【岡山アート旅】いつもの風景に、現代アートがもたらす新体験とは?
Travel 2025.10.24
待望の県立美術館の開館で沸く鳥取と、芸術祭の開催で注目を集める岡山~瀬戸内エリア。山陰の文化都市を出発地に、自然や景色と共鳴する、新しいアートスポットに出合う旅へ出かけよう。
【岡山県・岡山市】
見慣れた街並みが、現代アートに変貌!
岡山とアートには深い親和性がある。美しい岡山城や風光明媚な名庭園・岡山後楽園に加え、倉敷には大原家によって創設された日本初の西洋美術中心の私立美術館があり、柳宗悦が始めた民藝運動が結実した倉敷民藝館がある。そうしたアートの街で、2016年より始まった街中にアートが出現する国際現代美術展が『岡山芸術交流』だ。総合プロデューサーであり日本有数のアートコレクターである石川文化振興財団理事長の石川康晴はこう語る。

岡山芸術交流2016のリアム・ギリックによる出展作品。既存のタワーを彩色してアートに。
リアム・ギリック『多面体的開発』(2016)
「岡山には県庁舎や岡山県天神山文化プラザなど、モダニズム建築の巨匠・前川國男建築や、実業家の林原一郎が蒐集した国宝や重要文化財を有する林原美術館など素晴らしい資産がある。そうした既存の資産に我々の資産を融合させ、新たな価値を創り、文化ツーリズムが起きるクリエイティブシティを目指しています」
その好例が、今年4月にオープンした現代美術館、ラビットホールだ。絵画や⼯芸品を蒐集した実業家の林原家のゲストハウスだったルネサンスビルを、建築家の青木淳がコンバージョン。コンクリートの壁を取り払って顕れた前川國男建築による隣の林原美術館の石垣が圧倒的な存在感で迫り、ヤン・ヴォーによる等身大の自由の女神像の断片と不思議な共鳴を奏でる。ラビットホールは、穴に落ちた先の非現実的な世界への入口。見慣れた街やモノがアートに変貌するのを体感して。

ビルの壁一面の「より良く働くために」は、実際にタイの工場に掲げられた10カ条を作品化した。
ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス『How to Work Better』(1991)

映画館の壁にテキストを用いた作品を創るローレンス・ウィナーのコンセプチュアルアートが。
ローレンス・ウィナー『BLOCKS OF COMPRESSED GRAPHITE / SET IN SUCH A MANNER / AS TO INTERFERE / WITH THE FLOW OF NEUTRONS / FROM PLACE TO PLACE』(2017)
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岡山芸術交流2025
公園やバスを舞台にした、3年に一度の祝祭。
第1回が2016年に開催されて以来、3年ごとに開催される国際現代美術展。岡山城や岡山後楽園周辺の徒歩圏内にアートが点在し、日常の光景に潜むアートとの出合いを目的とする。9月26日からスタートする4回目の今年は、アーティスティック・ディレクターにパリ在住のアーティスト、フィリップ・パレーノを迎える。村上春樹の小説『1Q84』に登場するヒロインに触発された『青豆の公園』が岡山市内で展開。これまで有料だった屋内展示も含め、すべての会場で鑑賞料を無料とするのも初の試み。芸術家、音楽家、建築家、科学者と多様なジャンルの約30組が参加することで魅せる現実と空想の交差、変貌する街の光景に期待。

フィリップ・パレーノによる13.6mの巨大な塔は日本初公開。AIとセンサーを搭載し、日々進化し言葉を話す。声は俳優の石田ゆり子が担当する。
Philippe Parreno, Membrane, 2024, Exhibition view: Fondation Beyeler, Basel Photo © Andrea Rossetti

実際に運行する約60台の路線バスをLEDライトで装飾する『RAINBOW BUS LINES』はジェームズ・チンランドの作品。
RAINBOW BUS LINES ©James Chinlund

ライアン・ガンダーの『The Find』は表裏に6種の言葉を刻んだコインを街から探し出す体験型プロジェクト。
Ryan Gander, The Find, Courtesy the artist and Museo de Arte Contemporáneo Helga de Alvear, Cáceres, photo by Tania Castro Ryan Gander's The Find is Commissioned by Factory International for Manchester International Festival.
開催地:岡山城・岡山後楽園周辺
会期:9/26~11/24
休)月 ※祝日の場合は開館、翌火曜休
086-221-0033
入場無料
https://www.okayamaartsummit.jp/2025/
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ラビットホール
壊して変化する最新クリエイティブスペース。
今年4月、⽯川康晴が新たに開館した現代美術館。国内外のコンセプチュアルアートなど約400点で構成されるイシカワコレクションを一般公開。作品展示によって創造的に壊し、変化していく美術館としても話題だ。キュレーター⿊澤浩美、建築家の青⽊淳、ギャラリスト那須太郎、そして⽯川の4人が、ディレクターコレクティブとして共同で運営に携わる。開館記念展となる『イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes』は、厳選した36作品を公開。時間や国籍を超えたコンセプチュアルアートが感覚を揺さぶり、思考に耽る。アート界でいま、最も注目される美術館だ。

ベトナムの難民という出自を持つヤン・ヴォー。自由の女神像の解体やベトナム戦争を泥沼化させた米国国防長官の椅子など権力の意味を問い直す。
ヤン・ヴォー『We The People (detail) Element #B7.2』(2011)(中央)、『Lot 20. Two Kennedy Administration Cabinet Room Chairs』(2013)(右)、ミカ・タジマ『NEW HUMANS』(2019)(右奥)

2階のポール・マッカーシーの作品は人体の構造を学ぶ教育用フィギュアをモチーフに。一見、愛らしい着ぐるみだが裂けた腹から内臓が飛び出す。
ポール・マッカーシー『Children's Anatomical Educational Figure』(1990頃)(右)、ダグラス・ヒューブラー『Bradford Series 3』(1966)(左)、ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス 『Untitled』 (1994-2013)(左奥)

フィリップ・パレーノによる浮遊する魚たち。窓から岡山城が見え、幻想的な光景。
フィリップ・パレーノ『My Room Is Another Fish Bowl』(2018)

映画館の電飾看板をモチーフに、有機的に点滅するフィリップ・パレーノの作品と空間の半分の空気を風船に詰め、空気を可視化したマーティン・クリードの作品。
フィリップ・パレーノ『Marquee』(2014)(右)、マーティン・クリード『Work No. 1350: Half the air in a given space』(2012)(左)
岡山県岡山市北区丸の内2-7-7
086-230-0983
開)10:00~16:30最終入場
休)月~水 ※祝日の場合は開館
料)一般 ¥1,500
https://www.ishikawafoundation.org/museum/
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ラビットホール別館 福岡醤油ギャラリー
歴史的建造物で醸す、アートの思考。
明治時代に建てられた主屋と昭和初期に建てられた離れで構成された歴史的建造物、旧福岡醤油建物を改修し再生した文化施設。ラビットホール開館に伴い、別館としてリニューアルした。美術館の名付け親でもある英国出身のアーティスト、ライアン・ガンダーの『Together, but not the same』展が現在開催中。かつて醤油を醸造していた壮大な地下空間に、ネズミが演説したり架空の公共広告のインスタレーションなど思考が醸成される作品群が広がる。

かつては醤油製造蔵や市民銀行の窓口として使われていた。

壁の穴から顔を出し入れするネズミが、チャップリンの『独裁者』を引用した演説を話す作品。
Ryan Gander『2000 year collaboration (The Prophet)』(2018)

隅にあるのはガンダーの最新作。『不思議の国のアリス』のように日常に潜むアートの穴に飛び込むウサギを表現。
左から、Ryan Gander『Irresistible Force Paradox (Seeblau 329)』(2024)、『The Rabbit Hole』(2025)、 『Viewing with historically preoccupied eyes』(2014)、『European soft-modernist crusader (Dramaturgical framework for structure and stability)』(2017)

Ryan Gander『Moonlighting』(2018)
1階に展示されている『Moonlighting』(2018)。ガンダーがピカソの作品を模倣した膨大なドローイングが壁一面に。中央のキャビネットの中にも作品が詰まっている。
岡山県岡山市北区弓之町17-35
086-206-1881
開)10:00~16:30最終入場
休)月~水 ※祝日の場合は開館
料)一般 ¥1,000
https://fukuokashoyu.org/
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ルメテ・アデリン アートラウンジ
新進気鋭のアーティストを岡山から世界へ発信!
岡山駅前の新たな複合施設、杜の街グレースにオープンしたパブリックアートラウンジ。デザイン及びアートディレクションは現代アーティスト名和晃平がディレクターを務めるSandwichが担当。フランス出身のルメテ・アデリンがギャラリストとして主に日本の新進気鋭アーティストたちを国内外に紹介する。「買い物途中に親子で立ち寄り、アートを眺める気軽なラウンジとして根付いてほしい」という思いが詰まった新世代のギャラリー。

ギャラリー中心にある、つきたての餅のようなソファはSandwichがデザイン。
左から、白石効栽『collection』(2025)、八嶋洋平『バーチャルガール』(2025)、菅野歩美『View of the Halloween City』(2025)・『Halloween Cities of To-Morrow』(2023)・『Cornerstone』(2025)、品川美香『植物と虫と子ども』(2024)

アデリンと、彼女の夫である福建省出身の画家・王子駿(おうししゅん)。広島にも自身のギャラリーを持つ彼女は今秋、ふたり目の出産を控えながらも精力的に活動中。

デジタル画像を構成するピクセルを拡大しキャンバスに移し替える油絵作品は、安田知司によるもの。
安田知司『1.149ppi̲84(lady)』(2022)
岡山県岡山市北区下石井2-10-8 杜の街プラザ2F
080-8438-0303
開)11:00~18:00
入場無料
https://www.lemetteadeline.com/
*「フィガロジャポン」2025年11月号より抜粋
photography: Yoshiki Okamoto text: Akiko Wakimoto






