初めて訪れたカンヌで、齊藤工が感じたこと。
「齊藤工 活動寫眞館」について 2024.08.17
映画愛の人・齊藤工が2024年5月、世界三大映画祭の中でも最も注目されるカンヌ国際映画祭を訪れた。渡仏の目的は、イベント「JAPAN Night」への参加と自身がプロデュースした2作品をマーケットに出品すること。現地で得た感慨を聞いた。
JAPAN Nightは俳優のMEGUMIがオーガナイザーとなって開催された。カンヌという世界の映画産業のマーケットで日本の作品に焦点を当てることが目的で、日本は久しぶりの開催となった。他の国々は何度も自国制作の映画の宣伝・告知の場として近年も行ってきたという。齊藤工はMEGUMIからの直接の誘いで初めてカンヌ国際映画祭を訪れた。そこで感じたものは、「映画祭としての余裕」。
「カンヌに暮らしている住民の方々が、映画祭に対してまったく舞い上がっていなく、夏の浜辺の"海の家"が立つように、当たり前に『その時期が来た』と捉えているような感じがしました。『カンヌ映画祭』という言葉やイメージが、必要以上に一人歩きしているのだな、と」(齊藤)
確かに、カンヌに対して映画への憧れを強く持っていれば、その度合いと比例して力む。
ジャーナリストなどは、長い期間カンヌ国際映画祭に通って、開催期間中に記事を頻繁に上げているかどうかなどが映画祭事務局から配布されるパスのレベルとリンクし、現地の上映鑑賞においても優先順位が決められる一因となる。
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今回、齊藤が売り込んだ自身のプロデュース作品2本とは、養護施設を舞台にしたドキュメンタリー『大きな家』(2024年冬公開予定)と、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』。海外からバイイングを目的として訪れている映画業界人からはどんな反応を得られたのだろう。
「日中のマルシェでの売り込みも手応えはありましたが、JAPAN Nightでは映像や画像を使ってのスピーチ後に興味を持って下さった方々が話しかけて来てくれて、現在交渉中の企業や個人が世界中にあり、かなり成果はあったと思っています」(齊藤)
そして、『ぼくがにんげんだったとき/When I was a human』に関しては、出演する俳優陣の中に欧米で著名な人物も。かつてトム・クルーズと恋人関係だったレベッカ・デモーネイ(1984年に日本公開された『卒業白書』にて共演)も出演している。齊藤は、レベッカ・デモーネイやダニー・トレホのモノクロポートレートももちろん撮影した。カンヌのマルシェで作品を売り込むにあたっては、
「やはり"ダニー・トレホ"は強いカードでした」と言う。
「表面で見えるキラキラした映画祭及び、裏側のマーケットが開かれるこの時期に合わせて、世界の映画産業は回っているのだ、ということを確信しました。せっかくカンヌまで訪れて遠慮していたら何も始まらない。なので、私もギアが入っていましたし、今後、日本映画の強みをもっと打ち出していかないと、邦画自体が世界から注目されない未来が来てしまう、という危惧も生まれました。今回のJAPAN Nightは、ある種、邦画のライフラインにもなるなと。これからも、絶対に続けるべきだと思います」(齊藤)
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以前にも触れたことがあるが、齊藤はコンテンツとして良質で優れた映画を創るだけで満足する映画人ではない。どのように宣伝し、観客がどのように感じてくれるのか、映画という産業に関わる人々の生活まで気にするくらいだ。
現地で、世界の映画人から日本映画への期待度をどのような部分で感じたかについては、
「ひとつひとつの作品の強度はそれぞれあると思いますが、『大島渚を待っている』という感じを受けました。黒澤明や小津安二郎、成瀬巳喜男の名前も出ましたが、最も聞いたのは"大島渚"の名前です。そして、日本映画は、国外で興行して外貨を稼ぐ、という軸や目的を持って企画していかないと、映画マーケットでも響かないと思いました。日本の出品ブースはバラバラでしたが、他の国々は一箇所に集結して作為的に自国文化を売り込んでいました」(齊藤)
映画を観て、感じ、分析することも大好きな齊藤だが、今回のカンヌ訪問では、映画祭にかかった作品もマーケットでの上映も、一切観る時間はなかったそうだ。
フレンチリヴィエラの極上のレストランなどもある映画都市カンヌだが、現地での食事については......?
「何軒か美味しいレストランにも行きましたが、売り込みがメインだったので。基本的には自分で握ったおにぎりを食べるという移動飯がメインでした。
「最後の夜に、日本チームの数人とビーチで食べたカップ焼きそばは格別でした」(齊藤)
コートダジュールの凪いだ海辺では屋外上映もある。その景色はカンヌの風物詩ともいえる。齊藤が食した焼きそば、さぞかし美味だったであろうと推測する。
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