実験的なアイデアに導かれた、若き天才のダークな新境地とは?
トム・ミッシュ|シンガーソングライター
移り変わるロンドンやいまの時代の空気を、ジャズがベースの洗練されたグルーブを駆使して表現。2018年にデビューアルバム『ジオグラフィー』で、日本をはじめ世界中のリスナーの心を奪ったトム・ミッシュ。若き天才のその後の動向に熱い注目が集まる中、彼が次に提示したプロジェクトは、イギリスを拠点に活動する気鋭のドラマー、ユセフ・デイズとのコラボレーションアルバムだった。
ドラマー、ユセフとの絶妙なケミストリー。
「僕とユセフは、子どもの頃からなんとなくお互いのことを知っていたんだ。でも正式に会ったのは、2年前くらいだけどね。彼はとても実験的なアイデアにあふれていることを知っていたから、一緒のスタジオに入ることにとてもワクワクしたよ。実際にセッションしてみて、よいバイブスを感じて、どんどんやっていこうという雰囲気になった」
そして完成したアルバム『What Kinda Music』は、お互いの感性を自由にぶつけ合いながら出来上がった、エキサイティングな作品となった。
ジャイルス・ピーターソンなど多くのミュージシャンから賞賛を受けるユニット、Yussef Kamaalのメンバーでもあるユセフ・デイズとのコラボアルバム。ジャズセッションのような自由でスリリングな展開を交えながらも、トム独特の流麗な歌声やギターの音色で心地よさを与えるサウンドに仕上げている。
『What Kinda Music』(CarolineInternational)¥2,750
「このアルバムを制作するにあたり、明確なイメージや音のパレットみたいなものはなかったんだ。スタジオに入ってからしばらくは、何が起こるかわからなかった。いつまでにリリースしなくちゃいけないとか、プレッシャーもなかったから、いろいろ試すことができたよ。アルバムらしくなってきてから、ようやくテクニカルなレコーディング作業に入った。最初から計画していたのではなく、レコーディングしていくにつれて、次第にアルバムというカタチになったんだ」
トムサウンドの特色である、都会的であり官能的なボーカルやギターを堪能できるのはもちろん、アフリカなど民族音楽にも造詣の深いユセフが生み出す自然なグルーブが融合したことによって、より深みのあるサウンドに進化させた。いま世界が置かれている状況すら忘れてしまうほどの悦楽が、アルバム全体に流れている。トム自身、このコラボレーションを通じて吸収できたものも多かったようだ。
「これまでは“トム・ミッシュらしい音楽”を築くことに専念してきたけど、今回はユセフと一緒に作業できたことで違うことを試せた。この経験は、次の作品へ向けたいい足がかりになったと思う」
現在は、次のソロ作品に向けてさまざまな試行を重ねているというトム。次は、どんな悦楽を提供してくれるのだろうか。
1995年、イギリス・サウスロンドン生まれ。2018年にデビューアルバムを発表。これまでサマーソニックやグリーンルームなど、日本のフェスにも多数出演。また星野源をはじめ、多彩なミュージシャンとの共演も重ねている。
*「フィガロジャポン」2020年8月号より抜粋
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interview et texte : NAOHISA MATSUNAGA