日本に女性起業家が少ないのはなぜ? メディアプロデューサー、羽生祥子氏が解説。
Society & Business 2024.12.03
フィガロジャポンBusiness with attitude(BWA)は、フィガロジャポンが大切にする「Art de Vivre"アールドゥヴィーヴル"(暮らしの美学)」という価値観をもとに、美しく豊かに働くためのさまざまなコンテンツを創出するコミュニティ。
このBWAが今年7月に開催した「BWAピッチコンテスト」のファイナリスト発表会での基調講演の様子を紹介する。
【イベントリポート】BWA Pitch Contest 2024 より良い未来のために、思いを言葉に。
「日本に女性起業家が少ないのはなぜ? 自分らしい挑戦を続ける秘けつ」と題した基調講演では、著作家でメディアプロデューサーの羽生祥子氏とBWA事務局長の藤本淑子と対談した。
羽生氏は、「日経デュアル」や「日経クロスウーマン」を創刊し、編集長を務めた人物。長年女性の働き方や起業などを取材してきた経験から、内閣府や厚生労働省、東京都の各種検討会委員や、大阪・関西万博に出展する「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」WAのプロデューサーを務めている。今年の6月には『ダイバーシティ・女性活躍はなぜ進まない? 組織の成長を阻む性別ガチャ克服法』を日経BP社から出版した。
羽生氏と藤本が出会ったのは今年5月、中国・深圳で開催された「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ(CWI)」のセレモニー。CWIは持続可能なビジネスをとおし、社会や環境によい影響を与える世界の女性インパクト起業家を支援すべく、2006年から始まった国際的なプログラムだ。
審査員や受賞者を含め、世界中から女性起業家が集まったセレモニーの様子を羽生氏はこう振り返る。「会場にいた多くの起業家から、東京マーケットに進出したいという声をもらいました。しかし残念なことに、そこにいた日本人女性起業家はほぼゼロでした」
圧倒的に女性起業家が少ない日本。その状況に政府も着目をしており、23年6月に行われたG7で、内閣府は「女性版骨太の方針2023」を発表している。
「この方針の中で、(2025年を目処に)各企業の女性役員を1名以上選任するという点が大きく報じられましたが、実は女性起業家への育成・支援についても書かれている。経産省や政府は、起業支援事業のJ-Startupにおける女性の割合を2割に引き上げようとするなど、女性起業家を増やしていこうと力を入れている」と羽生氏。
とはいえ、なぜ女性起業家が少ないのか? やはりその根底にあるのはジェンダーギャップである。「性別ガチャは国、会社、学校、家庭などさまざまなレベルで起こっています」
ジェンダーギャップのひとつとして、羽生氏が注目をするのが男女のペイギャップ(教育投資差額)だ。成人するまでにかかる教育コストを引いた生涯年収の男女差のことを指すが、日本は他国と比べて、このギャップが著しく大きい。
正規雇用比率も20〜40代男女で大きな差があり、これについて羽生氏はこう解説する。
「自ら非正規雇用を選んでいるのであればいいのですが、性別で正規・非正規が分かれているのが日本。さらに日本の女性は、家事育児を男性の5.5倍の時間行っていて、有償労働時間も先進国でトップクラス。この差は世界と比較しても異常値。いったい日本の女性はいつ寝ているのでしょう? 働いているお母さんが珍しかったのは我々の母親世代まで。いまや75%が共働きです。国としてもこの差を埋めていこうと、最近は共働きから"共育て"という言い方に変わってきています」
さらに羽生氏が着目するのが、理系の男女比率だ。「CWIの起業家の多くが理系でした。やはり経営者としてビジネスを大きくしていく際に、理系の要素は強みになると思います。日本では"リケジョ"なんて言葉がありますが、世界では理系の男女比は半々。女性が理系が苦手というのは思い込みだと示していますよね」
---fadeinpager---
女性が自分らしく挑戦を続けるために。
一方、BWA事務局長の藤本は、日本に女性起業家が少ない理由について自身の体験からこう話す。「私は、"事務局長"と自分で言えるようになるまで3年かかった。BWA定例セミナーの受講者は頑張ってキャリアの築いている人も多いが、そんな人も『自分に自信がない』と言うことが少なくない。そんな人たちが、自分らしい挑戦をするためにも、応援し合うコミュニティが大切だと思っています」
羽生氏もそれには強く賛同する。「コミュニティは本当に大切。CWIでも、世界中に同じように頑張る女性起業家がいると知れたことで、『この先何十年と頑張れる』と言う人がいました」
さらにこれからは、起業家だけでなく、会社員も活躍できる時代だと羽生氏は指摘する。
「昭和の時代は、会社の規模や売上げなど、とにかく大きいことが良しとされる時代でした。平成は、「個人」にフォーカスされる時代だったと思います。では令和は? 直接儲からなくても、社会や地球環境に焦点を合わせられるリーダーが必要で、また、そんなリーダーを会社が求める時代になっている。いま企業に勤めている人も、ぜひ新規事業に手を挙げてみて。会社にいながらでも、事業を立ち上げるという経験をしてみてほしい」
藤本は最後にこうコメントする。「BWAは『こうあるべきにとらわれない』ということを大切にしていて、私自身、少しくらい失敗しても大丈夫だと思ってこのプロジェクトにチャレンジしています。社会へのポジティブなインパクトはこれからもっと大切になる。みんなで応援し合いながらチャレンジを続けていきたいですね」
text: Michiko Inoue