齊藤工が窪田正孝を選んだ理由、そして窪田正孝が出演した理由。

活動寫眞館スペシャル企画、齊藤工監督作『スイート・マイホーム』に迫る。今回は主人公の清沢賢二を演じた窪田正孝にフォーカス。

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斎藤工と共演も多い窪田だが、今回のタッグに関して、
「役者をやっていて多分、いちばん共演が多いんじゃないかな。プレイヤー同士で仕事をしてきたので、今回は監督とプレイヤーとして組んだ時にどんな化学反応が生まれるか楽しみでした。役者ってある程度レールが敷かれたところから作品への参加になるので、プレプロダクションを知らなくていい場合が多い。でも、今回、工さんはそこを共有してくれた」(窪田)
齊藤からは、「見たことのない顔を取りたい。特に苦しい顔、コワイ顔」と言われたという。
近年、日本映画界および演劇界で、絶大な存在感を増している俳優、窪田正孝。自身の監督作で窪田を起用した理由を齊藤は、
「映画化するという目線ではなく、ただ原作の世界に浸ろうと読んでいて、(主人公の)賢二という、爽やかでスポーツができる人物でありながら、その裏にあるアクの強さみたいなものを、いまの年齢と佇まいで持っているのは窪田正孝さんしかない、と。揺るぎなく、この人じゃないと、と感じました。(共演が多くて距離が)近いからという理由ではなく、冷静に検証してみても窪田さんだと思いました。すべての方向性が、たとえばロケハンにおいても、他のキャスティングをどうするかに関しても、窪田さんを軸に決めました。共演していても、肌感として窪田さんの素晴らしいスペックはわかっていたので、彼と一緒なら辿り着ける、と感じたので」(齊藤)

監督としての齊藤工と俳優としての斎藤工、印象は違ったかと窪田に尋ねると、
「プレイヤーの工さんを観てきましたが、個人的な思いを言えば、もっと工さんのクリエイターとしての面を観たい。あそこまで視野広く、知識を持って、プレイヤーの顔もあって、監督としてもやっていける人はあんまりいない。素晴らしい監督はたくさんいますが、工さんは役者の気持ちまでわかっている人ですし。工さんの言葉って、とても独特で重みがあるんです。図書館のように映画や映像の世界の知識も持っている。でも、そこに『スペース』がある。自分の固定概念だけで動いたりしない。他者が入ってくる場所をちゃんと持っている人。最初にジャッジはしていても、決め込んで言ってきたりしません。セリフの失敗を『リアルだ』と許容してくれもする。つらつら正しくセリフを言うのではなく、たとえば警察との場面で言葉に詰まっても、それが作品に適切と判断すれば、そのまま使ってくれる。映っている側の心を知っているからだと思います。たとえると、それぞれのアプリがあるけどガジェットそのものの容量が大きいから、いくらでも新しいアプリが入ってこられる。役者というそれぞれのアプリが機能して、工さんが創った場のなかで、自由に行き来できる、そんなイメージです。工さんの大きさをすごく感じたから、クリエイター齊藤工を観たい。工さんなら、日本の(映画やクリエイティブの)マーケットを変えてくれるかも、と思ったくらい」(窪田)

窪田が演じた主人公の清沢賢二のありようは、本作の要である。その、揺れる人物像に対してどう感じたのだろうか。
「家族の幸せが自分にとっても幸せ、という意識はあっても、男の欲に流れるというか......家族を壊してまでその欲を通したかったことなのだろうか、と思った。賢二には過去のトラウマがあって、欠落した愛で育てられた人物だからなのかな、と思いました」(窪田)

本作は「母性」が大きなテーマでもある。行き過ぎた母性の先にある恐怖を描いた本作と関わったことで、窪田の中で母性に対して考えの違いなどは生まれたのだろうか。
「女性って母親になると、それまでとはまったく違う面が出てくるんだなあ、と感じることは現実の生活でもしばしばあります。たとえば子どもが生まれた女性の友人と会ったりすると、子どもに対しての愛情表現や話す言葉とか、その子どもに接している感覚って、いままで僕が知っていた彼女と違う。お母さんにしか聞こえない声とか、子どもからのメッセージがあるのではないか、と。僕のなかでは母性とは何か、などつかみきれるものではない、定義できるものではない、宇宙的な感じがします。やっぱり人間の本質の部分で、遺伝子レベルで組み込まれていることだから。いろんな欲があるなかで、女性には母性欲ってものもあるんじゃないか、とも感じます。だから、現実を生きていくなかで、悲しみや負の連鎖があると、母性を狂わせてしまうのではないでしょうか」(窪田)

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家を媒介としたホラー・ミステリー映画『スイート・マイホーム』の撮影は「しんどかった」と言う。
「その日の撮影が終わっても、無意識に背負っていたんだな......家族のこと、娘のこと、家のこと、と感じていました。自分自身の心もかき乱されましたし、(作品が)真実に近づいていくにつれ、マインドも決して明るくはない方向にいく。それはしんどかった。工さんからお清めの塩をもらいました(笑)」(窪田)
では、齊藤は? 『スイート・マイホーム』の「気」とどう向き合ったのか。
「はい、私は個人的にお祓いにも行ったり、立場的にも、監督の置かれた状態はそのまま作品に影響する気がして、撮っている間はとても意識していました。霊感がなくてよかった......とも」(齊藤)

そんな折り、共演シーンは少なかったものの、窪塚洋介の存在に救われた部分が大きかったと話す。
「兄さん(窪塚)は、軸がしっかりした生き方をしていて、こんな人、初めてに近い出会いでした。ふだんは絶対的に太陽のような生き方をして、ぶれないで自分のマインドをもって人生をエンジョイしていると思うし、撮影じゃない時に話していても本当に楽しかった。浄化してもらうような感じです。ただ、窪塚さんが撮影に入る時、陰の方向にもっていくギアの入れ方は刺激的。ずっと会いたかった人で、工さんが繋いでくれた縁。窪塚さんがトメでいてくれるって、作品のボルテージが上がるし、拍車がかかる。それくらい大きな存在です」(窪田)

最後に、俳優・窪田正孝の優れた身体性について聞いた。本作ではインストラクター役。自身も意識してカラダ作りをしているのだろうか? 俳優として、身体性の哲学を持っているのか?
「意識しているのは、呼吸と脱力、内側への意識。ヨガとかピラティスとか、趣味でボクシングをやっているけれど、それらすべてが繋がっているんですよね。共通するのが『呼吸と意識』なんです。ヨガを準備段階でしてから瞑想に入る、そういうことかもしれません。カラダを見栄えよくするために鍛えよう、というのはないです。内側に意識を向けていくと、自然に無駄なものはそぎ落とされる。そうすると本来あるべき『ひと』のカタチになる。特にいま、そういうことを考えています。舞台をやっている時、ずっと引きの絵で観られるからこそ、頭から爪先まで、意識と脱力・意識せずに無意識で呼吸をするために、いまも訓練しています」(窪田)

心技体。現代ではあまり使われない言葉でありながら、いまこそ必要なワードだとも思う。そして、窪田正孝はそれを実践しながら生きている人だ、と、彼が発する言葉や空気から感じた。

窪田正孝/MASATAKA KUBOTA
1988 年 8 月 6 日生まれ、神奈川県出身。2006 年俳優デビュー。『ふがいない僕は空を見た』(12 年 ) でヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀助演男優賞を受賞。主演を務めた NHK テレビ小説「エール」ではエランドール賞受賞。『ある男』(22 年 ) で第 77 回毎日映画コンクール男優助演賞、第 46 回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、第 32 回日本映画批評家大賞助演男優賞を受賞。2023 年 5 月に『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』での主演など、ドラマ・映画・舞台全方位で活躍。齊藤工監督『スイート・マイホーム』(23 年)では主人公の清沢賢二を演じる。近作は、映画『春に散る』『愛にイナズマ』( ともに 23 年 )。

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『スイート・マイホーム』
●監督/齊藤工 ●出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、窪塚洋介、根岸季衣、松角洋平ほか ●2023年、日本映画 ●113分 ●配給/日活、東京テアトル ●2023年9月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国にて公開 ©2023『スイート・マイホーム』製作委員会©神津凛子/講談社

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TAKUMI SAITOH

ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi

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