ポーランドを民主化へと導いた街、グダニスクへ。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はポーランド・グダニスクの旅。

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バルト海に繋がる運河沿いの個性的な赤い屋根の建築物は第二次世界大戦博物館。グダニスクは戦争との関係が深い街、ドイツ軍はグダニスクのヴェステルプラッテに侵攻し第二次世界大戦が始まった。夏場はこのあたりでカヤックを漕ぐ人を多く見かける。

自由の始まりは造船所から。

vol.22 @ポーランド・グダニスク

「働く海」に親しみがある。小さな船会社で働いていた亡き父に、物心ついたころから各地の造船所によく連れて行かれた。東京で生
まれ育ったものの、旅と縁のある人生になったのはその影響が大きい。鉄錆と油とペンキが染み付いた作業着や、海に浮かんでいるは
ずの巨大な船が陸に上がっている不思議なさまは、私にとって特別な意味を持つイメージだ。

だからポーランド最大の港湾都市グダニスクでは、グダニスク造船所(旧レーニン造船所)の欧州連帯センターを真っ先に訪ねた。この欧州屈指の規模を誇る造船所で1980年にポーランド初の自主管理労組「連帯」が発足された。「連帯」は、女性クレーン技師のアンナ・ヴァレンティノヴィチが不当解雇されたことを理由にストライキを決行、それが火種となって全国で民主化への動きが高まり、最後には東西冷戦の終結に繋がるのだった。

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欧州連帯センターの入口には伝説のストライキの日9 月1 日を記念し、たくさんの花輪が手向けられていた。ストライキ時には役人たちとそれに対抗する造船所の労働者たちの両者がこのゲートに詰め寄った。時代を変えた瞬間があった場所。

当時子どもだった私も「連帯」のワレサ(ヴァウェンサ)議長(レーニン造船所の電気技師)が80年代初頭、日本のメディアで度々取り上げられていたのを記憶していて、それは私が、東側を知るきっかけだったと思う。欧州連帯センターにはポーランドの民主化への道のりを解説する大規模な展示があり、そこでワレサ議長を支持するワイダ監督がこの造船所を舞台に撮影した映画『鉄の男』の仏語版のポスターを見つけた。厳しい検閲をすり抜け、映画で真摯に市民の姿を描き続けたワイダ監督を深く尊敬する。

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アンジェイ・ワイダ監督は、グダニスクやレーニン造船所を舞台にした映画を時代を跨いで3本撮っている。『大理石の男』(1977年)、『鉄の男』(81年)、『ワレサ 連帯の男』(2013年)
『大理石の男』
監督/アンジェイ・ワイダ
1977年、ポーランド映画 161分
DVD ¥3,595
販売:KADOKAWA / 角川書店

『鉄の男』
監督/アンジェイ・ワイダ
1981年、ポーランド映画 152分

『ワレサ 連帯の男』
監督/アンジェイ・ワイダ
2013年、ポーランド映画 124分

*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋

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Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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