子育ても仕事も諦めない! 若きママ起業家たち。
Culture 2019.06.27
彼女たちは子育てとビジネスを同時にこなしている。燃え尽きることなく、すべてをやりこなすにはどうしたらよいだろうか? 3人の起業家ママからその秘訣を読み解く。
バーンアウトすることなく、すべてをやりこなすにはどうしたらよいだろうか? Photo : Getty Images
2018年3月19日、パリのボーマルシェ大通り。朝10時、ファッションデザイナーの彼女と待ち合わせをした。インタビューが始まると、その若い女性は、自身の新しいコレクション、そして彼女の店のコンセプトを紹介してくれた。
近くで聞こえていた赤ちゃん言葉が突如涙に変わった瞬間、彼女の言葉が止まった。彼女のオフィスにいる2カ月の娘はお腹が減ったのだ。小さな赤ちゃんは我慢などできるわけもない。インタビューを続けるか否か。もちろん授乳タイムになる。赤ちゃんの泣き声に驚くなんてことは歓迎されない。近年、より多くの若い女性が妊娠・育児をしながら、二足のわらじで起業家となっている。
世界的に起業家は男性が中心だ(フランス国内で女性の起業家は30%)が、女性起業家たちはより深い野心を持って、理想の人生を実現するために自らの歩む道を開拓している。多くの女性が自立しようと毎日奮闘している一方で、これらの若い母親たちが起業の一歩を踏み出す動機となるのは何だろうか?
リーダーシップのコーチであり『Guide de l’auto-coaching pour les femmes』(Pearson刊)の著書でもある、チャイン・ランズマン氏はこう説明する。
「彼女たちは自分が思い描く姿を描き、その強い信念に突き動かされているのです。出産直後は赤ちゃんのそばに四六時中いるので、突然赤ちゃんのそばを離れて一緒にいられなくなることは、非常に辛いものです。また、母親になるということは、長い間、心の中で思い描いてきたことを実現することでもあります」
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疲労を避ける
初めのうちは苦労するかもしれない。今回の調査でインタビューに答えてくれた若い女性たちを見てみると、子どもをそばにおいてビジネスをしても自分自身、また家族にとって時間の余裕ができるというわけではないことがわかった。
さらに、経済的な疑問点もある。正しい支払いをするまでに数年間かかる。最初のうちは家政婦やシッターを雇うのも難しいだろう。子どもの学校のお迎えは自分で行わなければいけないだろう。家事を夫婦均等に行うのは不可能に近い。よって外部の力を借りるためのお金は重要である。また身近な人からのサポートは200%必要だ。
今回のインタビューに答えてくれたすべての女性が、夫からの貴重なサポートなしでは目標を達成できないと回答している。彼女たちはジェットコースターのような感情の動き、社会生活における犠牲、そして責任の重さを抱えている。子どもがいながらビジネスをするということは、ペアで行うべき人生を選択することである。
ランズマン氏は若い母親たちが身体的に疲れていることを次のように指摘する。「燃え尽きるのを避けるために、休む方法を見つけることが不可欠です。多くの人が考えるように、この身体の疲労は仕事自体から来るものではなく、仕事に自分の身を置くことによって起こるのです」
パリにある厳選食材のセレクトショップ、ラ・メゾン・プリッソン(La Maison Plisson)の創業者であるデルフィーヌ・プリッソン氏は「私はときどき気を張りすぎてしまいます。そういう時は夜中に起きてしまうという、確固たるシグナルがあります。私はそのシグナルを大切にしています。マッサージに出かけたり、友達とランチをしたりして心身を回復させています」と言う。
「しっかり食事を摂ることは必須です。昼寝をしたり、寝そべって仕事をしたりしてもよいではありませんか」とランズマン氏は言う。仕事に最適な場所を見つけよう。キッチンテーブルを新たに購入したり、コワーキングスペースに入り浸ったり、カフェで集中したりしてみよう。
コーチであるランズマン氏は「3カ月間以上継続できる自分にあった働き方を模索してみましょう」と述べる。プライベートな時間とプロとしての時間の線引きは柔軟に行おう。
「問題解決の秘訣は自由になることです。そして罪悪感に終止符を打ち、自分で選択することです」とランズマン氏は言う。たとえば、優先事項ではないので家の片付けが行き届いていなくても気にしないようにする。または、子どもの送り迎えをする必要があるのだから、ビジネスはスローペースで行う。
自ら起業するということは、新しいものの考え方や姿勢を受け入れるということである。そうすれば、自分の人生に合ったスタイルで便利というわけだ。
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ヴァレンティーヌ・ゴシエの場合
自身の名前のファッションブランドの創業者、9歳のアルサスと16カ月のボニーの母親
自己紹介
「マルタン・マルジェラで数年間働いたのち、2007年に自身のブランドを立ち上げ、09年にパリのマレ地区に初のブティックを開店しました。10年に長男のアルサス、17年に長女のボニーを出産しました」
最も困難だったこと
「やらなければいけないことを取りまとめることが難しかったです。旅行、忙しい日々、家族の生活、子どもの食事の準備、家事……私は産休というものを取ったことはありません。仕事中、出産もお店でしようかと思ったくらいです。
心身ともに疲れ果てていました。ボニーを出産した後(彼女は母乳で育てました)、毎日オフィスに連れてきました。自分が社長だと、休憩はないし、仕事が傾かないようにと働き続けようとしてしまいます」
ポジティブな点
「母としての人生も仕事人としての人生も犠牲にしたくありませんでした。子どもたちは喜びと愛を与えてくれます。子どもたちが私を誇りに思ってくれるように、これからも引き続き頑張っていきたいです」
モットー
「自分のペースで仕事をしています。ベビーシッターは雇っていません。朝8時半から仕事を開始し、ランチ休憩を取ることなく、仕事を続けます。そして子どもを迎えに行きます。それから子どもたちが寝静まるまでは100%母親業に徹し、その後仕事へと戻ります。それが私のバランスなのです」
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セシル・ロデレールの場合
子ども服専門ファッションサイト「Smallable」の創業者、9歳のチャールズと2歳のニナの母親
自己紹介
「数年間、企業でマーケティングの仕事をした後、08年、ほかとは違うオリジナリティあふれる子どものためのコンセプトストア、という発想をもとに起業しました」
最も困難だったこと
「家族と友人のために時間を割くことは困難です。起業家になると、仕事で忙しく、社交的な付き合いも避けられません。精神的にも肉体的にも時間を制限することは難しいのです。最初の7年間はとても忙しく、現在でも急成長中の私の会社は多くのコミットメントを要します。もちろんいつも一緒にいられるとは限りませんが、子どもたちと過ごせる時は楽しく、心地よくいられるよう、100%の状態でありたいと思っています」
ポジティブな点
「自分のやっていることに情熱を持っています。朝は幸せな気分で起床し、仕事に向かい、社員と顔を合わせ、全力でプロジェクトに取り組みます。喜びを創造し、成長し続ける企業を立ち上げました。とても充足感があります」
モットー
「私は負けず嫌いで、逆境の時こそ信じられないほどの強さを発揮します。また、すべてにおいてバランスがとれた完璧で成功している女性といった理想像を打ち破りたかったのです。私たち女性はがっかりすることがあっても当然なのです。私たち女性は最善を尽くしていますし、男性に比べてはるかに多くのプレッシャーがあるということを認識しなければなりません」
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デルフィーヌ・プリッソンの場合
ラ・メゾン・プリッソンの創業者、18歳のリラ=ジェンヌ、10歳のケイコ、1歳のフランソワーズ、夫の子どもである17歳のマーティン、14歳のガストンの母親
自己紹介
「パリに食べることの喜びを伝えるお店を開くことを夢見ていました。前向きな気持ちで40歳を迎えました。夢を諦めてはいけないということを子どもたちに伝えたいということが原動力となっています」
最も困難だったこと
「罪悪感。とても優しい妻、最高のお母さん、模範的な上司、よい友人になるには時間が足りません。スケジュール管理のアプリと、子どもたちを帰宅後に世話してくれる素晴らしいベビーシッターのおかげで、ベストを尽くすことができています。私はエネルギーに満ちあふれています。これまで嵐をいくつも乗り越えてきました、必ずいつかは終わりを迎えますからね」
ポジティブな点
「人生を分かち合う5人の子どもたちに自分の価値観を伝えているという実感があります。人生を選択する勇気、前進する勇気を持って取り組むことの重要性、大胆さを持つことの大切さ、楽しむことを忘れないこと!」
モットー
「起業家には自由な時間がないと思っていました。しかし、夫と子ども、そして自分のための時間を限られた中で最大限楽しんでいます。(私はピラティスをしています)私は人生を徹底的に楽しんでいます。いっぱいおしゃべりを楽しんでいます。私の話をよく聞いてくれる夫や家族がいてくれて幸せです」
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texte : Marie-Sophie N'diaye (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi