人とすぐ繋がれる時代なのに、殻に閉じこもるZ世代。彼らが「孤独」を好む理由は?

Society & Business 2024.08.15

人とすぐに繋がることができる時代となったのに、自分の殻に閉じこもるZ世代の若者が増えている。Z世代とはどんな世代なのだろうか?

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もめごとや気まずい状況を避けて、自分の殻に閉じこもる若者が増えている。photography : undrey / Getty Images

「#protectyourpeace」というハッシュタグを見たことはあるだろうか。「心の平和を守ろう」という意味だ。

「自分の心の平和を守ることは、無言で相手を無視してバツの悪い思いをさせることでも、人を避けることでもない。それは孤独の空間で、自分がなにを必要としているかを悟り、自分を取り戻すためのもの。そこでは他人に言い訳する必要もない」と26歳のケイシー・モリナ(TikTok@caseyishealing)は語る。

彼女に限らず、このハッシュタグを使う人は多い。TikTokだけでも2億7000万回以上のビューがある。心の平和を守ることはZ世代、すなわち20代から30代の若い世代にとっていまやひとつの使命のようになっている。

あえてひとりでいることにZ世代は憧れ、共感する。ひとりの時間こそが安全でくつろげる場に感じるからだ。ジャーナリストであり、『Jeunes et Stylés(原題訳:若くてスタイリッシュ)』の著作もある26歳のオーギュスタン・ブグロは、動画投稿を通じてそのことを感じている。

「ひとりで映画館などへ出かける動画を公開すると、すぐに若い子たちから共感のメッセージがくる。カップルというものが重視されるこの社会で、僕の撮る世界に彼らは惹かれるようだ。
メッセージには、動画を見てほっとした、あなたのアカウントは自分たちのセーフ・スペースだ、などとある」と語った。

自分を尊重する。

セーフ・スペースや心の平和にこだわるZ世代は、上の世代と比べて孤独が好きなのだろうか? 「この世代は、ひとりで何かに打ち込むことが好きだ」と、臨床心理学者のジョアンナ・ロザンブリュムは言う。彼女は『Déconditionnez-vous!(原題訳:心理的抑圧から解放されよう!)』(Trédaniel刊)という本の著者だ。

Z世代に人気のあるインフルエンサーを見ればなんとなく傾向がわかる。たとえばローラ・パスケ(@lauratravelbook)は、花が咲きみだれる庭や水彩画、スイスの山でのハイキングなどの写真を、ジブリ映画の美しい音楽をBGMに投稿している人気インフルエンサーだ。ジャーナリストのオーギュスタン・ブグロは、彼女の人気をこんなふうに分析する。「若い子たちは彼女のことが大好き。ヒステリックな一部のSNSの真逆をいく、まるでおばあちゃんのひとり暮らしのようだからだ」

Z世代の目指すライフスタイルのキーワードは、美しい、スロー、ソロ。そして心の平和がおびやかされそうになると、外の荒波から身を守ってくれる安全な場所に潜りこむ。

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「争いを好まない世代だ。感情がとても細やかで、関係がうまくいっていないことに気付くとすぐに、自分の気分という、主観的な内的判断基準に頼る。"自分の気分はどう? 自分は大丈夫?"とね」と言うのは、『La Génération Z aux rayons X(原題訳:X線にかけたZ世代)』(Éditions du Cerf刊)の著者である人類学者のエリザベス・スーリエだ。答えがノーなら、そしてその関係が自分に有害に思えたら、とっとと逃げ出す。相手が恋人であれ、友人であれ、会社であれ。

「母は25年間も仕事に耐えてきたと言う。耐えなきゃいけない職場にずっと留まるなんて、自分には考えられない。同世代には、いい学校を出たのに上司との関係がわずらわしい、上下関係のいざこざにまきこまれたくないと、生きていくための最低限の仕事しかしない人が結構いる」とジャーナリストのオーギュスタン・ブグロはZ世代らしい気持ちを素直に語った。

会社が合わないと感じたら辞めるのも早い。「自分がないがしろにされていて、誰にも守ってもらえないと感じたら、辞める選択をするかもしれない。この世代は権力志向でもなく、自己主張したいのでもなく、セルフリスペクト、自分を尊重することに重きを置いている」と人類学者のエリザベス・スーリエも言う。この世代にとって重要なのはセルフケア。だからちょっともめただけですぐに関係を断ち切り、殻に閉じこもる。

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友情不況

それにしても「自分を見つめるために」ひとりでいると、本当にひとりぼっちになりかねない。そうなると人間関係があれよあれよという間に崩壊していく。自分にかまけすぎることで、自らを永久に孤立させてしまうのだ。孤独を望んだはずが孤独に苦しめられる。SNSの急速な普及が起きた時にもこうした現象が多少見られたものの、コロナ禍でこの傾向がさらに強まった。いまや米国では友達の数が減っていることを指す「友情不況」なる言葉さえある。

フランスの状況も芳しくない。フランス版いのちの電話とも言うべき、SOSアミティエによると、話し相手が誰もいない人が10人に1人いる。また、ほとんど常に孤独を感じているフランス人が22%もいる。これは2022年の数字で、2018年には13%だったことを考えるとかなり心配だ。年齢別に見ると18歳から24歳が28%で全年齢層を通じて一番高い。

「全体的に年齢問わず見られる傾向だが、青年層に関して特に心配な数字だ。この年代は本来ならば社会の規範や価値観を学び、社会性を伸ばす年頃のはずだ。ところがひとりでいることに安心感を覚え、逆に他人とつきあうことが苦手で不安でいっぱいだったりする」と『La Civilisation du cocon(原題訳:コクーン(繭)文明』(Arkhê刊)の著者であるヴァンサン・コクベールは懸念する。

自分の内面を重視する態度は友情の定義さえ変えかねない。イギリスの『デイズド』誌の記事の最近の記事によれば、良い友人とは、ポジティブなことにいつも付き合ってくれて、相手に何も求めない人のことらしい。

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存在の軽さ。

「そうであっても、友情の根底には互いに助け合う気持ちがあるはず」とヴァンサン・コクベールは思案顔だ。社会で生きていくためには時に意見を交わし、時には対立や議論を経てお互いに納得し、妥協に至るものだ。なのに少しでも対立しそうな時は逃げ出して穴の中に隠れてしまうとしたらどうなのだろう? 人間は「共に生きる」ことが必要なのに、この世代はそれができるのだろうか。

判断を下すにはまだ早い、と臨床心理学者のジョアンナ・ロザンブリュムは考えている。「この世代がきちんと向き合えるかどうかを知るには、少なくとも30年はかかるだろう」

とりあえず人類学者のエリザベス・スーリエはこの世代が二進法的発想をしている点に注目している。「デジタル技術の発達のおかげでZ世代はand演算を実践できるようになった。すなわち"私は一人でいるandほかの人ともいる"というのがいまや可能なのだ。いずれにせよ、この世代はふわふわとしていて把握が難しい。いまの世界は、複数のシステム間の絶え間ない動きで成り立っている。そこで生きるための彼らなりの新しい在り方なのだろう」

SNSを使いこなす若い世代はすぐにフォローしてはすぐにブロックする。そのことを心配すべきだろうか。人類学者のエリザベス・スーリエは、これが、人生の意味を見失わせる原因のひとつではないかと考える。一方、臨床心理学者のジョアンナ・ロザンブリュムはもっと楽観的だ。「彼らの存在の軽さは、厳しい世界で生きるために順応した結果だ。彼らの帰属意識は薄いが、その分自由なのだ」と。自由をどう享受するのも自由だ。ポストコロナ時代に、人々は個々に、ある種の快楽主義に向かう傾向にある。

「明日がどうなるかわからないからこそ、私たちは楽しみたい」とオーギュスタン・ブグロは締めくくる。そう、時に孤独が快楽になる場合もある。

(1) 2022年の「孤独の日」にあたってIfopが孤独な人への支援団体であるアストレ協会の依頼で実施した調査による。

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text : Caroline Hamelle (madame.lefigaro.fr)

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