何が本当で何が嘘? フェイクカルチャーが横行するSNSの現状とは。

Society & Business 2024.03.29

フェイクというものがこれほど世の中に浸透した時代はないかもしれない。SNSとAIの発達により、まやかしが人々を惹きつけ、弱者を不安に陥れる。何がフェイクで何がリアルなのだろう。

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SNSの普及とともに、フェイクカルチャーは現代社会に定着しつつある。photography : Getty Images

死んだとみんなに思わせ、自分の葬儀にヘリコプターで登場して参列者をあっと言わせる。これを2023年に実際やってのけたのがベルギー人ティックトッカーの通称ラグナール・ル・フーだ。彼には17万人のフォロワーがいる。「人生の教訓をみんなに与えたかった。人を愛するなら生きている間にしないと」と本人は悪びれない。壮大な悪ふざけだが、元米国共和党下院議員のジョージ・サントスなら大喜びしそうだ。彼はコンピューター詐欺、マネーロンダリング、下院に提出した書類への虚偽記載で起訴されて除名処分となり、失職した。全世界に報道されたこの事件、本人の経歴が全くのでっち上げだったのがわかったのは2022年のことだった。彼が語っていた経歴は以下の通り。曰く、自分はユダヤ人で祖父母はホロコースト難民だった。ニューヨーク大学を卒業し、金融界に入ってゴールドマン・サックスで働いていた。13件の不動産物件を所有しており、同性愛者で既婚である。ところが実際は独身のカトリック信者、学歴もすべて嘘で、ゴールドマン・サックスで働いたこともなく、不動産も所有していなかった。つまりすべて嘘だったのだ! 

オーストラリア女性のベル・ギブソンも同類だ。ウェルネスに特化したインフルエンサーだった彼女は脳腫瘍を患っていると語った。そして健康的な食事とアーユルヴェーダ医学のおかげで体調が良くなった、その秘訣は自分のアプリや料理本を読めばわかると売りこんだ。ところがしばらくして、彼女は前言撤回し、ガンが血液や臓器のなかで進行していると告げてファンを悲嘆にくれさせた。2015年になり、雑誌の追及を受けた彼女は仮面を脱ぎ捨て、すべてが作り話だったことを認めた。病気だったことは一度もなかったのだ......。同様のつ作り話で2023年、19歳のアメリカ人ティックトッカー、マディソン・ルッソが逮捕された。人々に自分が膵臓ガンだと思わせて寄付を募ったことが罪に問われている。懲役10年が噂されている。

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フェイクカルチャー

今やフェイクニュースは言うに及ばず、AIがどんなフェイク画像も作りだす。ダウン姿のローマ法王や清掃業に従事するマクロン仏大統領、はたまたバラク・オバマ元米大統領とアンゲラ・メルケル元独首相が砂の城を作っている場面など、どんな画像でもAIならでっちあげられる。AI生成によるコラボ曲(Heart on My Sleeve、ドレイクとザ・ウィークエンドの声を使ったAI生成ラップ)がヒットする時代、詐欺師や詐欺を題材にしたストーリーも人気だ。たとえばNetflixの「TINDER詐欺師」は、女性を次々とたぶらかした詐欺師サイモンを追ったドキュメンタリーだ。同様にネットで配信されている「ドロップアウト〜シリコンバレーを騙した女」は、ユニコーン企業のセラノスを率いたエリザベス・ホームズの事件をドラマ化したもの。エリザベス・ホームズは簡単な血液検査によって迅速かつ安価に病気を発見できると喧伝し、詐欺罪に問われた。彼女の話は嘘っぱちばかりだった。あるいはイギリスのテレビ局ITVXの「Deep Fake Neighbour Wars」という、お世辞にも上品とは言い難い番組では、リアーナやビリー・アイリッシュ、イドリス・エルバといったセレブの「ディープ・フェイク」すなわちAI生成によるそっくりさんが同居して、隣人問題やゴミ問題でいがみあう。

こうしたフェイクカルチャーは子どもたちの間にも広がっているようにみえる。「中学に通う娘のクラスでは、誰かとつきあっているとか、性的暴行やガンの話とか、嘘をつく生徒が何人もいる」とマリアンヌという母親は語った。しかしながら児童青年精神医のマリー・ローズ・モロー教授によれば、これは昔から子どもに見られる現象で、発達に伴うものだそうだ。同教授はパリにある青少年専門の精神科センターの所長でもある。「これは子どもの自立過程でよく見られる行動です。子どもは自分の物語を作りあげたいという欲求から、友達の気を引くために泣いたり、被害者を装ったりすることがあります」とモロー教授は説明する。このような態度は、とりわけ満たされない気持ちを抱えていたり、困難な状況にあったりする子ども、必要なものが与えられてこなかったために語るべき物語を持たない子どもに見られる態度だそうだ。

養子は、何も知らない実の両親についての作り話をするかもしれない。休みにどこにも連れていってもらえない子どもは、語ることがないために同様に振る舞うかもしれない。あるいは第3のケースとして、罰や拘束から逃れるために周囲を操ろうとする子どももいる。たとえばその場を誤魔化すために祖母が亡くなったと嘘をつき、同じ嘘を繰り返すためにバレるというような行動もその一種だ。モロー教授にいわせると、第3のケースは「かなり神経症的な行動」だそうだ。事件を起こす詐欺師同様、自分のストーリーを求める若者たちが求めているものはみな同じなのかもしれない。つまり、自分の葬儀をでっちあげたラグナール・ル・フーのように「大きなスリル」、他人の注目を集めることで得られる快感だ。

「子どもや青少年があからさまな嘘をつくからといって、それは彼らだけの問題なのだろうか」と疑問を呈するのは精神分析学者のローラン・ゴリだ。『La Fabrique des imposteurs(原題訳:詐欺師の作り方)』や『La Fabrique de nos servitudes(原題訳:隷属状態の作り方)』(いずれもLes Liens qui libèrent刊)等の著者でもあるローラン・ゴリは、詐欺師(=インポスター(imposteur)=ラテン語のimponere「押しつける」に由来する言葉)が小説や映画、テレビドラマで人気なのは、今の世の中や人々の価値観がそこに反映されているからではないかと言う。「(フランスの思想家の)ギー・ドゥボールならば『消費とスペクタクルの社会』とでも言っただろうか。それは真実よりも見せかけや声の大きさ、話題性、派手な立ち振る舞いが重要視される社会だ。現代社会では詐欺や欺瞞、嘘が蔓延しているというのは言い過ぎだが、見せかけの正直さだけで十分うまく立ち回れる場合がある。しかも今日、権力者であるかどうかは所有する財産よりも、銀行や団体、一般大衆から信用されるかどうかによって測られる」

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映画化

実話に基づくNetflixドラマ「令嬢アンナの真実」は、貧しいロシア女性のアンナ・ソロキンが裕福なドイツ人令嬢になりすまし、ニューヨークの上流社会の芸術愛好家たちからお金を巻きあげるという、これまた詐欺の話だ。壮大な詐欺を働いた女性なら、2010年代に事件になったイギリス人女性のジーンとメーガン・バリの母娘もいる。母は娘が脳腫瘍を患っていると言い、ふたりで小児ガンの子どもたちを支援するチャリティ団体を立ちあげた。イギリス王室や当時のキャメロン英首相、ボーイズバンド「ワン・ダイレクション」まで巻き込んで、天文学的な額をSNS経由で集めることに成功、ところがふたりは5つ星ホテルやプライベートジェットですべてを浪費した。2018年にメーガンが23歳で亡くなったとき、母親の言いなりだった娘は脂肪肝とオピオイド中毒のせいで亡くなったのであって、ガンではなかったことが判明した。

『Imposteurs. Tromper son monde, se tromper soi-même(原題訳:詐欺師たち、世界と自分をだます)』(Seuil刊)の著作がある精神分析学者のパトリック・アヴランは、リベラシオン紙の取材に対し、「禁止領域に足を踏み入れ、境界を壊していく詐欺師たちはすごい」と素直な感想を述べている。それにしても詐欺師とは何者なのだろうか? 精神分析学者のローラン・ゴリに言わせれば、彼らは「カメレオンかスポンジのような存在」なのだそうだ。「順応主義者、普通の人間のシャムの兄弟的な存在でもある。環境に適応しようとし、特定の時代、特定の社会の価値観に順応する存在だ。詐欺師の場合、ふりをするのがうまい。順応しているふりをするのだ」とローラン・ゴリは言う。どの時代にも詐欺師はいた。17世紀のフランスの劇作家、モリエールは、宗教を利用して人々を欺こうとする詐欺師「タルチュフ」を描いた。デジタルの時代となった今日、詐欺師が増加したように思える。「人々のタガが外れたのかもしれない。パソコンの中に隠れて、いわゆる"デジタルの亡霊"が作り出せるようになった。それは偽りの人格であり、人工的な自我のようなものだ」と精神分析学者のローラン・ゴリは指摘する。インスタグラムでフォロワーをあっと言わせるような投稿をしようと張り切っている我々は、すでに周囲を操ろうとするミニ詐欺師の領域に足を踏み入んでいるのではないだろうか。

アメリカのミレニアル世代の間で、「fake rich(エセ金持ち)」という新しいトレンドが生まれつつある。身の丈をはるかに超えた生活を送り、高価な車や夢のような旅の写真をインスタグラムやTikTokに投稿することで、いかにも金持ちであるかのような印象を与える若者たちだ。SNS上で自分には手の届かない贅沢をひけらかす動画に常にさらされ、仕事や社会でプレッシャーを受け続けている20歳から35歳の世代。そんな彼らの非現実的な憧れを密かに物語るようなトレンドだ。30歳までにロレックスを持っていなければ、人生の失敗者だと短絡的に彼らは考える。だからそうじゃないことを証明するために買わなくてはと思う。たとえその後、10年間の借金を背負っても。精神分析学者のローラン・ゴリの説明を聞こう。「パフォーマンス社会に生きる我々は、素早く強烈で有効な一撃を与える必要に迫られている。真実の探求にはたくさんの時間、検証、実験が必要だ。一方、不正行為やごまかしは、即席の数字や結果に重点を置く態度だ」

時には競争率の高い職業に就きたいがためにごまかすこともある。将来の雇い主を納得させるために自信たっぷりに盛った履歴書がその証拠。人によっては大学入学するときから自分をよく見せようとする者もいる。あるいは科学ジャーナル風の刊行物に研究発表する科学者たち。精神分析学者のローラン・ゴリ曰く、「2018年の「ル・モンド」紙の記事ではすでに、こうしたエセ科学ジャーナルに虚偽の研究結果が掲載されていることを警告している。こうした欺瞞が研究界の慣習に由来することをこの記事は示していた。すなわち、発表しなければ朽ちるしかない」

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自己愛的欠陥

スピード感と現在主義に取りつかれて、見かけだけで判断することに終始しがちな今日の資本主義社会は、私たちをどこへ導くのだろうか? 「待ち受けるのは極度の孤独、そして自滅だ。高度に規格化された現代社会は、なんらかの規範へ適応するよう私たちに強制してくるが、それは逆説的に、社会的なつながりをもたらさない」と精神分析学者のローラン・ゴリは警鐘を鳴らす。有名な詐欺師たちの心理状態は反面教師だ。精神分析学者のパトリック・アヴランによれば、「詐欺師には自己愛的欠陥がある。彼らは自尊心が低いが故に、なりたい自分になるための物語をでっちあげる。詐欺によって自己満足するのだ。そして詐欺の才能を発揮して別な自分を作りあげるには、本当の自分を消さなくてはならない」そうだ。精神分析学者のローラン・ゴリも同意見だ。「精神分析医の目からこうした人たちは、何も症状がなく、完全に正常に見えるのに、どこかがおかしい患者に映る」と言う。ニセモノとホンモノを区別し、空虚な存在の上に自分の人格を構築するのを避けるために、自分を偽ることをやめよう。まずはSNSから自分らしくない完璧な家族や理想的なヴァカンスの写真を削除してはどうだろう。たとえあなたの800人のフォロワーがこれまでなにも気づかなかったとしても!

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憧れのアンチヒーロー

嘘つきには魅力がある。そして、たとえ彼らのでっちあげが(ほとんど)常に現実に打ち砕かれることになったとしても、熟練の詐欺師たちが手の内を全て明かすことはめったにない。だからこそ、彼らは映画製作者や作家、ポッドキャストの作者たちを魅了するのだ。

【映画】

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、2002年、スティーブン・スピルバーグ監督。レオナルド・ディカプリオ扮する主人公、フランク・W・アバグネイル・Jrは航空会社のパイロット、医者、あるいは弁護士のふりをして偽造小切手を発行する天才詐欺師。実在の人物に基づいた作品だ。

『シック・オブ・マイセルフ』、2022年、クリストファー・ボルグリ監督。迷える若い女性シグネが、注目を集めるために自分が珍しい病気にかかっていると信じ込ませるブラックコメディ。

『L'Emploi du temps(英題Time Outタイム・アウト)』ローラン・カンテ監督、オーレリアン・ルコイン主演の作品。これと『見えない嘘』、2002年、ニコール・ガルシア監督作品は、同じエマニュエル・カリエールの小説『L'Adversaire』(P.O.L.刊)を映画化したもので、偽医師として暮らしてきたジャン=クロード・ロマンが正体を暴かれる寸前に妻、子供、両親を殺害する物語だ。

『ニュースの天才』、2003年、ビリー・レイ監督、ヘイデン・クリステンセン主演。記事の半分を自作自演した実在のジャーナリスト、スティーブン・グラスの半生に基づく作品。

『ビッグ・アイズ』、2014年、ティム・バートン監督、エイミー・アダムス主演。1960年代に世間を欺いた売れっ子画家ウォルター・キーンによる壮大な作品詐欺の実話に基づいた作品。

【ポッドキャスト】

『La Mythomane du Bataclan(バタクランの嘘つき女』』(Les Jours)。アレクサンドル・カウフマンによる人気ポッドキャスト。ワーナー・ブラザース。ディスカバリーにより、ロール・カラミー主演でドラマ化される予定。

『Serial Mytho(詐欺師シリーズ)』(Louie MediaのPassages)。マチュー・パランによる4話構成のドラマ。

『Mytho(s)(詐欺師たち)』(Binge Audio)トマ・ロゼックが稀代の詐欺師たちを語る。人々にとほうもない夢を売り、時に身の破滅を招いた詐欺師たちの運命を語った4話構成のシリーズ。

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text : Justine Foscari (madame.lefigaro.fr)

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