女性脚本家がドラマで描いてきた、時代時代の恋。 あのドラマの裏話も! 4人の名脚本家にインタビュー。 Vol.1青柳祐美子

Culture 2023.12.27

私たちの心をときめかせ、時に社会現象まで巻き起こしてきた日本の恋愛ドラマ。恋の物語はいかにして生まれ、どう変化したのか、第一線で活躍する女性脚本家4人に聞いた。

青柳祐美子|小さな世界を描く恋愛ドラマから、世界で通用する大きな物語へ。

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Yumiko Aoyagi/1995年、ドラマ「正義は勝つ」にて脚本家としてデビュー。若き恋愛ドラマの脚本名 士と呼ばれ、数々の作品に携わる。2005年の渡米 後は国外の脚本も多く手がけ、23年に大手エージ ェント、Creative Artists Agencyと契約を果たす。

1990年代当時、20代前半だった青柳祐美子が描く恋愛ドラマの世界観は日常生活の一角を彷彿させることが多かった。たとえば、タイトルどおり「理想の結婚」を目指すカップルの物語。若者は、さも自分のことだとブラウン管に映る作品に一喜一憂していた。

「90年代のドラマは男女の距離感が近く、手が届きそうな物語が多かったんです。壮大な夢物語は、視聴者がなかなか受け入れられなかったのかもしれません。だから私も自分の半径100m以内に起きたことを題材にしていました。友人から受けた恋愛相談や、自身の体験が多かったです」と青柳は振り返る。このエピソードから、彼女が手がける作品への親近感に納得。「ひとり暮らし」は、単身生活を始めた自身の体験が基に。「いちばんたいせつなひと」は、実在する異性の幼なじみと恋愛をしたらどうなるんだろうと想像を膨らませた。では大きな話題と共感を呼んだ不倫ドラマ「Sweet Season」はどのように作られたのだろう?

「プロデューサーから、不倫が純愛になるような脚本を書いてほしいとリクエストがあったんです。その頃、不倫ドラマが流行っていましたが、最終的に男女どちらかが苦しい思いをするとか、狂ってしまうというパターンが一般的。そこが疑問でした。不倫カップルが周囲のことを思いやるパターンがあってもいいのでは?と着想したドラマです」

以降も青柳は怒濤のごとく働き続ける。朝ドラ「こころ」を史上最年少の脚本家として書き終えた後、2005年に渡米を決意。国外作品の脚本を書くことに着手し、現在も日本とアメリカを行き来する生活が続いている。

「30年前から脚本を書いていますが、人生を10年ごとに総括しています。29歳、39歳......と10年単位で次のテーマを掲げます。仕事内容、居住地と課題はいろいろありますが、毎回アプローチを変えて次の10年の過ごし方を決める。その中に海外で脚本を書くという目標がありました」

身の周りにあることを見聞きして脚本を書いていた20代前半の頃とは何が変化したのだろうか。

「いまも昔も、ほかの作品を見て刺激を受けて奮起することは変わりません。ただ最近、アメリカと日本の5紙の新聞から物語のヒントを拾うようになりました。若い頃は、対自分や周囲の人間だったものが、対社会になったのかもしれません。台詞も昔は耳障りのいい、きれいなものを書こうとしていましたけど、いまは心が動く台詞を書くように心がけています。私がキャラクターに憑依して、追い込まれた時に生まれる台詞が物語を確実に動かしてくれるんです」

脚本家イコール書く人という概念は、国内ではある意味、自明の理。それらを覆して、青柳は自らメディアにアプローチを続けている。その様子はまるでトップセールスパーソン。脚本家として視座を高めた彼女は、停滞気味だと言われる日本のドラマが変わるサポートを始めている。

「国外のドラマは、日本と比べるとマンパワーが圧倒的に違います。脚本家も5〜6人がブレストし合ってアイデアを出していく。だからひとりでは決して思いつかない、スケールの大きなドラマが完成するんです」

その最初の試みが「DCU」で、ハリウッドと日本の放送局を繋いだ。その立役者が青柳だったというわけだ。

「『DCU』は日本のドラマを変えるための第一歩でした。恋愛ドラマも変わるのではないでしょうか。結婚がゴールと考えている人も減りましたから、時代劇の一環に恋愛があるようなつくりにするとか、方法は数多くある。恋愛ドラマ単体だけだと、受け入れられにくい時代なのかもしれません」

「理想の結婚」(1997年、TBS系列)
大滝勉(竹野内豊)と山田鞠(常盤貴子)カップルの遠距離恋愛と、理想の結婚へ向かう様子を描いたラブコメディ。両家のバトルも見もの。
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「ひとり暮らし」(1996年、TBS系列)
デパートの販売員として働く花淵美歩(常盤貴子)は単身生活を始める。初めての生活を舞台に生まれた、新谷高広(高橋克典)との恋、友人たちの関係などを色濃く映し出した。
DVD-BOX ¥20,900 製作著作・発売元:TBS 販売元:TCエンタテインメント

「いちばんたいせつなひと」(1997年、TBS系列)
結城美和(観月ありさ)は幼なじみの大沢紘平(香取慎吾)と久々に再会。 恋愛に発展することはないと思っていたが、次第に双方の心が揺れていく。
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「Sweet Season」(1998年、TBS系列)
旅行会社に勤務する藤谷真尋(松嶋 菜々子)と、上司の五嶋明良(椎名桔平)は不倫関係にある。真尋の妊娠を理由に妻へ離婚を切り出すが、受け入れてもらえず、最中に記憶喪失に。
DVD-BOX ¥20,680 発売元:TBS 販売元:ポニーキャニオン

「DCU Deep Crime Unit 〜手錠を持ったダイバー〜」(2022年、TBS系列)
海上保安庁に新設された、水中の事件や事故を追うDCU。隊長は新名正義(阿部寛)。彼の若きバディの瀬能陽生(横浜流星)にも試練が訪れる。


*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

text: Hisano Kobayashi illustration: Asami Hattori

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