コペンハーゲンのカールスバーグを知って、小説家トーヴェ・ディトレウセンに触れる。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はデンマーク・コペンハーゲンの旅。

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水辺が多いコペンハーゲン。橋のある風景があちこちに見られる。散策の途中野外サウナを見つけた。都会の真ん中にして野外でのレクリエーションがたくさんあるのは羨ましい。カヌーを漕ぐ人もよく見かける。水の上から街を眺めるのもおもしろそう。

1930年代、この町に暮らした少女の気持ちをなぞる。

vol.24 @ デンマーク・コペンハーゲン

コペンハーゲンで、カールスバーグ地区に滞在した。その名のとおり、ビールで有名なカールスバーグだ。街の中心からすぐの立地に広大なビール工場があるのだが、この地域一帯が、洗練されたカフェやレストラン、醸造所だった建物をリデザインしたホテル、アパレルのアトリエ、映画文化センターなどがたち並び、開発真っ只中の地区。緑が多く、今後の進化が気になる注目エリアだ。この旅をきっかけにコペンハーゲン出身で1940年代から活躍した作家、トーヴェ・ディトレウセンの『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』を手にした。トーヴェの語り口に引き込まれ、彼女の少女から大人になるまでの時代と手触りを共有するような気持ちで読んだ。

本の中で語られているトーヴェの少女時代、30年前後に同じアパートに住んでいた友だちの父親がカールスバーグの工場で働いていたり、この辺りを当時の親友と悪巧みをしながら歩いたり......そんなくだりを読むと、いまのこの地区の様子と本の中の疑似的な体験や記憶が重なって見えておもしろい。当時のコペンハーゲンの労働者たちの暮らしぶりや、家族との関係に揺れる彼女の心の描写から、この街の人々の生き様が浮かび上がる。子どもの素直な望みから「詩人になりたい」とトーヴェが父親に告げると、女の子がなれるわけがないだろと笑われる......トーヴェが何とも悔しい思いをして、反骨精神に火をつける一幕がある。そんな時代のリアルな感覚が翻訳され、読んで共感できるのは幸いなことだ。

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カールスバーグ地区は煉瓦造りの醸造所や工場があり、目下開発が進んでいる。文化施設も多く散歩が楽しい。醸造所でビールのテイスティングもできる。
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鹿の公園「デュアヘーウン」は元々王室の狩猟の場だったところ。いまは公園として市民に開放されている。ヘラジカも間近に見られる。
『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』
トーヴェ・ディトレウセン著
枇谷玲子訳
¥4,620 みすず書房刊

*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋

取材協力: スカンジナビア航空、Visit Copenhagen

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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