リトアニアのプルンゲヘ、越冬祭ウジュガヴェネスを撮りたくて。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニア・プルンゲの旅。

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仮装をして歌いながら家々を何軒も巡る。体力勝負のお勤めだがそれを楽しむ大人たちの姿を見ているとこちらも元気になる。

歌って踊って食べて火を囲む祭り。

vol.28 @ リトアニア・プルンゲ

越冬祭ウジュガヴェネスを撮りたくて、祭りのタイミングにあわせてリトアニア北西部、ジェマイティヤ地方のプルンゲを訪れた。獣を模した面をつけて家々を回るスタイルが、日本の節分やナマハゲにも似ていて興味惹かれたのだ。毎年イースターから数えて7週間前の火曜日におこなわれるウジュガヴェネス。夏にプルンゲを訪れた時、地元の人たちから「ウジュガヴェネスを見たいならここに来なくちゃね!」と何度も言われていた。ジェマイティヤ地方はリトアニアの中でも、独自の文化や言語が残っていて、人々の地元愛が殊更に強い。そんな地域だけに祭りにかける人々の熱量もかなりのものだ。欧州内でキリスト教が広まる中、土着の自然崇拝の信仰がいちばん最後まで残ったのがジェマイティヤ地方で、ウジュガヴェネスもその精神を折々に垣間見る祭りだ。獣や魔女の仮装をした一団が歌い踊りながら家々を巡り、パンケーキや肉料理、酒などのご馳走をねだる。家人が一団にそれを振る舞うと、彼らは決まり文句の「冬よ、冬よ、ここから出ていっておくれ!」と声を揃える。仮装した一団に朝から夕方まで同行して、このおもしろい大人たちの活躍ぶりを撮影した時間は何とも楽しく、田園風景や家々の様子も相まって、まるで民話の世界に入り込んだようだった。祭りのクライマックスは、冬の化身であるモーレの大きな人形を焚き上げ、春を受け入れる準備が整う。春よ春よ、どうぞこちらにいらしてください。

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地元の人に「今日は最低でも11回はパンケーキを食べるのよ、そうすれば健康に冬を越えられるの」と言われ、本当にそんなことができるのだろうかと半信半疑だったが、どの家の料理も賑やかで美味しくて、私は結果15回、20枚以上は食べてしまった。
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祭りの最後に冬の化身モーレを焚き上げて冬を追い出す。皆でその火を囲む風習に自然崇拝の名残が。リトアニアを代表する画家で音楽家のチュルリョーニスの作品それぞれにこの国の人々の自然崇拝との絆を強く感じる。
『チュルリョーニスの時代』
ヴィータウタス・ランズベルギス著 佐藤泰一訳
ヤングトゥリープレス刊
¥4,400

*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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