パリジェンヌのアフターファイブに学ぶ、仕事と余白の作り方。

Society & Business 2026.02.05

心身を癒やすリトリートプログラムや仕事帰りに参加できるワインの会など、働く女性向けの「クラブ活動」も昨今は様変わり。メンバーの若返りとともにプログラムも多様化し、新たな女性ネットワークを作り出している。パリジェンヌたちのアフターファイブ事情を、フランスの「マダム・フィガロ」がレポート。

▶︎【コラム】日本のクラブ活動のトレンドは?

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ファム・クラブの食事会。クリエイティブやライフスタイル分野の職業の人をターゲットに企画しているというが、キャリアチェンジに迷うさまざまな人が情報収集に集まる。女性に限定することで、話しやすい雰囲気が醸成される。©Alice Casenava


クリスタルのシャンデリアが煌めき、ベルエポック様式の金装飾が高級感を醸し出すパリの名キャバレー、ムーラン・ルージュ内のサロン。室内では50人ほどの女性たちがシャンパーニュを飲みながら名刺を交換し、熱心に交流していた。肩書はマーケティングマネージャー、起業家、アーティスト等々。彼女たちは、ファム・クラブのメンバーだ。パリでは最近、女性向けの社交クラブが次々と誕生しており、これもそのひとつ。2年前にこのクラブを立ち上げた共同創設者のひとり、38歳のルイーズ・ブリュゼ=シストゥロンは設立の動機を「女性の視点や経験を通じて各業界の実情を知りたいと思ったからです」と語る。

サマリテーヌ百貨店でのリーダーシップセミナー、マレ地区のロフトでのAIマスタークラス、フォンテーヌブロー近郊バルビゾンでの心身を癒やすリトリートプログラムなど。こうした新しい形での交流を企画する新世代女性クラブは入会審査があり、会費も必要だ。SNSならばワンクリックで遠くの人と繋がることができるのに、どうして彼女たちはリアルな出会いの場を求めているのだろうか。

新しいタイプのクラブ活動。

「コロナが終わって、理屈抜きで人と会いたいと思いました」と言うのは、クリエイターが集うザ・ソラー・クラブを2022年12月に共同創設したアリス・ジェロ(27歳)だ。このクラブでは、ビジネスピッチも慌ただしい名刺交換もない。あるのは毎月催されるドリンクパーティ、テーマディナー、街なかラン。

「資金調達の話をしながら飲むなんてまっぴらごめん」とアリスは言う。

「知的な刺激を得られるクリエイティブな場を目指しました。参加者に新しいアイデアが生まれればうれしいです」

「10年前の女性ネットワークはビジネス中心で、男性のモノマネでした。私自身、所属していたこともありますが、自分が求めているものと違いました。なので自分で立ち上げたのです」と語るのはザ・サークルの創設者、ローラ・シュウール(36歳)。同クラブは、「向上心、影響力、思いやり」という価値を大切にし、150人のメンバーに月3~4回のイベントを提供している。

「テーマはAIだったりセクシュアリティだったり。シナジーを生み出し、垣根を取り去ることを目指しています。仕事と私生活の境がますます曖昧になっていることを日々感じています。セルフケアはキャリアに好影響を与え、仕事が順調な時はプライベートにも作用します。好循環ですね」

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インスピレーションを与える場。

こうしたクラブはネット時代らしく、SNSを積極的に活用し、会員を勧誘している。けれど矛盾するようだが、その存在意義は「リアルな体験」を提供する点にある。ザ・サークルのローラは、自身のプログラムをこう評する。

「ここで得られるのは"本物の繋がり"。素敵な場所で表面的な関係にとどまらない、深い交流が可能になります。女性たちは気負うことなくやりたいことを自由に表明できるのですから」

「新しいバーやレストランの情報なら会員は私たちを必要としません。ですが、ヴェスティエール・コレクティブ(ラグジュアリーブランドを主体とした古着販売サイト)の本部見学、有名フォトスタジオのスタジオ・アルクールで映画をテーマにしたミーティングへの参加、マッキンゼー・フランスの女性CEOを講師に招いたマスタークラスの受講は、ほかの場所で得難い体験」と語るのは、ファム・クラブのルイーズ。

つまり、クラブは単なる交流の場にとどまらず、「インスピレーションを与える女性のロールモデルを可視化する」という使命を持つ。「これまでにどんな女性を登場させてきたかを考えると"すごい!"ってあらためて感嘆します。こうした出会いがモチベーションを高めてくれるのです」とルイーズ。ガラスの天井を突破して権力を手にする女性は依然として少数派であるため、こうした試みはとりわけ必要だ。

キャリアを飛躍させるための場としてもクラブは役立つ。「人脈づくり、仕事のネットワークや機会づくりに役立ちます」と言うのはザ・ソラー・クラブのアンヌ=ロール・ファウだ。ウィメン・ファーストを運営するオリヴィエ・マルティはさらに踏み込み、「多くの女性が、仕事で成果を上げれば認められるだろうと思っています。それは幻想に過ぎません。なので、クラブへの入会が重要なのです」と言い切る。ウィメン・ファーストに入るとまず教わるのが、パーソナルブランディングの重要性。

「我々のイベントに参加した後、会員の33~43%がリンクトインを活用し始めます。ウィメン・ファーストは単なる発言の場ではなく、発信力を高めるための刺激を受ける場なのです」とオリヴィエ。戦略は功を奏しているようで、何人もの会員がリンクトインでヘッドハンティングされて転職し、キャリアアップに成功しているという。

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女性起業家や起業を目指す女性、学生が繋がる場所を提供するネモウ・ラブ。リュクサンブール宮殿でのディナーなど特別なイベントを展開するほか、学生らとのワークショップを通じて、起業におけるジェンダーギャップ解消に取り組む。©Nemow Lab

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女性の"連帯"のビジネス。

いずれにせよ、大人の女性が連帯するクラブ活動は無料ではなく、それなりの値段がかかる。ファム・クラブやザ・ソラー・クラブの会費が年100ユーロ台と比較的手頃なのに比べ、ザ・サークルは1250ユーロ、ウィメン・ファーストは2000ユーロとなかなか高額だ。助け合い精神や思いやりを語りながらもクラブ運営には収益性を求めるビジネスという側面がある。しかしながら社交クラブの創設者たちは未来が明るいことを固く信じている。ザ・サークルのローラもそのひとりだ。

「以前の女性たちは仕事後、帰宅する前の18時半から急いで集まるのが通例でした。ところがいまでは朝食、ランチ、アフターワークと活動時間帯が増えました。プログラムも多様化しており、週末リトリートのようなロングプログラムや地域の広がり(ザ・サークルでは890ユーロの地域会員がある)、デジタル化によるオンライン講座もあります」

仕事の成功と幸せの両立。

こうしたプログラムは、家事に追われつつキャリアアップもしたい現代女性のニーズにマッチしている。最も希少な資源は時間であり、意義あることにも効率性が求められるいまの時代にクラブは、極度の緊張状態を強いられた女性たちが、会議と会議の合間、仕事と家庭の合間、それらの矛盾する要求の合間にひと息つくための場として機能している。もしかしたら女性たちは、従来の男性的な権力モデルから離れ、代替的な空間を創出することで新しい力のあり方を模索し始めているのかもしれない。

もっとも、ポッドキャスト・クリエイターのクララ・モレは「女性の地位向上の問題は景気の良い時には取り組まれても、少しでも業績不振になると真っ先に切り捨てられる贅沢なテーマ」だと指摘する。

さて、ムーラン・ルージュの夜会も終わりに近づいてきた。女性たちは次回の再会を約束する。仕事仲間を見つけた女性もいれば、温めていたプロジェクトを始めるエネルギーをもらった女性もいるだろう。こうした場の存在が新世代クラブの真の価値なのかもしれない。

成功と引き換えに幸せを犠牲にするなんてまっぴらだと思う世代のフラストレーションを昇華し、女性たちの野心とエネルギーに形を与えること。それこそが、これからのクラブ活動の偉大なるミッションだ。

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「好き」で繋がる日本の女性たち。

日本の働く女性たちのネットワークは企業色が根強く、フランスのように自発的なコミュニティが少ないと指摘するのは、多様な業界の働き方を支えるフリーランスPRの大橋直子。

「日本の女性は多忙で、子どもがいると夜の外出も難しかったりするので、オンライン主体のコミュニティが浸透しやすいと思います。また教育や趣味、推し活などテーマのはっきりした集まりのほうが安心して話しやすいと感じる人が多いのも特徴ではないでしょうか」

たとえば、「ながら」聞きもでき、リスナーが緩く繋がることができるラジオは、日本女性が親密さを感じやすい媒体のひとつ。特にコロナ禍から浸透し始めたポッドキャストでは、個人の気軽な発言や、リスナー間でコミュニティが育ちつつある。

「匿名で本音を語り合えるラジオやポッドキャストは、地方在住でも気軽に参加できるコミュニティの発信源だと思います」

好きなものや共通課題で繋がるコミュニティに安心や帰属意識を感じ、仕事の活力を得る人が目立つ一方、未知のコミュニティに飛び込む女性たちもいる。育休中の女性たちが未経験の業界でボランティア活動をするプロボノなどはその一例で、自らの強みやキャリアの方向性を再確認する機会となっている。

「社会で役立つ喜びは働き方や価値観の変化にも繋がります。こうした挑戦者同士の小さなネットワークからも、新たなコミュニティ文化の予兆が感じられますね」

「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」

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https://www.tbsradio.jp/ots/

コラムニストのジェーン・スーとフリーアナウンサーの堀井美香が、互助会員と呼ばれるリスナーからのお便りを読みつつ語らうTBSラジオのポッドキャスト。世間的な年齢相応の振る舞いを気にせず、本音を話せるコミュニティとしての側面も。互助会員が集結する大運動会など、リアルイベントも実施。

ママボラン

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https://www.mogcareer.com/s/volunteer/

人材サービス業に在籍していた女性ふたりが立ち上げた育休中のボランティア・マッチング・サービス。未経験の業界や職種で活動する機会を提供することで視野を広げ、次の一歩に自信を持ってもらう。カウンセリングや研修、コミュニティ参加など伴走支援も充実している。

大橋直子
フリーランスPR
パーソルHDで社名変更を含むグループブランディングを推進、広報室長を務める。2021年よりフリー。25年JSAワインエキスパート取得、コミュニティの価値を実感。

 

●1ユーロ=約183円(2026年1月現在)
*「フィガロジャポン」2026年1月号より抜粋

text: Ségolène Forgar (Madame Figaro), Mitsuko Iwai

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