空間にとけ込むシャープな表情、鈴木マサルの最新テキスタイル。

鮮やかな色彩と伸びやかな柄(がら)で、目にした瞬間に心が弾む、テキスタイルデザイナー 鈴木マサルさんの世界。その鈴木さんの新境地ともいえる最新プロジェクトが、展覧会「テキスタイルの表と裏」として、7月22日(土)までKarimoku Commons Tokyo(西麻布)で紹介されています。

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photography: Masaaki Inoue,Bouillon

「空間へのアプローチとしてのテキスタイル」に取り組んだという今回のプロジェクト。その背景を本人が語ってくれました。

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「傘やバッグなどさまざまなものに用いられていくのがテキスタイルの良さでもあるのですが、それとは違ってテキスタイルの完成段階であったり、自分にとって完結しているプロダクトとしての姿を、空間における自立した佇まいとして示してみたいと思いました」

「テキスタイルのデザインでは色や柄は片面というのが一般的で、空間においては壁や窓を背負って用いられることが多いなど、使われ方が限定されています。両面からのアプローチができれば、さまざまな制約から開放されて、自由に、どのような空間にも入っていけるのではないか、テキスタイルが関わっていなかったところでの可能性も広がるのではないだろうかと考えた瞬間、ものすごくテンションが高くなってしまって(笑)。これまでとは違う柄のアイデアが頭のなかに広がっていきました」

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鈴木マサルさん。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

両面からのプリントそのものは数年前から試みてきた鈴木マサルさん。けれど今回の試みを実現することは、「簡単なことではありませんでした」と語ります。「生地の厚さや染料の染み込み方などのリサーチと試作が続きました」

まずは生地そのものについて。一般的なテキスタイルでは両端に「ミミ」と呼ばれる余白が残されますが、「プロダクトとしてのテキスタイルとするには、端部分までプリントすることが重要」と、シャトル織機で織ったテキスタイルが活かされています。

「旧式のシャトル織機で横糸が端まで連なるように織った生地を用いることで、ミミとなる部分を残すことなく柄が表現できます。シャトル織機は私がコレクションしている1950年代、60年代の北欧のテキスタイルと同じくローテクな技法ですが、独特の柔らかさに特徴のある生地となり、今回のデザインと調和するものともなりました」

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曲線を描きながら空間にとけ込むテキスタイルの色と柄。これまでの鈴木マサルデザインとは趣の異なる抽象的な表情。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

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そのうえで試みられた、生地両面からのプリント。鈴木マサルさんの柄は、手作業で、版を重ねていくことでつくられているのですが、「表と裏をなくす」今回は、生地の両面を順に染めるために通常の倍の手間と時間が費やされることに。4版で構成される柄は、表と裏、2版づつのプリントの計算で実現されています。「重版の技法は刷る順番で色の出方が異なり、よく見るとその楽しさもわかっていただけると思います」

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手捺染による制作風景。会場では染めの作業を知る貴重な映像も紹介。director of photography: Daisuke Ohki, photography: Courtesy of UNPIATTO

試みの結果、表と裏が同一柄でありながらも色彩が異なり、味のあるかすれ部分も異なるなど、各面がはっきりとした表情を持つと同時に、表と裏との柄の連なりも楽しめるテキスタイルが誕生しました。両面を行き来するかのように何度も目にしたくなるデザインであり、両面がプリントされているからかでしょうか、生地の奥行きといったものをも感じます。

このように制作のどの段階においても徹底したこだわりが貫かれながら、展示スペースでテキスタイルをどう見せるのかということでは、会場デザインを建築家の芦沢啓治さんに一任している点も興味深いところ。そのことにも触れておきましょう。

「プロダクトとして空間に成立するテキスタイルを考えた瞬間にこれまでとは違う発想が広がったように、新しい人と組んでみたかったんです。Karimoku Commons Tokyo 1階のギャラリースペースで展示をしたいと考えていたので、芦沢さんに相談し、Karimoku Commons Tokyoの企画に関わるinu合同会社の藤本美紗子さんにもご一緒いただきました」

「そのときにはデザイン案を出力した紙をかついで持っていって(笑)、床に広げて見てもらいました。芦沢さんにお伝えしたのは、建築的に考えてください、ということです」

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「自由に空間にはいっていくテキスタイル」(鈴木)の醍醐味を味わえる会場デザイン。芦沢啓治さんは2021年に誕生したKarimoku Commons Tokyoの空間デザインを手がけた建築家でもある。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

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「鈴木マサルさんから伝えられたのは、『建築的に、シャープなかたちで、テキスタイルの魅力を伝えたい』ということでした」と芦沢さん。「シャープであると同時に軽やかさもあって、その双方が調和しているマサルさんのデザインの心地よさを体感できる会場にしたいと思いました」

「マサルさんのテキスタイルには、空間を変容させてしまう力強さと繊細さが共存しています。さらには両面のプリントによって、素材としての存在感と魅力にも包まれていて、触れてみたい、奥をのぞいてみたいといった感情も湧いてきます。端までプリントされて生地の際がないテキスタイルとなっていることで、空間との密接な関係が生まれることにも関心を持ちました」

「僕だけでなく、目にした人それぞれに新しい可能性を感じるはずで、そうした可能性そのものを会場デザインで伝えられないだろうか、と。テキスタイルの展示はもちろん、空間に作用するプロダクトとしてのパーティションや開き戸など建築的な展開を考えましたが、とても楽しい時間でした」

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芦沢さんのデザインで、テキスタイル両面のデザインを楽しめるパーティションや、ギャラリースペースに設けられた棚を活かした引き戸の提案も。丁寧なつくりにも注目を。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

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展示に関わるグラフィックデザインを佐々木 拓さんと金井あきさんに依頼することをはじめ、企画のさまざまな段階に関わった藤本美紗子さんは、「マサルさんの魅力は、大胆なことをシンプルにされていることであったり、変化を恐れることなく活動していること。その魅力そのものも伝えたかった」と語ってくれました。

「壁をペイントするなど、マサルさんのデザインマインドが空間に浸食していくかのように広がっていくことを試みました。展示スペースである1階を他のフロアにつなげたいと芦沢さんと話をして、テキスタイルをクッションにしたものなどを2階や3階で紹介しています」

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Karimoku Commons Tokyo2階、3階でのクッション紹介。「このクッションがとても良くて!」と鈴木さんもお気に入り。窓には鈴木デザインのカーテン「mist」(サンゲツより販売中)も。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

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7月7日にはKarimoku Commons Tokyo 3階でトークイベントも開催に。左より、鈴木マサル、藤本美紗子、芦沢啓治の3氏。進行役として川上典李子も参加。photography: Courtesy of Karimoku Commons Tokyo

テキスタイルによって空間と空間がつながれ、それぞれのフロアにちりばめられた、デザイナーの世界観。会期終盤もできるかぎり会場に滞在する予定という鈴木マサルさんは、「最高のクオリティで実現できたテキスタイルの紹介とともに、空間とテキスタイルの関係として、どこから目にしても自分自身が嬉しい展示にできました」と語ってくれました。

「建築的でシャープ。新しいテキスタイルの姿を、と考えたことを、見ていただけます」

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鈴木さん自らペイントした壁のグラフィックも、テキスタイルのデザインと響き合っている。

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鈴木さんの提案で、芦沢さんがデザインのスツールやベンチにテキスタイルの版を重ねるかのように色を配した「石巻工房 by Karimoku × Masaru Suzuki」も誕生。アートオブジェ「KARIMOKU BIRD」とともに会場にて限定販売中。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

テキスタイルの可能性を広げ続けるデザイナーの、新たな一歩。会期は明日までとなってしまいましたが、テキスタイルから生まれ、空間を満たす空気を、ぜひとも体感ください。

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日が暮れた後、通りから目にできる会場風景も美しく、奥行きのある色と柄の魅力が伝わってくる。photography: Masaaki Inoue,Bouillon

「テキスタイルの表と裏」- Looking through the overlays -
会期:開催中〜2023年7月22日(土)
会場:Karimoku Commons Tokyo(東京都港区西麻布2-22-5)
時間:12:00-18:00、入場無料
主催:UNPIATTO Inc. 
https://commons.karimoku.com/news/detail/230626/

>>鈴木マサルさんに関するコラムは以下ほか #鈴木マサル にて。
鈴木マサルのテキスタイル展、会場は色彩に満ちて!
「鈴木マサルの傘 10周年」。アルテックとのコラボも。

text: Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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