散策が楽しくなる湘南ミニガイド【#06】 海辺の町灯りを目指して、居心地のいいビストロまで。

Travel 2019.07.28

こだわりの小さなビストロが点在する湘南エリア。西に行くほどに感じられる、穏やかな湘南本来の空気の中、ゆっくりと味わうフレンチは格別。どこかフランスの田舎町のような、洗練の時間がここに。

マチノアカリ|大磯

大磯海岸のすぐ側、暖かな潮風が届くのんびりとした空気。大磯高校のグラウンド裏手の閑静な住宅街の一角に、ポツンと灯りが灯っている。ここは、ブルターニュかノルマンディか。静かな海辺の町に、浮かび上がるブルーグレイの扉の向こうにはどこか物語の始まりのような空気さえ漂うポエティックな場所だ。カウンターが4席に、テーブルが2卓のみの小さな店だが、飾らずありのままの空間には、自分だけの席が用意されているかのような特別感が居心地いい。目の前にそっと出された鮮魚のマリネと冷えた白ワイン、そのマリアージュにひと口目でハッとさせられ、この場所の虜になってしまう。

190722-001_MG_5487.jpg大磯高校の裏手、住宅街の一角に「マチノアカリ」はある。

控えめでいて温かいネーミング「マチノアカリ」がぴったりと合う、小さなビストロのオープンは4年前。元々、渋谷・桜丘町で、12年にわたり隠れ家的なフレンチを営んでいたという八十川治シェフが、常連客に惜しまれながら、渋谷エリアの再開発のために店じまい。心機一転、新しい場所を探していたところ、ワインのインポーターを通じて、大磯までやってくることになった。もともと、相模湾の食材を気に入って仕入れていたということもあり、より新鮮な材料が手に入るこの地への移転を決意。一目惚れしたという海の香りが届くこの場所で、再出発を果たしたのだ。

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左:前菜、大羽イワシのマリネ(¥972)。新鮮なイワシに丁寧な仕込みを施し、トマト、赤タマネギ、コリアンダーのコンディマン(手作り調味料)を添えた。ワインは、ブルゴーニュ産のビオワイン、アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムールのカラヴァン(グラス¥972〜)。右:メイン料理から、プーレ・オ・ヴィネーグル(¥2,160)。ブルターニュ産若鶏の赤ワインビネガー煮に、天然のアスパラ、アスペルジュ・ソヴァージュと、トロフィエ(手打ちパスタ)を添えて。

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料理に使われる魚は、約7割を小田原や大磯の地上がりの鮮魚を使用している。豊かな漁場である相模湾は、季節ごとに水揚げされる種類も豊富なのが魅力だ。肉類は、フランス産と地物を調理方法に合わせてうまく組み合わせるようにしている。近くの直売所で仕入れられる新鮮な野菜も、魚や肉の旨味を引き立ててくれるものばかり。夜のメニューはアラカルト中心で、その日の仕入れ状況に合わせてメニューが決められていく。フランス料理のベースを守りつつ、渋谷時代から研究を重ね進化を続けている八十川シェフのフレンチ。中でも丁寧に仕込まれた煮込み料理は秀逸だ。食材選びのバランスも面白く、上州産の豚バラ肉をカシスで煮込んだり、黒ソイのポワレにタケノコを合わせたり。口に運ぶことに驚きをくれる料理の数々はどれも、ワインを合わせたくなる旨味に満ちている。

190722-004_MG_5563.jpgワインを担当するのは、渋谷時代からシェフと共に働いていた女性スーシェフの五十嵐さん。自然な笑顔に癒される。シェフお任せコースは¥4,320〜。

190722-005_MG_5538.jpgイサキのロティ、香草パン粉、バイルディ仕立て(¥2,160)。オーブンで香ばしく焼かれた魚に、季節の野菜がミルフィーユ状に。

日によって変わるワインリストは、スパークリング5種、赤白各10種類ほどに厳選されたものが揃う。ビオも必ずリストに揃っていて、きりっとした爽やかな味が料理を引き立ててくれるものばかりだ。手作りのデセールにいたるまで、その居心地のよさは続いていて、厨房の奥で黙々と調理するシェフの姿勢、グラスを磨くスーシェフの姿を横目に、目の前の美食とワインのマリアージュを静かに味わうことができる。かつての常連も、東京からわざわざやってくるのも納得だ。特別に用意された小さな空間で、大磯の海のように大らかで穏やかな八十川シェフのフレンチ。その隠された情熱の味を、ぜひ味わって欲しい。

190722-006_MG_5495.jpgディナーがおすすめだが、¥1,404〜という驚きの価格ながら、八十川シェフの手の込んだ味を手頃に味わえるランチも人気。

Machinoakari
神奈川県中郡大磯町東町2-8-15
tel : 0463-67-1751
営)11時30分〜14時L.O.、17時30分〜21時30分L.O.
休)木
https://machinoakari.amebaownd.com/

 

※2019年7月取材時の税込み価格を表記しています。

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photos : MAYUKO EBINA, réalisation : MIKI SUKA

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