【鳥取・岡山アート旅】歴史と文化息づく山陰の、新たな名所へ。

Travel 2025.11.02

待望の県立美術館の開館で沸く鳥取と、芸術祭の開催で注目を集める岡山~瀬戸内エリア。山陰の文化都市を出発地に、自然や景色と共鳴する、新しいアートスポットに出合う旅へ出かけよう。


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室町時代は城下町だった倉吉市の中心部。江戸〜明治の建造物が立ち並び、白壁土蔵群と呼ばれる。屋根の赤瓦も特徴のひとつ。

中国地方最高峰を誇る大山、日本海、そして砂丘。"自然"のイメージが強かった鳥取が、いま変わりつつある。鳥取市、米子市に続く第3の都市であり、県の中央部に位置する倉吉市に、アート目的の来訪者が急増している。

その目玉となるのが今年3月に開館した鳥取県立美術館。県が約3億円を投資して話題を呼んだアンディ・ウォーホルの『ブリロ・ボックス』が展示されるほか、彫刻家・辻晉しん堂どうの作品など鳥取ゆかりのアーティストにもフォーカス。

県民にとっては身近にアートを感じられる場であり、県外や海外の人にとっては鳥取を訪れる大きな理由に繋がっている。

美術館誕生を見込んで開館前の2024年に、同じ倉吉市内にオープンしたのがアート格納庫Mだ。地元の老舗企業が一念発起で立ち上げたギャラリーで、工業団地内の倉庫を活用したロケーションや空間もユニーク。オーナーの岡野稔は「地元や若手アーティストを育成・応援し、アートをきっかけに倉吉の活性化に繋がれば」と思いを語る。実は倉吉をはじめとする山陰エリアは、民衆の文化・芸術が明治から息づく町。大正9年には芸術の普及活動を担う文化団体「砂丘社」が結成、昭和初期には民藝の父・柳宗悦と交流が深い版画家・長谷川富三郎なども活躍した。文化度の高さからもアートが育つ素地は十分にあった。

倉吉から車で約30分走った蒜山高原には、隈研吾設計のミュージアム、グリーナブル ヒルゼンが、そこから大山を挟んだ米子市近郊には鳥取が生んだ巨匠・植田正治写真美術館が立つ。いずれも大自然と共鳴する、風土に根差した作品が見もの。文化都市鳥取は、新たなアートの風で大きく開花しようとしている。

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【 鳥取県・倉吉市 】

鳥取県立美術館

すべての人に開かれた、現代アートとの出合いの場。

地元民待望の県立美術館。「OPENNESS!(オープンネス)」をコンセプトに、町のサードプレイスを目指す。それを体現するのが槇総合計画事務所による建築。吹き抜けの「ひろま」を中心に、史跡大御堂廃寺跡歴史公園に臨む「えんがわ」を配置。大山を借景にした展望テラスなど開放感たっぷりだ。驚きなのが、これらのスペースが展示室以外なら無料で楽しめること。展示室は広々とした企画展示室と5室のコレクションギャラリーに分かれ、辻晉堂、前田寛治などテーマに合わせた彫刻や絵画を紹介。約1万点ある収蔵作品のなかでもアンディ・ウォーホルの『ブリロ・ボックス』は必見。時にはボックスを積んで展示するなど、企画によって展示方法が変わる。

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エントランスに立つ彫刻家・青木野枝による『しきだい』。そのほかふたりの作家による屋外彫刻を展示。町散策の合間に気軽に見られる開かれたアートとなっている。

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美術館の目の前には公園の芝生が広がる。1階部分、横長のテラスが「えんがわ」だ。

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美術鑑賞の合間にひと息できる展望テラスは市民憩いの場。フリースペースには、鳥取出身の漫画家・水木しげる、谷口ジロー、青山剛昌の本が開架され、自由に読めるので子どもに大人気。

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取材時は髙橋匡太による光のインスタレーション『雲の故郷へ』が展開されていた。天井は鳥取砂丘の風紋や倉吉絣(かすり)の織り模様をイメージしている。

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アンディ・ウォーホル『ブリロ・ボックス』は計5点所蔵。うち1点は1968年に制作された希少なもの。

鳥取県立美術館
鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12
0858-24-5442
開)9:00〜16:30最終入場
休)月 ※ほか不定休あり
入場無料 ※展覧会ごとに観覧料が異なる
https://tottori-moa.jp/

アート格納庫M

工業団地に現れた地元アーティストの活動拠点。

1952年に割り箸メーカーとして創業した倉吉の老舗企業が木材チップの倉庫をギャラリーに改装。空間を存分に活用し常設されるのは、"もの派"を代表するアーティスト原口典之の壮大な作品『Oil and Water』。プール状の型には、かたや廃油が、もう一方には水が張られ、油と水の対比を見せている。開館から1年強ながらすでに7回の企画展を実施し、そのほとんどが若手アーティストの育成に向けたもの。若手には無償で場を貸し出し、活躍の場所を提供。倉吉のアートシティ化にも一役買っている。

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白壁土蔵群がある倉吉中心部から車で約10分。周りには食品や電子工場、倉庫が並ぶ工業団地。

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梁は新設したものの、柱や壁は元の倉庫の風情を生かした。原口典之の『Oil and Water』。手前の型は、水を張ることで錆びて朽ちていく様子を見せている。奥の展示スペースの作品は企画によって替わる。

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垂直に立つ原口典之『Untitled FCS』は、オイルプールの"水平"と比較するのもおもしろい。

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郡田政之『無題』
10月5日まで石彫作家・郡田政之の展示を開催(現在会期終了)。彫刻のモチーフを鉛筆や貼り絵などで表現。郡田の石材を使った彫刻作品はエントランスに常設展示されている。

アート格納庫M
鳥取県倉吉市秋喜350-23
0858-48-2211
開)10:00〜16:30最終入場
休)月
料)一般¥1,000
https://www.arthangarm.com/

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【 岡山県・真庭市 】

グリーナブル ヒルゼン

自然と一体化する、サステナ時代のランドマーク。

蒜山高原といえば中国地方を代表する避暑地。自然あふれるこの地に、パビリオンやミュージアムなどを擁する施設が登場した。SDGs未来都市認定を受ける真庭市が舵を取り、地元のヒノキやスギを使って隈研吾が設計。パビリオン「風の葉」に入ると風が吹き抜け、ファサードのパネルがはためき、森林の中で葉が舞い上がるような錯覚に。ミュージアムでは年3回ほど展示が入れ替わり、いずれも自然モチーフの作品が並ぶ。自然と一体化した建築とサステナビリティを体感できる、新時代の文化発信地といえる。

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右奥に見えるのはサイクリングセンター。この地域で800年続く山焼き文化に隈が着想を得て、屋根に茅を使用。

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施設の一角にある真庭市蒜山ミュージアム。石のオブジェを作成する山本修司の展示は11月24日まで。隈の建築模型も並ぶ。

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自由に鑑賞できるパビリオン「風の葉」は、新素材のCLT材を活用。

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館内のショップでは、蒜山の四季をモチーフにした版画のほか、サステナ視点でセレクトした食品、ウエア、日用品を販売する。

グリーナブル ヒルゼン
岡山県真庭市蒜山上福田1205-220
0867-45-0750
開)9:00〜16:45最終入場
休)水
料)真庭市蒜山ミュージアム 一般¥500
https://greenable-hiruzen.co.jp/

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【 鳥取県・西伯郡 】

植田正治写真美術館

鳥取を舞台に撮り続けた、世界的写真家の軌跡。

『シリーズ〈砂丘モード〉』などで知られる、山陰が生んだ写真家・植田正治唯一の美術館。大山を真正面に据える巨大なコンクリートの建物には、約1万2千点収蔵する植田の作品から、時季のテーマに沿って常時150〜200点ほどを展示。外光を入れずとも自然光に寄せた照明や奥行きを生かした展示室など、ゆったりと作品鑑賞ができる工夫がそこここに。来館者参加型で楽しめる撮影スポットほか、600mmカメラレンズを設置した映像展示室含め、生涯山陰にフォーカスし続けた植田の軌跡が作品を通して感じられる。

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建築は島根県出身の高松伸が手がけた。弧を描くシルエットが特徴。

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建物の背面。4つの棟が連なり、さながら『少女四態』のよう。

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棟の間の窓ガラスにプリントされた帽子。ステッキなども用意され、人気撮影スポットに。

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館内2階の企画展示室は奥行きと高い天井があり、教会のような雰囲気が魅力。

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植田正治『少女四態』(1939年)。取材時に展示されていた植田の代表作のひとつ。

植田正治写真美術館
鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
0859-39-8000
開)10:00〜16:30最終入場
休)火、12/11〜2/28
料)一般¥1,000
https://www.houki-town.jp/ueda/

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*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋

photography: Mami Yamada

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