Butterdrop Diary 『ロンドン郊外のカントリーライフ』

春のしずく、バーチ・ウォーター

海外に長く住んでいると、日本では当たり前に手に入るものを自分で作る術を嫌でも身につけることが増える。 近所に住む日本人たちと試行錯誤しながら作る納豆、塩麹、キムチ、コンブチャなど、もう自家製を始めて数年が経って、今ではイギリス生活の一部となった。

ちょうど去年のいまごろ、ポーランド人の友人アガタが驚きの自家製のブツを持ってきた。それは、自宅の庭で採取したバーチ・ウォーターことシラカバの樹液。

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毎年秋になると森で狩ってきたキノコやキクラゲのお裾分けをくれるアガタなのだが、さすがにボトルに入った透明な液体を渡された時は驚いた。 聞けばポーランドでの幼少時代、雪解けの季節になると家族で森に出かけては、バーチ・ウォーターを採取して飲むのが恒例だったそう。長い冬を越えて木々が新しい芽を出す時期に、幹を通じて巡り始める栄養分がたっぷり含まれた樹液。これを飲む事で健康やデトックスに、そして春を迎える小さな儀式として東欧や北欧など寒冷地域(アイヌの方々も!)で古くから息づいてきた習慣なのだと教えてくれた。

エルダーフラワーのコーディアルやワイルドガーリックのペーストを作る程度で自己満足していた私にとって、このシラカバ樹液はまさにネクストレベル。 彼女の説明によると幹に小さな穴を開けて、そこから滴り落ちる透明な液体を一晩かけてボトルに集めると言う。

さらに神秘的なのは、樹液が満ちる期間の窓が非常に小さくて、1年にたったの10日間くらいしか採取できないという事実。そんな、葉っぱに溜まった朝つゆを瓶に詰めるおとぎ話のようなプロセスに、ミーハーな私が触発されない訳がない。

私も超レア品、春のお目覚めしずくを採集したい!と、さっそく庭師さんにうちの敷地内にシラカバなんてあります・・・?と聞いてみると、

『五月の読書小屋のすぐ近くに生えているよ』と返ってきた。なんてことない、毎日見ていたあの木がそうだったとは。

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お見それしました 

早速Amazonで「Tree tapping kit(樹液採取キット)」なるものをゲットし、いざ実行!

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(スイカみたいに)木を叩いて樹液が満ちる時期を見極められる人もいるらしい。
採取の前にまず、シラカバの木に向かって二拍手一礼してから樹液をいただく許可を得る。どうやら大丈夫そうなので(任意)、恐る恐る小さな穴をドリルで開けてみると、すでに樹液が少しずつしたたり落ちてきた!
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その穴にチューブを差し込んでボトルを固定。

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翌日の朝にワクワクしながら見に行くと、ボトルには澄んだ「春のしずく」がたっぷりと貯まっている!

一口飲んでみると、まるで上質な湧き水のようにフレッシュでほんのりとした甘み。 汲みたての井戸水にハチミツを一滴垂らしたみたいな味、とでも言いましょうか。 

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見た目はお水

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採集後は木が傷まないように、穴に枝を差し込んでしっかり封印

感激してアガタにうちの白樺でも採集できたこと、木に感謝の気持ちを伝えてからバーチ・ウォーターを採った事を伝えると、

「私が育った80年代のポーランドは、まだ社会主義国だったから、『森のものはみんなのもの』と言う考え方が主流で、木に感謝するって発想はなかったかも。」と教えてくれた。

さらに「イギリスに来て、森や湖が個人の所有物だと知った時には本当にビックリしたよ」とも。

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自家製の麹やコンブチャの隣に、今だけ並んだ透明の春のしずく。毎朝おちょこでちびちびと、自然からのお裾分けに感謝しながら楽しむ日が続いています。

 

ギャンブル五月

ニューヨーク州立大学卒業後、ウェストヴィレッジのマグノリア・ベーカリー本店にて6年間腕を磨く。ロックバンドのメンバーとして2度の全米ツアー後、渡英。現在は、田園風景が広がるロンドン郊外はケント地方、『Garden of England(イギリスの庭)』に暮らす。著書に『ニューヨーク仕込みのカップケーキデコレーション』『イギリスから届いたカップケーキデコレーション』(SHC)。日本カップケーキアカデミー代表。
Instagram:@satskigamble

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