ドイツのベルリンで行くべき、写真家ヘルムート・ニュートン財団。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はドイツ・ベルリンの旅。

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旅人も市民も見ていると気忙しい印象がない。これがベルリンの包容力、この街のリズムなのだろう。近隣の国からのアクセスが抜群で各地からの小旅行が気軽だ。

かつて越えられぬ壁があった自由な街で。

vol.26 @ ドイツ・ベルリン

料理人のワインあけびさんとチェコを旅していた時のこと、プラハからベルリンまで足を延ばした。長距離バスに乗って4時間半、なんという気軽さよ! 久しぶりに訪れたベルリンで、まず「ヘルムート・ニュートン財団」に向かった。20年以上前にミラノで観た『SEX AND LANDSCAPES』展で手に入れたポスターをいまも部屋に張っているほど、私は彼の写真のファンだ。ベルリン生まれのニュートンはナチスの迫害を逃れて18歳でこの街を離れたが、彼が写真を学び始めたのはベルリンだった。ニュートンが写し出す女性たちは大胆で気品ある色気が漂う半面、毒をも併せ持っている。人間の生々しさを冷静に写真にするから凄い。ファッション、ランドスケープ、ポートレート、いずれにもニュートン印が刻まれていて、どの写真も独特の匂いがある、そこが好きだ。財団内では超大型の写真作品の展示が圧巻で、作品量も大変充実していた。

東西統一から35年経つが、このベルリンの街が壁で分断されていたこと、それによって無数の人生が翻弄されたことを忘れてはいけないだろう。私の好きなミュージカル映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の主人公ハンセル(のちのヘドウィグ)も年代は異なるがニュートンのように東ベルリンからアメリカに移り住み波乱に満ちた運命をたどる。「私は新しいベルリンの壁、壊してみなよ!」と歌うヘドウィグもまた、美しく悲しく生々しいのだ。

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昔ながらの内装が居心地が良かった定食屋。奥まった席に陣取り、豚肉の煮込みを注文した。カウンターには昼間からビヤジョッキを傾ける紳士の姿が。
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ベルリンで美術館巡りをしたかったら何日滞在しても足りないが、まずはヘルムート・ニュートン財団を目指した。雑誌記者時代の作品や妻のアリス(彼女も写真家)が捉えた彼の姿も見られる。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
監督・脚本/ジョン・キャメロン・ミッチェル 2001年、アメリカ映画  92分 Amazon Prime Videoにて配信中

『Sleepless Nights』
ヘルムート・ニュートン作 リブロポート刊 絶版

*「フィガロジャポン」2025年4月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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