アーティスティックな感性と抜群のかけ心地を誇るアイウエアブランド「アーレム」。デザイナーのアーレム・マナイ・プラットはジャーナリストを経て、ファッション業界でバイヤーやコンサルタントなどに従事した後、2013年に自身のブランドを立ち上げた経歴の持ち主だ。
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2022年はパリのモードファッションの名門、ガリエラ美術館とのコラボも話題となった彼女に、新作の魅力や自身のデザイン哲学、働き方について語ってもらった。
――2021年まではロサンゼルスを拠点に活躍されてきましたが、22年から活動の主軸を母国であるフランスに移されました。カルチャー、ファッション、アートにおいてどちらもクールな街ですが、拠点を移していちばん感じたことはなんでしょうか?
そもそもパンデミックの影響で、世の中の動きはとても早くなりました。ビデオ会議に抵抗は無くなったし、多くの価値基準が変わったように思います。それを踏まえても、フランスはロサンゼルスよりはるかに時間の進み方が早く感じます! ロスではいい意味で牧歌的で、ゆっくりとした時間が流れていた。フランスでは多くのコラボレーションの機会にも恵まれ、プロジェクトの進行スピードも上がりました。
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――モードファッションの殿堂とも言えるガリエラ美術館とのコラボレーションシリーズも発表されました。この企画はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
2021年、『ヴォーグ・パリ 1920-2020』という回顧展が行われていた時にガリエラ美術館を訪れたのですが、その時ガリエラ宮という建築そのものの美しさに感動しました。アーチや柱、伽藍の構造的な存在感に影響を受け、帰りのタクシーの中ですぐにフレームのラフを描き始めました。その後、たまたま知人を介してガリエラ宮の館長に出会えることになり、その時のデザインを見せたところ気に入っていただき、コラボレーションとしてプロジェクトが進みだしたのです。
――メタルの細い繊細さを持つものと、アセテートの重厚感のあるデザインを両立させている印象があります。この両極端とも思えるデザインには何か理由がありますか?
アセテートのものを手にとってみてください。軽いでしょう? 見た目は重厚感がありますが、フランスのメガネの産地であるジュラ地方の工房で、できるだけ薄く、削れる部分は削るようにして製作しています。メタルも一部、日本のチタン加工技術を活かして軽量化したコレクションもあります。それぞれの素材をイメージした時、かけ心地のよさを中心にデザインを組み立て、ディテールにこだわるのが「アーレム」のデザインの特徴です。
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――アイウエアのデザインから商品化にいたるまでの工程で、いちばん好きなことはなんですか?
毎日、見るもの全てに影響を受けています。そこから受けたインスピレーションをもとに、ノートにペンでアイデアを描いていきます。描いている途中で、自分でも驚くようなことがあったり……。直感的なこの作業がいちばん好きかもしれませんね。その後、プロトタイプを作って、カラーを決めて。物にもよりますが、大体12ヶ月ほどでアイデアを商品化していきます。
――アイウエアを選ぶ基準に、「顔に合わせて選ぶ」方法と、「服装に合わせて」選ぶ方法のふたつの基準があるかと思うのですが、どちらの方がより自分らしいアイテムを選べると思いますか?
もちろん、どちらの選び方も悪くありませんが、私としては自分の「個性」に合わせて選ぶのがより良い方法ではないかと思います。直感的に自分に似合うものを探すのもいいですし、ニュースタイルを探すつもりでチャレンジするのもアリ。色使いで遊んでみるとか、ファッションを選ぶように悩むのもいいと思います。
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――子どもを育てながら、ご自身のビジネスを手がけていらっしゃいます。家庭と仕事の両立で心がけていることはありますか?
子どもが8ヶ月の頃、ドイツに仕事で行った時に、授乳室として用意されたのが電気もないような掃除用具入れだったことがあったり……。まだまだ、社会として子育てをサポートする環境が整っていない場所は多いですよね。女性の方が、どうしても子育てに比重が偏りがちです。
でも、大事なのは“境界”を超えることではないか、と思うんです。いままでどんな勉強をしてきたか、どんな仕事をしてきたか、というのはあまり関係ない。むしろ、いまやりたいこと、やってみたいことを形にしていく方が大事だと思います。
男性がいろいろなことにチャレンジできている、ということは女性にだってそれはできるはず。夫が料理上手なこともあり、私たちは家事の分担をしながらお互いに仕事に打ち込んでいます。働きながらの子育ても、協力しながら挑戦を忘れないことが大切なんじゃないかと思います。
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