ラリックの2ツ星レストラン。アルザスのおいしい旅へ。
Paris 2025.01.03
クリスタルのアール・ドゥ・ターブルに輝く、2ツ星レストラン
ヴィラ・ルネ・ラリックがラリック・グループのホテルとしてオープンし、マリオ・ボッタのデザインによるガラス張りのモダンなレストランがかつてのラリック邸に増築された。外に眺められるアルザス地方の大自然は、シェフのポール・ストラドネールに大きなインスピレーションを与えている。レストランのエントランスには、サヴォワールフェールを駆使する職人たちの卓越の技術が生み出す見事なクリスタルアイテムが黒いケースの中で輝いている。まるで、これから繰り広げられる食事時間の美しいプレリュードのよう。ストラドネールがここで働き始めたのは2017年。開店するやすぐに2ツ星を得た当時のシェフ、ジャン・ジョルジュ・クランが2020年に引退し、彼が後を継いでシェフとなり星を守り続けている。その彼、ヴィラに来る前にすでにドイツのバーデンバーデンの5ツ星ホテルのレストランで2ツ星を誇っていた実力の持ち主なのだ。
レストラン内で目を奪うのは外の景色だけではない。天井のモダンなシャンデリア、光を受けて模様を浮き出す花瓶、そしてテーブルセッティング......ラリックのアール・ドゥ・ターブルの世界へとあっという間に誘われる。卓上で待っているのは、クリスタルがはめ込まれたナプキンリング、葉モチーフのクリスタルのプジョー・ミル、ワイン評論家ジェームズ・サックリングとのコラボレーションによる官能的な手触りの脚を持つ100ポイント ユニバーサルグラス、そして艶消しのグリーンの鳥を宿らせた白いプレート。さらなる驚きと喜びは、マスク・ド・ファムを象ったバターの登場だろう。
シェフ、そして新しく就任したシェフパティシエのジョナタン・ブリュネルのふたりは、何よりも地元の豊かな食材を用いることを重視したクリエイションを行っている。メニューとともに素材の出自を描いた地図が用意されているのもそのためで、和牛にしてもアルザスのお隣、ロレーヌ地方の生産者からだ。最も近いのは野菜やハーブなど70種を育てているヴィラの畑! 厨房のスタッフは毎日、畑にその日の材料を取りにやってくるそうだ。
美食の旅はアラカルト、あるいは4種のコースメニューで(火曜、木曜、金曜にはランチタイムメニューが加わる)。メニューの"terroir de la villa René Lalique"はほかのメニューではキャビアやオマールなど遠方の食材が少し取り入れられているのに対し、ピュアに地元だけの食材で構成されている。また魚と肉については野菜料理とのチョイスなのでベジタリアンメニューにできる配慮がある。
コースの食事はメニューに記載のない一風変わったアミューズブーシュから始まる。青エビのムース、鳥の皮のフライ、クネル。これはドイツ(Allemagne)、オーストリア(Autriche)、アルザス(Alsace)地方というシェフが料理人として辿った3カ所がテーマである。テーブルまで挨拶に来られないシェフが食事客に対して行う料理人的自己紹介のようでは? レストランを取り囲む自然に加えて、彼の料理のルーツをなすこの3つのAも彼のインスピレーション源なのだ。なお、4種のコースメニューに共通しているひと皿がある。ドイツの"辛子卵"にインスパイアされたという、アラカルトでは注文できないウフ・パルフェである。酸味のある辛子のムースを乗せて、プラタナスをモチーフにしたクリスタルのクープ・シャンゼリゼの中央に置かれた卵が何やら高貴なスターのように登場する逸品だ。
シェフのクリエイションには味、香り、食感の計算が感じられる。へえと思わせる珍しい素材を取り入れたり、ひとつの食材を味わいを損なうことなく複数の調理法でひと皿に......たとえばアルザス地方のイワナ系淡水魚のオンブル・シュヴァリエは生、マリネ、スモークで、というようにだ。クリエイションに込められている料理のサヴォワールフェールと惜しまずにかけられた時間。シェフの厨房の仕事は、手の賢さと時間を頼りに最高のクオリティに挑んでいるクリスタルのマニュファクチュールの職人たちの仕事を思わせる。
シェフパティシエに今年10月に就任したのは、ジョナタン・ビュネルだ。先代ニコラ・ミュルトンのもとで働いた経験のある彼は、メゾンのエスプリを継承する次世代シェフである。フランスの菓子づくりの伝統と現代の潮流にインスパイアされて創作をするが、彼もまたラリックのマニュファクチュールが守り続ける技術が生み出すエレガンスと革新性にも鼓舞されているのだ。着任以来、彼が生み出したシグネチャーのひとつは「洋ナシ- ヨーグルト- キャラメル ジンジャー」。幼少期の思い出が込められた洋ナシをメインにおいたひと皿で、タイの蓮の花からのアイデアをニコラはチュイルで表現した。
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エピキュリアンの旅はワインセラーから
レストラン開業と同時に、更地だった場所に巨大なワインセラーが設けられた。地元そしてフランス国内の希少なワインを2700種近く揃えていて、ボトルの数は約60,000本。最古のワインは1865年のシャトー・ディケムだ。ここではマスタークラスやデギュスタションが、アルザス出身で地元の文化に精通しているシェフソムリエでラリックグループのワインディレクターであるロマン・イルティスによって行われている。 ヨーロッパで最も美しいと形容されるヴィラのセラーを護る彼。2012年度フランス最優秀ソムリエであり、また2015年にはフランス最優秀職人賞(MOF)を受賞している。もちろん2ツ星レストランのワインのペアリングを担当しているのも彼だ。
シルヴィオ・デンツが2016年から会長を務めるラリックグループには、クリスタルのラリック、香水のライセンスなども含むラリック・ビューティに加え、ヴィラ・ルネ・ラリックをはじめ4つのホテル、サンテミリオンのシャトー・ペビ・フォジェールやソーテルヌのシャトー・ラフォリ・ペラゲなどの7つのワイナリー、さらにスコットランド最古のウイスキー蒸溜所グレンタレットなどが統合されているのだ。ラリックの世界を広げ続けるデンツ。そこには歴史、サヴォワールフェール、ヘリテージに傾ける彼の情熱が見て取れるよう。この見事なワインセラーもワイン愛好家の彼あってと言える。
セラーの訪問が始まるのは、ラリック×ダミアン・ハーストによる"Eternel"の14枚のパネルが飾られた通路からだ。レストラン同様にマリオ・ボッタがワインセラーの建築を担当した。中央に長いテイスティングテーブルを備えたセラー。ワインに最もなじみ深いオーク材がテーブルや天井などに多用されている。これは地元ヴォージュのオーク材で、樽用にとワイン業者がオーダーしたものの引き取られず宙に浮いていたのを買い取った素材だそうだ。セラーの装飾に活用しているのは、ワインを詰めるさまざまなシャトーの木箱である。PETRUSなど箱に書かれたシャトー名をつい読みたくなってしまう。
ガラス仕切りの奥の棚に展示されているのは1863年物のポルト酒ニーポート。このポルト酒のためにラリックは特製カラフェを制作。ロストワックス法を用いて、ラリックのマニュファクチュールが誇る卓越の職人技が実現した複雑なデザインのカラフェである。3点限定製作したうち2点はオークションで販売され、127,000ドルという高値で落札されたそうだ。ワインに強くない、ワインに詳しくない......と言わず、ヴィラ・ルネ・ラリックにきたら、セラー訪問を!
宿泊、食事を楽しむヴィラ・ルネ・ラリック。お土産に何を持ち帰ろうか。クリスタル、ワイン......ヴィラに置かれた約10の養蜂箱からのビオの蜂蜜3種もホテルで販売されている。ちょっと珍しいのはカボチャの焙煎種のオイルだ。これはオーストリアのシェフの生まれ故郷の地方からの品で、シェフも料理に活用している。旅の楽しい思い出とともに、これらをトランクに詰めよう。
Villa René Lalique
18, rue Bellevue 67290 Wingen-sur-Moder
レストラン
営)12:00〜13:00(L.O.)、19:30〜20:45(L.O.)
休)日、月、水 ランチ
www.villarenelalique.com
【関連リンク】
ラリックのポップアップブティックとアルザスの工房訪問。
アルザスの5ツ星ホテル、ヴィラ・ルネ・ラリックに泊まり、洗練のアールドゥヴィーヴルを体験する。
editing: Mariko Omura