女性脚本家がドラマで描いてきた、時代時代の恋。 あのドラマの裏話も! 4人の名脚本家にインタビュー。 Vol.4吉田恵里香

Culture 2023.12.30

私たちの心をときめかせ、時に社会現象まで巻き起こしてきた日本の恋愛ドラマ。恋の物語はいかにして生まれ、どう変化したのか、第一線で活躍する女性脚本家4人に聞いた。

吉田恵里香|視聴者と同じ視座で。時には泣きながら脚本を書くことも。

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Erika Yoshida/大学在学中から脚本家として活動を続け、2013年、スペシャルドラマ「恋するイヴ」 でデビュー。以来、テレビやアニメ、ラジオ、小説執筆と書く幅を広げる。現在、24年前期放送予定NHK連続テレビ小説「虎に翼」を執筆中。

娯楽が一気に奪われたコロナ禍で、話題作となった「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」、通称「チェリまほ」は、連続ドラマを経て映画化へ。恋愛感情や性欲を他人に対して感じることがない、アロマンティック・アセクシュアルを主人公にしたドラマ「恋せぬふたり」で、吉田恵里香は脚本家としての名誉である向田邦子賞を受賞した。異性愛に偏らない仕様、そして若き才能は目が離せない存在だ。

「印象深かった恋愛ドラマのひとつが『恋のチカラ』です。いくつか魅力はあるのですが、まずは"登場人物が皆、ダメな人"。主人公の籐子は仕事の経験不足と、おちゃらけキャラに甘んじるところがある、堤真一演じる貫井は自信過剰なエリートで世間知らず......と、あるあるが詰まっている。10代だった私からすると"おじさんと、おばさんが恋愛をしている"というのも新鮮で、格好よく見えました。この作品のようなドラマを書きたいと思って、脚本家になったんです」と吉田。思い入れのある恋愛ドラマは他にもある。大ファンだという坂元裕二が脚本を担当した「最高の離婚」だ。

「登場人物にクセのある人たちが揃った作品が好きなんです。永山瑛太演じるサラリーマンの濱崎光生はだいぶ偏屈で、もしあれが誰からも好かれる存在だったらおもしろくない。屈折した人たちが思い悩みながら人生を歩んでいくという姿がいいんですよ」

10代から夢見た脚本家となり、初めてプライムタイムで担当した恋愛ドラマが「花のち晴れ」。脚本を書き始めた当初、原作漫画はわずか4巻しか発行されていなかった。とはいえ、ここは脚本家としての手腕が問われるターン。繰り返し原作を読んで、想像を膨らませたり、削ったりを繰り返した。

「平野紫耀演じる神楽木が、ヒロインの江戸川音に突然バックハグをして『1分だけ(抱きしめさせて)』と言うシーン。原作にはあったけど、すごく迷って一度は脚本から削りました。私としては、1分とは言いながら、男性がいきなり女性に抱きつくことに疑問があったんです。でもプロデューサーから、このシーンを復活させたいとリクエストがありました。それならと、その前のシーンからまた物語を増やして脚本が出来上がりました。結果的には視聴者の心に残るいいシーンになりました」

俳優のインパクトのある演技や台詞は、余韻を残す。

「刺さる台詞を書きたいし、役者さんに丸投げはしたくないので、感情が動くシーンには台本に補足を記述します。人物が涙する場面は私もシーンを想像して、涙を流しながら脚本を書くことも(笑)。イメージのすり合わせが深みを与えると思っています」

吉田は自身の恋愛エピソードも聞かせてくれた。

「私は異性愛者ですけど、恋愛体質ではないかもしれません。子どもの頃から孤独への恐怖心が強いほうでした。夫と息子がいるいま、もう恋愛しなくていいんだという気持ちが多いです。不倫するくらいなら寝ていたいかなと」

脚本家の次世代を担うと期待が高まる吉田。LGBTQ関連の作品をヒットさせているだけに、今後の恋愛ドラマの意義を問われる位置に立つ。彼女が見据える、理想の恋愛ドラマの形とはどんなものだろうか?

「『チェリまほ』を特殊な恋愛モノではなく普通の恋愛モノとして観てほしいと思い書きました。『恋せぬふたり』もそうですが、ドラマを観たすべての人が『自分は取り残されている』と思わなければいいなと。同性愛も何もかも、垣根がない恋愛ドラマが理想です」

「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(2020年、テレビ東京系列)
安達清(赤楚衛二)は童貞で30歳を迎えた非モテ会社員。人の心が読める力を得て、同僚の黒沢優一(町田啓太)が自分を好きだと知ってしまう。
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「恋せぬふたり」(2022年、NHK総合)
アロマンティック・アセクシュアルの兒玉咲子(岸井ゆきの)と、高橋羽(高橋一生)が共同生活を始める。無性愛を周囲から理解されないふたりの心身が次第に疲れていくことに......
DVD 2枚組 ¥5,280 発行・販売元:NHK エンタープライズ ©2022 NHK

「恋のチカラ」(2002年、フジテレビ系列)
本宮籐子(深津絵里)は広告代理店から独立した貫井功太郎(堤真一)に引き抜かれるが、実は人違いだった。仕事なし、恋人なしの30歳の行方は?
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「最高の離婚」(2013年、フジテレビ系列)
偏屈な濱崎光生(永山瑛太)と子どもがほしい結夏(尾野真千子)。エステティシャンの上原灯里(真木よう子)と浮気男の諒(綾野剛)の2組が、結婚か離婚の選択に向かい合っていく。
Blu-ray BOX ¥31,020 DVD-BOX ¥2 5,080 発売元:フジテレビジョン 販売元:ポニーキャニオン ©2013 フジテレビ ジョン

「花のち晴れ 〜花男 Next Season〜」(2018年、TBS系列)
御曹司たちが通う英徳学園。しかし江戸川音(杉咲花)の実家は、稼業の倒産により大貧乏。学園を牛耳る神楽木晴(平野紫耀)は、音を認められないまま次第に恋心が芽生えていく。

 
*「フィガロジャポン」2023年11月号より抜粋

text: Hisano Kobayashi illustration: Asami Hattori

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