リトアニアのプルンゲヘ、越冬祭ウジュガヴェネスを撮りたくて。
在本彌生の、眼に翼。 2025.08.28
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニア・プルンゲの旅。

歌って踊って食べて火を囲む祭り。
vol.28 @ リトアニア・プルンゲ
越冬祭ウジュガヴェネスを撮りたくて、祭りのタイミングにあわせてリトアニア北西部、ジェマイティヤ地方のプルンゲを訪れた。獣を模した面をつけて家々を回るスタイルが、日本の節分やナマハゲにも似ていて興味惹かれたのだ。毎年イースターから数えて7週間前の火曜日におこなわれるウジュガヴェネス。夏にプルンゲを訪れた時、地元の人たちから「ウジュガヴェネスを見たいならここに来なくちゃね!」と何度も言われていた。ジェマイティヤ地方はリトアニアの中でも、独自の文化や言語が残っていて、人々の地元愛が殊更に強い。そんな地域だけに祭りにかける人々の熱量もかなりのものだ。欧州内でキリスト教が広まる中、土着の自然崇拝の信仰がいちばん最後まで残ったのがジェマイティヤ地方で、ウジュガヴェネスもその精神を折々に垣間見る祭りだ。獣や魔女の仮装をした一団が歌い踊りながら家々を巡り、パンケーキや肉料理、酒などのご馳走をねだる。家人が一団にそれを振る舞うと、彼らは決まり文句の「冬よ、冬よ、ここから出ていっておくれ!」と声を揃える。仮装した一団に朝から夕方まで同行して、このおもしろい大人たちの活躍ぶりを撮影した時間は何とも楽しく、田園風景や家々の様子も相まって、まるで民話の世界に入り込んだようだった。祭りのクライマックスは、冬の化身であるモーレの大きな人形を焚き上げ、春を受け入れる準備が整う。春よ春よ、どうぞこちらにいらしてください。


『チュルリョーニスの時代』
ヴィータウタス・ランズベルギス著 佐藤泰一訳
ヤングトゥリープレス刊
¥4,400
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*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋
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