相葉雅紀、涼やかな顔の奥に熱意を秘めて。

Culture 2022.09.27

柔らかい口調に、優しく静かな佇まい。クールな顔で、俳優からバラエティまで自然体にこなす。いつも涼やかな印象のある相葉雅紀だが、共演者や監督の言葉からは、作品に熱量を持ち、後輩の面倒を見る大人の男性の姿が浮かんできた。


長い間、喧噪に身を置いてきた人に会った時、自分の身の周りの賑やかさや煌びやかさを意識し、本人が誰よりも強くそれを発している場合があれば、逆に、周囲の騒がしさなど自分には無関係とばかり、驚くほど静かである人がいる。相葉雅紀は後者のタイプだと感じる。相手が年上であろうと年下であろうと柔らかい口調の敬語を使い、小声である。8年ぶりの主演映画となる『“それ”がいる森』の中田秀夫監督に、撮影中の相葉の印象深いエピソードを聞くと、「待ち時間の姿です」と返ってきた。

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「長ければ1時間、下手すれば2、3時間、撮影の準備を待ってもらうこともあるのですが、相葉さんは黙々と読書していたんですよ。僕が直接目撃したのは1、2回でしたけれど。読書をする俳優は相葉さんだけではないですが、クライマックスシーンのハードな状況の待ち時間でも、読書しているのがすごく印象に残っていて。ひょっとすると、それは相葉さんの集中力のキープの方法なのかな……と思うことがありました」

ハードボイルドやサスペンスの本を読むことが多いです。
加藤シゲアキからはサイン入りの本をもらって読みました。

まさにそのとおり、本屋に行くのが好きだと相葉は言う。

「書店で目に留まった本をランダムにピックアップすることもあれば、話題になっている本や興味のある本をポチることも多いですね。ジャンルは問わないけれど、ハードボイルドやサスペンスを選ぶことが多いかもしれない。先日、加藤シゲアキから、本人のサイン入りの文庫本と単行本をもらって読んだばかりです。彼、すごいですよね、時代に切り込んでいて。現場では何を読んでいたのかはもうすっかり覚えていないけれど、最近は村上龍さんの小説を何冊か読み直し、伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』や湊かなえさんの『告白』、宮部みゆきさんの『模倣犯』を読みました。小説を読んだ後、映画化されていることを知り、映像へ流れることもあります。『告白』の牛乳に“何か”を入れるシーンのように、フィクションとは思えないほどリアリティがある作品や、主人公を取り巻く状況が怖くなっていくものは心をえぐられますね。でも、それがおもしろい(笑)。『“それ”がいる森』も、まさにそんな映画です。みなさんがもし森の中で“それ”に出くわしてしまったら、もう逃げてください、とにかく全力で逃げてください(笑)」

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『“それ”がいる森』は、相葉にとって『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014年)以来、8年ぶりの主演映画となる。

前作では恋に恋する漫画家志望の書店員役だったが、本作では義父と折り合いが悪くなったため離婚を経て、ひとり、田舎で暮らし、農業を営む男・淳一役だ。初の父親役で、元妻と中学受験を巡って家を出た息子が3年ぶりに訪ねてくるところから幕を開ける。結婚時代は義父に強く自分の意見を主張せず、息子にも頭が上がらない。この役を引き受けた理由を聞いてみた。

「ホラーのジャンルに興味がありましたし、世界的なホラー映画の名匠である中田監督が“それ”をどう演出し、表現するのか好奇心もありました。現場ではスタッフ総出で、意外にもアナログなやり方で“それ”を演出するんだ、と思いましたね。でも、それ以上におもしろさを感じたのが、淳一の成長物語であること。離婚以来、息子と3年ぶりに一緒に暮らし始めて、父親としての責任感が徐々に湧いてくる。父親の自覚と責任感が芽生えるきっかけを明確に示したほうが、淳一という役が掴みやすいなと思ったので、監督に提案させていただきました」

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子育てにやや腰が引けていて、年下の担任教諭(松本穂香)にも低姿勢。得体のしれないパワーと戦う強い女性像が印象的な『リング』(1998年)とは対照的に、弱い父親が主役という観点は、中田監督のホラー映画のなかでも興味深い。加えて、明るく人の意見をなんでも受け止めるような相葉のパブリックイメージとはほど遠い役にも感じられる。ただ、相葉本人はパブリックイメージに対してはかなりフラットな姿勢だ。

「自分に対するパブリックイメージは、特に意識したことはないですね。もし、そういうものがあるのだとしたら、よい意味でいろんな局面で使っていきたいとは思いますが、それを壊したいと思っているわけでもありません。今回の淳一役もそこまで特徴の強いキャラクターではなく、わりとニュートラルなのかなと思いました。農家の役でしたが、『相葉マナブ』というテレビ番組で農家の方々に頻繁に会う機会があり、その仕事ぶりを間近で見てきたので、特に準備することもなく、自然と演じられましたね」

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僕の立場では、いま思っていることを聞いてあげたり、後輩くんたちの毒を抜いてあげたりすることもあるので。

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オーディションで淳一の息子役に選ばれたのは、ジャニーズ事務所に入所して1年足らずの上原剣心。初の映画出演で、技術が及ばない場面でリハーサルを繰り返した上原だが、「根性があるし、負けん気もハングリー精神も強い。言うことがないんですけれど、ただただ腐らずに一生懸命やっていってほしいなと思います」と、先達としての言葉をかける。逆に言うと、相葉自身も10代の頃からエンタメの世界に身を置く中で、腐りかけた時期があったのだろうか?

「自分を追い詰めるようなタイプではなかったから、あまり腐る状況にはならなかったけれど、いつそうなってもおかしくはない世界だと思います。思い詰めすぎず、ある程度、気持ちを解放することが大切なんじゃないかな。個人的には、先ほど言ったように読書の時間だったり、気の合う仲間たちとお酒を飲んだり、事務所の後輩くんたちとごはんを食べたり……頭の中を仕事だけではない状態にすることが大事なのかもしれないですね。僕の立場からすると、いま思っていることを聞いてあげたり、後輩くんの毒を抜いてあげたりすることもあります。同じ会社で同じようなことをやっているというだけで、やっぱり親近感があるし、僕もグループが違うとはいえ、先輩に同じことを感じてきましたから」

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ミドルエイジといわれる年代に突入しているが、いつまでも若々しい相葉。中田監督が言うように、贅肉ひとつない肉体をずっと維持してきたからこそ、“それ”から逃げる場面での疾走感に迫力が増す。しかし、いつまでも“相葉ちゃん”と呼ばれる年齢ではなく、静かな佇まいには年齢を重ねた大人の雰囲気が加わってきている。テレビドラマ「貴族探偵」の時には、恵まれた立場の人間だからこそできる役割、すなわち人助けなどについて語っていた相葉だが、いまはもっとさりげないことを考えているという。

「自分の役割とか、そんな偉そうなことは思ってもないですけれど、あの番組を観てよかった、映画を観てよかったと、応援してくれる、みなさんの人生をちょっとだけ味付けするスパイスのような存在になれたらと、いまは感じています」

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Masaki Aiba / 1982年、千葉県生まれ。1999年、嵐のメンバーとして「A・RA・SHI」でメジャーデビュー。2009年「マイガール」でドラマ初主演、21年「和田家の男たち」主演。「天才!志村どうぶつ園」「相葉マナブ」「VS 魂 グラデーション」など、バラエティ番組でも活躍。16年に「第67回 NHK紅白歌合戦」で初司会を務めた。
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『“それ”がいる森』
田舎町でひとり、農業に励む淳一。ある日、元妻と東京で暮らしているはずの息子がひとりで訪ねてくる。しばらく一緒に暮らすことになるが、その頃、近くの森では不可解な怪奇現象が立て続けに発生。住民の不審死や失踪事件も相次いでいた。“それ”と呼ばれる得体の知れない何かがもたらす恐怖を描いたホラーエンターテインメント。
●監督/中田秀夫
●出演/相葉雅紀、松本穂香、上原剣心、江口のりこほか
● 2022年、日本映画
● 107分 
●配給/松竹
●9月30日より、全国にて公開
©2022「“それ”がいる森」製作委員会
https://movies.shochiku.co.jp/soregairumori/


9月20日発売のフィガロジャポン11月号
では、相葉雅紀のファッションレポート6ページとともに、本インタビューを掲載しています。

*「フィガロジャポン」2022年11月号より抜粋

text: Yuka Kimbara

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