地のような存在でもあると、三十五万石をくださった方が教えてくれた。
いつか彦根の本店を訪ねてみたいと憧れながら、現在よく利用しているのが、2024年に「松屋銀座」にオープンした支店。和菓子の菓心おおすが、洋菓子のアンドアン、どちらのお菓子も購入できるので選択肢も幅広い。


そこで真っ先に目に飛び込んだのが、端正な白い容れ物に、5種類の焼き菓子を詰めたクッキー缶。レモン風味のガレット、クルミを生地に練り込んだビスキュイ、ヴァローナのカカオを贅沢に使ったチョコレートクッキー、スパイスを効かせたマカダミアナッツのキャラメリゼ、オレンジ風味のホワイトチョコレートをコーティングしたヘーゼルナッツ。どれもアンドアンの定番だ。
アンドアンのロゴマークや包装紙とともに、缶のデザインを手がけたのは、スタイリストの堀井和子さん。お菓子の名前をのびやかな手描き文字で記している。
ちなみに、菓心おおすがの店名ロゴは、モーネ工房の井上由季子さんによる特別な文字。なんと、菓祖・田道間守が常世の国から持ち帰ったと伝わる橘の木のDNAを受け継いだ苗木の枝を筆にして書かれたという。
これからも"お菓子を味わうひととき"を、一期一会と大切にしていきたい。
<内容>
・&Anneガレット
・クルミのビスキュイ
・ショコラ
・マカダミア
・ノワゼッティーヌ
photography: Yuko Sayama

文筆家。旅、散歩、お菓子やパンや手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどについて執筆。地方自治体の観光案内冊子も手がける。著書は『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』『にっぽん全国おみやげおやつ』『愛しの純喫茶』など50冊以上。
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