開放感あふれる「楽園」で、寛ぎの時間を。|アーティストの別荘訪問(1)
Interiors 2024.09.07
フランスの生活に根付く"暮らしの美学"、アール・ドゥ・ヴィーヴル。その精神を体現するアーティストの別荘を訪問。インテリアデザイナー、サラ・ラヴォワンヌが「パラディ(楽園)」と呼ぶ寛ぎの空間を案内してくれた。
素朴な小屋を陽気な配色に、 寛ぎの場を演出する。
大西洋とアルカション湾に挟まれた自然豊かな砂丘の半島は、幼い頃からサラ・ラヴォワンヌのなじみの地だ。彼女はこの別荘を「パラディ(楽園)」と呼んでいる。
「父の別荘があったので、子どもの頃、夏はいつもここで過ごしていたんです。開放感と安心感が入り混じった独特の空気感がありました。食卓はどの世代も分け隔てなく集うだんらんの場。陽を浴びた松の匂いや、この地方特有の金色の日差しに包まれながら、誰もが好き勝手におしゃべりをして。家の内装は簡素でしたね。自分の別荘もそれに倣いました」
父の前にも、祖父母がこの地に家を所有していたそう。だから砂丘近くの土地が4棟の小屋付きで売りに出されていたのを見つけた時、すぐに飛びついた。6年経ったいまもサラは毎年、夏を家族とここで過ごし、暇さえあれば充電に来る。
Garden
「小屋はそのまま残し、配色にコントラストを利かせて個性を出しました。ブラジルのトランコーゾという町では、家が一軒一軒、異なる色に塗られています。これをヒントに簡素な木造建築のスタイルを決め、陽気に仕上げました。この別荘は、素の自分にいちばん似ている場所だと思います」
黄色く塗られた母屋に入ると、天然木の壁板が張られた広い空間。片側にはグリーンに塗装された長い木製テーブルがあり、陶芸家の友人による個性的なシャンデリアが吊るされている。棚には本や子どもの写真、花瓶、ロウソク立て、ボードゲームが無造作に置かれている。反対側に座り心地が良い赤いソファが据えてある。部屋の中央に暖炉があり、少し冷える晩には火を起こす。ここは誰もが寛げる空間なのだ。
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Living Room
Dining Area
「最小限のスペースで高機能なオープンキッチンを実現しました。大きな冷蔵庫も収まったんです! ヴァカンス中に料理をするのは大好き。いつもより時間があるし、地元の食材はおいしいですから」
オープン棚には、ヴィンテージのバルボティーヌ陶器とメゾン・サラ・ラヴォワンヌの食器が混在し、インテリアの一部となっている。
「この収納なら誰でもすぐごはんが食べられるでしょう。私、うつわが大好きなんです。両親の結婚披露宴の食器までもらってきちゃいました」
母屋には、サラのプライベート空間もある。寝室は濃い紫とサンドイエローの心安らぐ暖色でまとめられており、バスルームには有名な"サラ・ブルー"のモザイクタイルを部分的にあしらった。
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Bedroom
美しい配色は、2012年に設立したメゾン・サラ・ラヴォワンヌの得意とするところ。内装から家具やオブジェのデザイン、女性服まで手がけている。21カ国500以上の拠点で取り扱われるほど成功を収めた現在、サラはずっと関心のあった活動にも取り組めるようになった。彼女の建築スタジオでは、障害者雇用の場を創出するカフェ・ジョワイユのビジュアルも手がけている。また、パリ病院財団のモジュール家具をデザインし、最近では家庭内暴力の被害者女性のためのシェルターの内装も請け負ったという。
「私の信念は、"美は癒やし"。インテリアとは単に家具を配置することではなく、感覚に訴え、気持ちを落ち着かせてくれる"調和"が大切なんです」
もてなしと分かち合いの精神に満ちたこの別荘は、まさに調和している。庭には、ゆったり寛ぐためのテーブルやソファ、チェアが点在し、仲間で集う場所もふたりきりで過ごす場所もあちこちにある。
「大勢来ても場所はたくさんあるから大丈夫。当初から3人の子どもたちと自分のための場所として設計しました。子どもたちはそれぞれ自分の小屋があったけれど、成長したいまは一棟をゲストハウスに改装して、友だちと集まれるようにしました。 "ともに進化する家"という考え方が気に入っています。ここは生きている場なのです」
Sarah Lavoine
サラ・ラヴォワンヌ
ポーランドの貴族、ポニアトスキー家の生まれ。2002年、インテリアデザイナーとして自身の会社を興し、09年から家具デザインもスタート。ホテルや店舗の内装も手がける。
https://www.maisonsarahlavoine.com/
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*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋
photography: Thierry Lebraly(Madame Figaro) styling: Noémie Barré(Madame Figaro) text: Emmanuelle Eymery(Madame Figaro)