知っておきたい泌尿器科の話 vol.5 ヴェールに包まれた「男性更年期障害」の真実とは?

Beauty 2023.08.03

フェムケアが普及して、婦人科関連の情報は増えてきたけれど、まだあまり語られていないのが尿をつくりだす「泌尿器」の話。身近でありながら知られざる疾患やお悩みを、泌尿器科の専門医・乾将吾先生がわかりやすくお伝えします。連載第5回で取り上げるのは、まだ認知度の低い男性の更年期障害について。心身に起こる変化や現れやすい症状など、家族やパートナーのためにも知っておきたいあれこれを教えていただきました。


男性にも、更年期は訪れる!

こんにちは。「いぬいクリニック」院長の乾将吾です。泌尿器科で扱う病気や治療法について気軽に知っていただくためのこちらの連載ですが、今回はまだあまり認知されていない、男性の更年期障害についてレクチャーしていきたいと思います。

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photo: shutterstock

みなさんは、“更年期は女性にだけ訪れるもの”と思いこんでしまっていませんか? 実は医療の世界でもまだ新しい概念ではあるのですが、男性にも更年期が存在することが近年提唱され、注目を集めています。

一般には、年齢とともにホルモンバランスへ変化が訪れることにより不調をきたす状態が「更年期障害」として知られていますよね。男性の場合、男性ホルモンであるテストステロンの量が低下することにより、心身にさまざまな症状が現れる可能性が。主に加齢あるいはストレスに伴うテストステロンの低下による体調の変化を、「加齢男性性腺機能低下症候群」、略して「LOH(ロー)症候群」と呼んでいます。女性の場合は生理周期の変化や閉経などがサインとなるものの、男性にはご存じのとおりそれらにあたるものがありません。そのため、LOH症候群の直接的な原因として考えられるのは“加齢”や“ストレス”のみなんです。

実はこちらの“男性更年期”、女性の「menopause」に対し、男性の性腺機能が低下する「andropause」が起こり得ると世界的に関心が持たれはじめたのが、たった25年ほど前。日本では日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会により、2007年に初めてLOH症候群の診療ガイドラインが作成され、それから15年が経った昨年に初めての改訂が行われました。つまり、昨今注目されはじめてはいるものの、まだまだ歴史の浅い分野。しかし、潜在的には中高年男性の1割が更年期障害――LOH症候群に苦しんでいるとも言われており、適切な対処のためにも、より認知度を高めていくことが求められています。

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男性更年期には、どんな不調がある?

テストステロンの量は20〜30代をピークにゆるやかに下がっていき、早い人で40代頃からLOH症候群と診断された例も。メイン層としては、ミドル世代の40〜60代がターゲットとされます。

症状は多岐にわたりますが、主なものは3つ。ひとつ目が発汗やほてり、不眠や倦怠感といった身体症状。ふたつ目が性欲低下や勃起障害といった性機能関連の症状。そして3つ目が抑うつや不安、気分の変調や疲れやすさといった精神症状です。これらの変化は風邪などの体調不良と見分けにくいですし、通常の加齢によっても起こる可能性が十分にあるので、自分がLOH症候群なのだと気付いていない人はたくさんいるのではないでしょうか。

またテストステロンが低下することで、肥満や糖尿病・高血圧・脂質異常症などのメタボリックシンドローム、心血管系疾患などの発症リスクが上がるとも言われています。筋力と骨密度も低下するため、特に高齢者で転倒や骨折に注意が必要となります。

男性更年期障害と診断される決め手は、テストステロンの量が低下しているかどうか。測定項目としては、加齢との関連性が低い総テストステロン値と加齢を原因に減少しやすくなる遊離テストステロン値があります。最終的な診断にはこれらの値が重要となりますが、症状と合わせて総合的に判断することで、LOH症候群を早期に発見し治療することが求められています。

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女性の更年期と比べて、どう違う?

女性の更年期障害は、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンのバランスの変化によって生じるもの。これは月の中で大きな波が訪れます。一方、男性の更年期障害を引き起こす男性ホルモンのテストステロンが変動する要因の中で、最もわかりやすいのは日内変動。それも動き方は決まっていて、朝に高くなり夕方に低くなる傾向があると言われています。いつも夜になるとどうにも気分がすぐれない……といった状態を訴える可能性もあるので、心当たりのある男性は一度泌尿器科の受診を考えてみてもよいかもしれませんね。

受診のきっかけとして多いのは、倦怠感や気分の落ち込み、不眠、抑うつなどです。これらは心療内科で診察する症状と似ていますが、もしここに性機能関連の不調が加わるようであれば、ぜひ泌尿器科を訪れることも視野に入れてみてください。LOH症候群の症状が出やすくなるかどうかは、個々の生活習慣や遺伝的要素、全般的な健康状態に大きく影響されます。精神的ストレスだけでなく、肥満、喫煙、過度のアルコール摂取などの不健康な生活習慣、心血管疾患や糖尿病などが要因と言われているんです。

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見分けるための方法は?

LOH症候群に関しては、血液検査と問診のみで診断できます。泌尿器科というと、これまでに経験したことのない特別な検査が必要なのかも……といったイメージを持たれがちですが、まったくそんなことはありませんよ。

倦怠感や性欲減退といった原因不明の不調が続くからといって内科や心療内科を訪れても、男性ホルモンの量を調べて“更年期かどうか”を診ることは決して多くはないと思います。日本には従来、男性が不調を訴えたり休息をとったりすることが受け入れられにくい風潮や歴史的な社会背景があるかもしれませんが、世の中はもっと変わっていくべき。これからは男性も、気になれば気軽に泌尿器科を受診してテストステロンの量を測り、自分の心身の状態を知ることが当たり前になっていくのではないでしょうか。そのために、もしパートナーや家族の男性が原因不明の不調に長らく困っているようなことがあれば、泌尿器科の受診を考えるよう勧めてみていただきたいです。

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気になる治療法をチェック。

LOH症候群の原因は加齢とストレスなので、不調を改善するためのメソッドも、“健康的な生活”として広く知られているようなライフスタイルへいまの状態を近づけることが第一です。適度な運動やバランスのよい食事、適切な減量に禁煙。また多量の飲酒を控え、有酸素運動や日光浴、十分な睡眠を心がけるといった内容が挙げられます。特に、運動と組み合わせて炭水化物やタンパク質あるいはアミノ酸を摂取することで、テストステロン値の上昇が報告されているとも言われていますね。

そのうえでテストステロンの値とLOH症候群の症状および徴候を評価し、男性ホルモンを直接補充する治療法もありますよ。パッチやジェルといった剤形のものも存在しますが、現在の日本ではテストステロンの筋肉内投与が一般的です。さらに、カウンセリングを重ねてメンタルのケアをすることも。より多くの人にとってのウェルネスの向上のため、男性更年期の存在もぜひ知っておいていただければと思います。

次回は、泌尿器科の観点から見た男性の不妊治療についてお話しします。

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乾将吾|Shogo Inui
いぬいクリニック院長、日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医・指導医

2009年、京都府立医科大学卒。卒業後、同泌尿器科に入局。府立医大病院のほか京都市内の複数の病院で勤務後、在宅医療にも従事し、より広範な医療現場を経験する。2022年「いぬいクリニック」を京都の烏丸御池・二条城エリアに開院。クリニックを診療の場としてだけでなく、人々が集うコミュニティへと発展させるべく、フラットスペース「いぬいのいこい」をクリニック2階に設けワークショップなどを開催。「医療と衣料」をかかげ、インスタグラム(@inoui___)で日々のコーディネートも公開中。

いぬいクリニック
www.inucli.com


【連載】知っておきたい泌尿器科の話
第1回:毎日の尿が教えてくれる、身体の不調とは?
第2回:女性は特に注意! 夏場の膀胱炎、予防のポイントは?
第3回:頻尿のお悩み、もしかして心の状態が原因かも?
第4回:40代以上の4割!? 女性に多い尿もれの実態とは。

text: Misaki Yamashita

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