スタジオに現れた窪塚洋介は、太陽をたっぷり浴びて小麦色の肌をしていた。
齊藤工が単独で監督する長編映画『スイート・マイホーム』では、真逆の役。色白の引きこもりで、主人公・清沢賢二(窪田正孝)の兄・聡を演じた。
「あんまり、いままではやってこなかったタイプの役。工はこれを俺にやってくれと思ってくれてるんだ、きちんと全うしたい、と思った。ゲゲゲの鬼太郎みたいな見かけだし、陰キャラ最前線みたいな。でも、作中ではキーマン的な存在でやりがいもありました」
窪塚が演じた聡は作品の中で登場は遅いものの、強烈な印象を残す。その見た目の不気味さとは反対に、弟・賢二から信頼を寄せられている。不気味さと温かさが共存するフシギな人物像だ。
「(撮影)現場が健やかでね~。それが工のすごさです、人となりや演出。前に出過ぎもせず、妙に出なさ過ぎることもない。柔和な現場でした、ホラー映画なのにね。でも、そういう穏やかな現場の雰囲気は出来上がった作品には決してあらわれない。工という人がなせる技だと思いました。匙加減が絶妙なんですよ」

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2022年2月、『スイート・マイホーム』撮影現場にて。

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齊藤とのやりとりでは、聡を演じるうえで心情的なことは任せてくれた、と窪塚は言う。俳優としての斎藤工と齊藤工監督について違いを感じたか、という質問に対し、
「う~~ん、あんまり、ないかな。プライベートを含めても、工は齊藤工をまっとうしている印象があります。自分の世界の中で齊藤工であることを楽しんでいるというか。決して無理をしない、背伸びをせず、かがみもせずにいる、という感じ」と表現する。
「工は役者の目線をもって演出しているから、演じているこっち側の気持ちがわかりすぎちゃうほどわかってくれちゃうだろうと思ったんで、俺が年上とか、そういうことを気にせずに演出で思うことがあればどんどん言ってくれ、と最初に伝えました。満足してないのに遠慮してほしくない、工に言われたら演るから、と。でも基本的に工は、みんなを信じているんですよ、自分で集めたメンバーを」
以前、『blank13』(2018年)で齊藤に関して、キャストの方々にインタビューした際にも、周りにリスペクトがある齊藤の資質について、みな語っていた。

「窪塚さんは自分がお願いする前に、すでに"観たことのない窪塚洋介"=聡役にギアを入れてくださっていました。『スイート・マイホーム』で、そんな窪塚洋介のニューカラーを見せて、魅せてくださったことに、いまだに興奮と感謝があふれています」と齊藤は言う。

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『スイート・マイホーム』は、本来安らぎの場であるはずの家が......というホラーだ。窪塚にとって、「家」とは、どういう意味を持つものなのか。
「人、そして家族が"家"だと思う。結婚してからというもの、誰もいない家に帰った時にすごく物悲しい、さみしいと感じます、独り暮らししていた時よりも。家が、空っぽの箱になるのか、マイホームになるのか、の違いですね」
家=家族、人。それが恐ろしいことに変わる時、いったい何が起こっていると思うか、という話において窪塚は、
「世の中に起きることのすべては表裏一体だと思う。いいことの中にも悪い要素はあり、その逆もまたしかり。幸せだってそうです。幸せであれば、幸せを失う可能性もある。そう考えると、どこまでもバランスが大切。欲なく生きていて楽しくない、欲を出しすぎれば問題や軋轢が起こる。俺たちは、いろんなことのバランスを取るゲームをしている気がして。バランスを見失うと、それが他人に害を与えることもあります」
では、窪塚にとってのバランス剤とは?
「酒かな?(笑) 仕事もそうだし、家族も仲間もゴルフも。自分の周りにあるものはバランス剤ですね。俺なりに、無意識に反射的にバランスをとろうとしてます。まじめすぎたらちょっと不真面目に、とかね」

そんな窪塚に関して、齊藤は、
「窪塚さんの佇まいの純然さと説得力は、その生き方とアジャストしているからだと思います。今回の現場でも、発酵と言う共通言語をもとに、たくさんの学びや発見や刺激をもらいました」

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窪塚、窪田正孝、齊藤の3人は揃ってカラダによいことが好きだ。撮影の後、一緒に食事をしていた時、そんな話題で盛り上がったそう。
「無農薬とか腸内環境が暮らしのキーワードで。フシギな男ども3人が集まっているな、と。工の号令で集まったわけだけど。無農薬の玄米や、地方にいる微生物や発酵の研究者、添加物の入ってないお酒のこととかを共有したんですよ」
齊藤は味噌づくり、窪田正孝はヨガなど、身体を整えることにきちんと向き合っている。窪塚は「今をよくするTV」をYouTubeで配信し、世の中にある善の取り組みを紹介している。

ポートレートを撮影する写真家、齊藤工と向き合ってどう感じたのだろう。
「工がヨウジヤマモトの"糞"と書いてあるセーターを着ていて、それが印象的だった。俺に向かって言ってんのかな (笑)」
さて、真相は......?
「糞は私の事です...(笑)」(齊藤)

窪塚洋介は、そこにいるだけで周りを照らす太陽のような存在感を放つ人だった。

窪塚洋介/YOSUKE KUBOZUKA
1979 年生まれ、神奈川県出身。『金田一少年の事件簿』(95 年)で俳優デビュー。『池袋ウエストゲートパーク』(00 年) で注目され、『GO』(01年)で第25 回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少での最優秀主演男優賞受賞。『Silence - 沈黙 -』(17年) でハリウッドデビューを果たし、BBC × Netflix London 制作連続ドラマ「Giri/Haji」(19 年) でもメインキャストを演じるなど国外でも活躍。主な出演作に、『ファーストラヴ』(21年)、『全員切腹』(21年)、『Sin Clock』(23年) など。モデル、レゲエDeeJay、執筆など多方面で活躍。『スイート・マイホーム』では主人公賢二の兄・聡を演じる。

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『スイート・マイホーム』
●監督/齊藤工●出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、窪塚洋介、根岸季衣、松角洋平ほか●2023年、日本映画●113分●配給/日活、東京テアトル●2023年9月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国にて公開 ©2023『スイート・マイホーム』製作委員会©神津凛子/講談社

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齊藤工が映像化した『スイート・マイホーム』、原作者は美しき女性作家・神津凛子。
齊藤工、『スイート・マイホーム』の旅。

TAKUMI SAITOH

ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi

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