知っておきたい泌尿器科の話 vol.4 40代以上の4割!? 女性に多い尿もれの実態とは。

Beauty 2023.07.20

フェムケアが普及して、婦人科関連の情報は増えてきたけれど、まだあまり語られていないのが尿をつくりだす「泌尿器」の話。身近でありながら知られざる疾患やお悩みを、泌尿器科の専門医・乾将吾先生がわかりやすくお伝えします。第4回で取り上げるのは「尿もれ」。女性の罹患率が高い理由と、その対処の仕方について聞きました。


人知れず悩んでいない? 尿もれの4つのタイプ。

こんにちは。「いぬいクリニック」院長の乾将吾です。今回は、年齢を重ねるとともに気になってきやすい尿もれについてお話しします。

本人の意図に反して尿が出てしまうこの症状は、医学的には“尿失禁”と呼ばれ、性別や年齢に関わらず起こる可能性が。中でも中年以上の女性に多いとされ、日本人女性における40歳以上の罹患率は、なんと4割以上とも言われているんです。

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photo: shutterstock

尿もれは、主に4つのタイプに分類されます。
まずは咳やくしゃみ、重い荷物を持つといった動作で、お腹に力が加わった時に起こる“腹圧性”。これは骨盤底筋群という骨盤の底にある筋肉が緩むことで腹圧がかかりにくくなったり、閉経などが原因で膀胱の出口の締まりが悪くなることで起こります。排便時に強くいきんだり、あるいは走ったりジャンプをしたりといった日常の動きがトリガーになることもあります。
次に、急な尿意を催してお手洗いへ行こうとしている間にもれてしまう“切迫性”です。これは膀胱の神経が過敏になり、尿が十分にたまっていないうちに本人の意思と関係なく勝手に膀胱が収縮してしまう「過活動膀胱」による尿もれのことで、頻尿を伴う場合が多いですね。
排尿機能がうまく働かず、残尿が多すぎて尿があふれてしまうのが“溢流(いつりゅう)性”。前立腺肥大症、高度の骨盤臓器脱などの泌尿器科疾患のほか、風邪薬などの副作用、糖尿病に代表される全身疾患の二次症状として起こる場合があります。
最後に“機能性”がありますが、これは排尿の力そのものには問題ありません。歩行障害や認知症などでうまく身体を動かせずにもれてしまうというパターンなので、この場合は周囲の環境を改善することで再発を防ぎます。

この4つの原因のうち患者さんが多いのは、はじめに挙げた2つの“腹圧性”と“切迫性”です。尿道が短い身体の構造上、女性のほうが尿もれが起こりやすく、患者さんの約半数が“腹圧性”と診断されています。次に多いのが“腹圧性”と“切迫性”の併発パターンである“混合性”。3番目が“切迫性”のみのケースですね。

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太っていると、尿もれしやすい!

“腹圧性”の尿失禁の主な原因となるのが、骨盤底筋のゆるみ。骨盤の最下部にあり、子宮や膀胱、腸といった臓器を下から支えている筋肉です。女性は加齢や出産──特に自然分娩を機に、ここがゆるみやすくなってしまいがち。さらに、慢性的な便秘、肥満も原因となる可能性が。上にのる重量が多ければ多いほど、骨盤底筋への負担が大きくなってしまうというわけです。

これらはもちろん男性にも可能性があるのですが、尿道の途中に前立腺があるという身体の構造上、そもそも男性には尿もれが起きにくいんです。その関係から、男性患者さんの場合、割合上は溢流性や機能性が多いという結果になっていますね。
 

尿もれから発覚する病気はある?

尿もれが深刻化して別の病気を引き起こすことはあまりないですが、何かのサインとなることはあります。たとえば以前にもお話しした膀胱炎の一症状として現れることがありますし、前立腺肥大症などの前立腺関連の病気や糖尿病が尿もれを伴うことも。また女性に多いのが「骨盤臓器脱」。骨盤底筋がゆるむことで、子宮や膀胱、腸などの内臓の足場としての役割を果たせず、臓器がずれて下がってきてしまうんですね。重症になると膀胱が圧迫された形のままになり、排尿しにくくなったり残尿が発生したり、こすれて出血したりといった事態を招いてしまうこともあります。

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photo: shutterstock

尿もれ自体の重症度は、量によって見極めます。たっぷり500cc程度の水を飲んで尿もれパッドをつけ、歩いたりイスに座ったりと30分〜1時間ほど適度に行動。その前後のパッドの重さを測ることで、量を算出できるんです。こちらは尿もれパッドのメーカーのウェブサイトなどにも詳しい方法が記載されているので、興味があればチェックを。

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継続的に鍛えておきたい、骨盤底筋。

さて、いままでの話の内容からも、尿もれという症状に骨盤底筋が大きく関連することはおわかりいただけたかと思います。骨盤底筋とは?と想像しづらい方は、“排尿途中で尿を止めるときに使う筋肉”とお伝えすれば、身体のどのあたりにあるか理解しやすいのではないでしょうか。ここをコツコツ鍛えることで、“腹圧性”の尿もれや骨盤臓器脱の症状改善に役立てられるので、ぜひやり方をマスターしてみてください。

まずは深呼吸し、そこから骨盤底筋を5秒締めて、その後リラックス。これを5回1セットと数え、何度か繰り返すだけで立派なトレーニングになります。ポイントは、お尻の筋肉ではなく排尿を止める時の筋肉だと意識すること。しっかり認識しながら動かすことで、通常の筋トレ同様に効果がアップします。慣れてくれば電車に乗っているタイミングなど、気づいた時にいつでも行えるようになりますよ。回数や強度に決まりはないので、取り入れるのに苦にならない程度で大丈夫。効いているかどうかがわかりづらいうえ、即効性がないのが玉に瑕なのですが、3カ月から半年ほど根気よく続けると尿もれの症状が落ちつくことが多いです。

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photo: shutterstock

尿もれの改善に結びつくエクササイズをほかに挙げるとすれば、ウォーキングやジョギングなど、通常の健康的な生活に結びつく運動となりますね。筋トレで力みすぎるのはあまりよくない気がしますし、逆立ちは全身のバランスや筋力の向上には繋がるものの、一日数分ほどでは骨盤底筋の負担を軽減するまでに至らないと思います。

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尿もれがひどくなったときの治療法は?

“腹圧性”の尿もれの治療は、骨盤底筋の緩みが原因であればまずダイエットと骨盤底筋のエクササイズ、そして便秘などの原因を少しでも減らすための行動療法により試みます。経口摂取する薬などは特にないんですよ。もしダイエットやエクササイズでも補えないほど重度の場合は、ゆるんだ尿道をテープで固定し支える手術に踏みきるという手も。これにより、排尿を我慢しようとする力が伝わりやすくなるんです。

同じく生活習慣の見直しやエクササイズで改善しないほど骨盤臓器脱が重度である場合も、手術をするケースが。これは骨盤底筋と臓器の間にハンモックのような要領でメッシュを入れ、固定するもの。こうした手術は専門性が高いため、泌尿器科の中では「女性泌尿器」という分野の専門医師が執刀を行うことが多いです。

そのほか、“切迫性”であれば過活動膀胱に対処するための薬を処方しますし、“溢流性”であれば排尿機能を妨げる原因となる疾患を治療します。“機能性”の尿もれには、生活や介護サービスの見直しが必要になりますね。

先にも述べたように、尿もれは多くの人が抱える泌尿器系のお悩み。ですが、特に女性においては罹患率と比べて受診される割合がまだまだ少なく、“困っているけれど受診できていない”潜在的な患者さんの数が多いと言われています。先日お話しをした頻尿に関しては“本人が困っているかどうか”が受診の決め手になるとお伝えしましたが、尿もれに関してはタイプがいくつかあり、必ずしも“腹圧性”のものともかぎらないので、ぜひ一度は医師に相談してみていただきたいです。

次回は、まだあまり知られていない「男性更年期」の実態についてお話しします。

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乾将吾|Shogo Inui
いぬいクリニック院長、日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医

2009年、京都府立医科大学卒。卒業後、同泌尿器科に入局。府立医大病院のほか京都市内の複数の病院で勤務後、在宅医療にも従事し、より広範な医療現場を経験する。2022年「いぬいクリニック」を京都の烏丸御池・二条城エリアに開院。クリニックを診療の場としてだけでなく、人々が集うコミュニティへと発展させるべく、フラットスペース「いぬいのいこい」をクリニック2階に設けワークショップなどを開催。「医療と衣料」をかかげ、インスタグラム(@inoui___)で日々のコーディネートも公開中。

いぬいクリニック
www.inucli.com


【連載】知っておきたい泌尿器科の話
第1回:毎日の尿が教えてくれる、身体の不調とは?
第2回:女性は特に注意! 夏場の膀胱炎、予防のポイントは?
第3回:頻尿のお悩み、もしかして心の状態が原因かも?

text: Misaki Yamashita

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